閉講式で行われた参加者の決意表明

「食品スーパーからインターネット販売事業に転換したが、苦戦していました。そんなとき、送付されたゼミナールのパンフに書かれた運営委員長の原田(政照)さんの言葉に引かれた。参加費、交通費合わせ10万円以上の出費は大きいが、出した分は元取るつもりでやってきました。知り合った受講者の皆さんといろいろな話ができたことが収穫」5年ほど前まで北陸で展開していた食品スーパーを閉鎖。安全・安心を軸に地元生産品の食品通販を手掛けている女性の言葉。

「ゼミナールは1年で最も一番大切な日。ゼミの終わった日が私にとって、1年の始まり」大手スーパーの店舗勤務の男性。

 これは第86回商業界ゼミナール(2月20日~22日)閉講式で行われた受講者による決意表明の言葉。運営委員長から当日指名され式の壇上で500人を超える受講者全員に向かって発せられた。

 先の大手スーパー勤務の男性は7年前が初参加。

「仕事で大きな壁にあたったとき、ゼミナールのことを知って参加してみたら、大きな衝撃を受けました」。

 以来、彼は毎年参加している。今年はどうしても業務のやりくりがつかず参加も難しい状況になったが、何とか仕事を終え、職場のある愛知から海浜幕張のホテル会場に直行。2日目深夜に会場ホテルに飛び込んだ。つまり最終日の最終講座2本のみを受講しに来ただけなのである。

 ただし、彼にとって、ゼミナールは単なる知識や情報収集の場ではない。冒頭のネット販売を手掛ける女性経営者も含み、大きな壁、悩みにぶつかったとき、突破口になるような気付きや発見、勇気を求める人たちが集い、交流する場にいることに意味があるのだ。毎年、受講生者の約半数が複数回または継続参加である理由もここにある。

連夜12時まで行う「語り合い集会」

 2月20日より開催された商業界ゼミナール。

 今年のテーマは“創意を尊びつつ、「商業界精神」を学ぼう”。3日間で20を超える講座が行われた。

 東急電鉄社長の野本弘之氏、商人舎の結城義晴氏らの特別講演はじめ、国内工場直結ブランド「ファクトリエ」を展開する山田敏夫氏、298円均一焼き鳥で知られる「鳥貴族」の大倉忠司氏などの企業経営者による講演はいずれも商業界精神の柱である“店は客のためにある”に通じる内容であった。企業経営者だけでなく、人不足対策、人材活性化などの危急の実務テーマについても講座、また編集長が商業界精神に通じる事例を紹介する講座も行われた。

 しかし、何よりもゼミナールを特徴づける企画が「語り合い集会」である。初日、2日目の夜、大宴会場での夕食を終えた受講生が会場外のロビーに設けられた50を超えるテーブルと椅子に各自座り、商売について「自身の考え」と「相手の考え」をぶつけ合うのだ。

 もちろん強制参加ではない。異業種、職位も異なる受講生同士だが、“客のためにある店”をどうするか、では思いは同じ。連夜150~200人が参加、夜12時まで開放された会場では時間いっぱいまで多くの受講生が語り合った。このゼミナールの意義は、技術的なことよりも商売の理念、やりがい、方向を確認、確信を得るための場であることを象徴する光景である。

 かつて、旅館で開催された時代は大部屋で車座による語り合いであったが、現在のホテル開催になった際、スタイルを変えつつも踏襲したものだ。

自由に気軽に気づきを生み出す「ワールドカフェ」式の原点

夕食後に行われる語り合い集会

 スクール形式のセミナーのように一方的に講師の話を聞くだけでなく、そこで語られたテーマやそれを元に自身の経験談や課題を参加者同士で共有するディスカッション手法に「ワールドカフェ」というものがある。1995年に米国で生み出されたもので4、5人ごとに1テーブルを設置、カフェのような雰囲気、茶菓子を交えながら、リラックスした気分で自然と会話が進む空間を設えるもの。

 結論や解決策を機能的に導き出すディスカッションではなく、オープンなやり取りで進めるので参加者各自の意見も言いやすく、新しい知識や気付きが生み出される。進め方もテーブルも30分程度でメンバーを入れかえたり、各テーブルに用意された模造紙に書き込んだりするなど、参加者全員がなるべく多くのアイデアを吸収、共有されるようになっている。

 思えば、1951年に産声を上げた商業界ゼミナールは第1回から車座による語り合い方式であった。旅館からホテル、畳からテーブルへと雰囲気と環境は変貌したが、「自身の考え」を持って、集まり、勉強し、語り合う「ワールドカフェ」に近い形を先取りしたともいえる。

 その形が変わらないからこそ、今もなお元気な商人が集まるのだろう。