三越伊勢丹ホールディングス(HD)は昨年4月に杉江俊彦氏が社長に就任。3月から新たな3カ年経営計画をスタートする。構造改革を進め収益体質を強化し、次の成長に向けた事業構造の転換に乗り出す。その具体的な施策はどうするのか。同社がもくろむデジタル化の中身など重要施策を杉江社長に聞いた。

(聞き手/『ファッション販売』編集長・西岡克)
photo/杉田容子
杉江俊彦(すぎえ としひこ)

 1961年2月15日東京都生まれ。83年3月慶應義塾大学法学部卒業後、4月伊勢丹(現三越伊勢丹)入社。本店家庭用品売場を振り出しに店舗運営担当、本店販売推進担当、婦人服飾雑貨の販売担当長などを経て2007年食品営業部長。09年執行役員。12年に三越伊勢丹HDの、13年に三越伊勢丹の取締役常務執行役員経営戦略本部長。16年両社の取締役専務執行役員。17年4月から両社の社長執行役員。趣味はギターなど楽器演奏、カヤックなどのアウトドアスポーツ、読書。

 ――足元の状況は。

 杉江:非常にいいです。特に新宿(伊勢丹新宿本店)、銀座(三越銀座店)、日本橋(三越日本橋本店)の基幹店や大都市の店はとても好調です。株高を背景に高額品がよく売れ、インバウンド需要も強く、気温の低下で衣料品系が動いており、この3つが重なって想定以上に売上げが取れています。

 逆にインバウンドや高額品などの影響を受けない地方店は前年をほぼ上回って悪くはないのですが基幹店ほどの伸びはありません。ただ支店は厳しいです。

売上げと面積のバランスを是正 衣料品は縮小し雑貨を拡大する

 ――来年度から始まる新中期経営計画における具体的な施策について聞きたい。基幹3店のリモデルは。

 杉江:基幹3店には長年手を付けてこられなかった課題があります。

 一つは顧客の関心というか売上げのシェアと面積のバランスが相当ずれてきていることです。具体的には衣料品の売上げが落ちてきて、雑貨や化粧品が増えています。このバランスの悪さを是正しなければなりません。

 もう一つは新しい売り方や見せ方が求められていることです。例えば化粧品では昔のアメリカの百貨店がつくった柱巻きに列を並べて通路で接客する販売方法が定着していますが、今のお客さまにはもう少しじっくりとカウンセリングを受けたいという要望があります。

 またかつて伊勢丹は新しい売り方として靴やハンドバッグといった雑貨を1階に全部下ろしました。ただ上のフロアから雑貨を全部抜いてしまったので、上の衣料品のフロアはハンガーだけが置いてあるような見た感じも買い方としても面白みがない売場になってしまっています。

 こうした今まで積み残してきた売上げと面積バランスの問題とか、特に衣料品や化粧品の売り方や見せ方など販売方法の問題が今まで手付かずになってしまっています。新宿と日本橋ではここに徹底的に手を入れていきたいと考えています。

 リモデルは新宿は20年の3月までに、日本橋は18年秋には完了する計画です。

 ――新宿本店の衣料品の面積を縮小し雑貨を拡大するというが、衣料品は何割くらいが適正なのか。

 杉江:極端に言うと婦人雑貨と婦人服の売上げは今ほぼイコールです。ただ展開フロアは婦人雑貨が1階と2階の靴売場部分、婦人服は2~4階で靴を除くと3フロア弱。つまり売上げはほぼ同じなのにフロアは1対3なので、相当是正が必要です。もちろん服の売り方は雑貨とは違ってある程度の面積を必要とするので1対1にはならないと思いますが。

 ――化粧品はいつ改装する。

 杉江:相手があるので交渉次第ですが、来年度中には着手し、少なくともこの1、2年で終わらせたいと思います。

 ――衣料品のリモデルの方向性は。

 杉江:先に述べたように今は面白みのない売場になっています。お客さまがわくわくするような世界観をつくってあげないと衣料品はなかなか売れないと思うのです。強いブランドは箱で世界観をつくれますが、平場やそれ以外のブランドは百貨店側が環境を整えたり、飲食やお客さまが買い回って楽しめるような衣料品以外のマーチャンダイジング(MD)を入れていく必要があります。

 また百貨店は通路にショップを張り付けていくという手法ですが、共通通路だとゾーンごとの特性が出しにくい。ゾーンごとに世界観をきっちりつくって、お客さまがゾーン内で好きなものを見て回れるようにしないといけないと思います。

 ――メンズ館にも手を付ける。

 杉江:一部手直ししたいと思います。例えば婦人と同様に雑貨と服のバランスが崩れているし、紳士靴はもっと大きなゾーンを作って、いろいろなサービス機能を盛り込んで、靴の世界観をしっかりつくらなければいけないと思います。

 ――新宿も日本橋も100億円を投資する大規模な改装になる。

 杉江:今その必要がありますし、投資をしても十分回収ができるはずです。

日本橋はラグジュアリーを充実 顧客の買い方に合わせた店に

 ――新宿は「ファッションの伊勢丹への回帰」を打ち出した。日本橋は「『エスタブリッシュ』×『上質』」とコンセプトを明確にした。日本橋のリモデルは。

 杉江:MDバランスや服の売り方など大きな考え方は新宿と同じです。

 新宿は最先端の品揃えやサービスをどんどん取り込んでいく使命があるのでよりMDに軸足を掛けた店にしていきます。

 一方、日本橋には定番をしっかりと吟味して買いたいというお客さまが多いので、例えば接客をするスペースやソファなどを増やしたり、顧客のラウンジを充実させたりといった買い方に合った店づくりをしていきたいと思います。MDはラグジュアリー系のブランドの品揃えを増やすなど定番的な安心感のあるものを徹底的に並べていきます。

 ――得意客向けの会員制サロンを作る。

 杉江:航空会社のラウンジと一緒で、年間購入額が多い方に入っていただいて、簡単な飲食ができ、お休みもできるというようなものを作れればと思っています。

 ――銀座は表立ったリモデルはしない。

 杉江:手直しはします。銀座は対象客を来街される日本人と外国人に設定していますが、晴海地区に住み始めたニューファミリーも対象に加えるなどやや中途半端になっています。だから割り切って来街される方に徹底してサービスや商品を特化していきます。

 ――支店と地方店の改革は。

 杉江:地方店は立地と競合が店ごとに異なるので、全部個別に考えています。

 例えば同じ四国でも高松三越は市内に百貨店がそこだけなので、百貨店業態を守りながらお客さまの関心に対してMDバランスや内容を修正していけばいい。

 一方、松山三越はすごく強い競合(編集部注・いよてつ髙島屋)がある。そこで一番店にはなれなくても街に必要な店舗になるにはどうするのかと全く違う観点で考えなければいけないのです。

 ――地方店よりも支店が苦戦している。伊勢丹府中店や同相模原店はどうする。

 杉江:百貨店スタイルにこだわらずに街に必要な機能に変えていきます。

 府中も相模原も新宿まで約20分、30分と近い。ここで新宿のミニモデルをつくっても駄目なので、デイリーに特化する店づくりにしていきます。専門店の導入も視野に入れます。一方、伊勢丹立川店と同浦和店は百貨店スタイルを守りながら、今のお客さまに合わせていきます。

 ――3月に伊勢丹松戸店を閉鎖する。今後はさらなる撤退もないわけではない。

 杉江:ないわけではないですね。各店には「とにかく生き残るための策を出してくれ」と言っています。それを議論した上でトライアルをして、それでも駄目だったら閉店することもあります。

 ――衣料品の改革について。衣料品を巡る環境はこれからどうなる。

 杉江:そんなに良くはならないと思っています。大事なことは百貨店とアパレルメーカーがウィンウィンの関係をつくることです。例えば静岡伊勢丹ではある1社のブランドだけ集めるような区画を作って成功しています。すると販売効率が飛躍的に良くなって、順調に売れるようになった。今まで百貨店とアパレルがばらばらにやっていたのを手を組むことで無駄をなくし、今まで以上に価格を下げて、百貨店とアパレルを合わせた収益構造をできるだけユニクロのようなSPA(製造小売業)に近づけていこうと。これから皆さんと真剣に話していきます。

 ――SPAと仕入れの割合は。

 杉江:百貨店は基本的には仕入れだと思っています。そのときに一番いい商品をきちんとそろえるのが百貨店の使命です。SPAはスパイス的に独自性を出していく部分であり、深入りはしません。ただ仕入れ構造改革の中でノウハウが蓄積され成功事例が出てきているのも事実なので、「BPQC」と「ナンバートゥエンティワン」「クロージング イセタンミツコシ」については百貨店内だけでなく外部にも出店していきたいと思います。