鈴木敏文氏は歴代の会長の一人として登場した(日本チェーンストア協会「協会設立50周年・平成30年新年賀詞交歓パーティー」)

 第11回は、「自動発注」がテーマです。

 皆さん、「自動発注」という言葉を普段の実務でも耳にしたりしますか?

「発注力」の精度が低いと大変なことになる

 小売業における自動発注システム導入の目的は「生産性の向上」に尽きます。

 しかし、小売業にとって、「発注」はとても大切なものなのです。セブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOだった鈴木敏文氏は常々「発注力こそが店舗競争力の源泉だ」と話されていました。

 小売業にとって、「発注」するということは、取引(交換価値)にあたります。取引により、メーカー、卸から財の交換を通じ、所有権が小売り側に移転します。しかし、小売企業は移転した財をお客さまに購入いただかない限り在庫のままです。在庫の状態が長引くと、運転資金不足に陥り、卸への支払いが滞り、信用力が低下し、財が不良債権化し、手形が不渡りになり、最終的には倒産の憂き目に合うなんてことにもなりかねません。それほど発注は大切なものなのです。

自動発注は便利だが、大きな弱点がある

 現在、ICT、AIの急速な普及に伴い、小売業では従業員に任されていた「経験」と「勘」に基づくアナログ的な発注から、過去の販売実績や商圏内の顧客データ、在庫データ等を加味した定量データに基づくAIによる「自動発注」へとシフトし始めています。その結果、グロサリー(加工食品)を中心に、適正な品揃え、在庫削減、販売オポチュニティのさらなる向上等に効果的で、生産性自体も上がっています。

 しかし、自動発注にも弱点はあります。それは「従業員が考えなくなる」という問題です(この点については、この連載で何度か指摘をしています)。

 自動発注は便利なシステムです。これまで従業員にとっての発注行為はかなり神経を使う頭脳労働で、商圏の状況やお客さまの購買特性、商品の入荷タイミング、地域独自のイベント情報等を総合的に分析し、どれぐらいの量を発注すれば、売上げ、収益を最大化できるかを考えるトレーニングでした。

 この力こそが「仮説検証力」で、その根源が「発注力」なのです。

好調企業は「店舗従業員の考える力」にこだわっている

 今、好調な小売業は、この「発注力」を重視しています。例えば、スーパーマーケットのヤオコーでは、ID-POS、自動発注システムの導入後も、生産性向上だけに目を向けず、店舗従業員の考える力を付けることにこだわっています。

 そのため、「発注力」を強化するために、あえて、店舗ではID-POSの機能を絞り、自動発注も主にグロサリーと日配品だけに留めています。

 彼らにとって生命線である生鮮、惣菜はいまだに従業員が顧客の購買状況を自分の目で確かめ、仮説検証した上で発注するアナログ発注にこだわっており、「仮説検証力」を磨き上げています。要は、品揃えにおいて、生産性(効率)とお客さまのニーズ(効果)のバランスなのです。

ヤオコーの「2:8」の法則の意味

 ヤオコーには、「2:8」の法則という考え方があります。2割は「店舗従業員への権限委譲」、8割は「仕組み(チェーンオペレーション)」です。

 今後、小売業の人材採用難を考えると、自動発注化の流れは確実に進むでしょうが、小売業は「人」が全ての産業です。その「人」をコストとして捉えるのではなく、育てる「投資対象」と捉えることが大切です。

 そう考えると、自動発注による生産性向上だけを追求するのは浅はかな考え方といえそうです。物事にはバランスが必要なわけで、全てをAIや自動発注に置き換えてはならないのです。

自動発注でできた時間をサービス品質の向上に役立てる

 小売業は、店舗で「顧客視点」に基づく「品揃え」や「棚割り」がきちんと実現できていれば、顧客にとって買物が楽しく、便利と思ってもらえる存在であり続けられるはずです。

 今後、オムニチャネル時代になる中、リアル店舗での「買物の快楽性」がますます重視されるようになります。そうした店舗内環境の実現のためにも、単に生産性を高めるためだけの自動発注に留まらず、自動発注でできた従業員の貴重な時間を顧客への付加価値提案(サービス)に振り向けることも重要です。

 それこそが、最終的にはストア・ロイヤルティの向上、企業とのエンゲージメント強化へとつながります。

 今、小売業に求められていることは、「場」(店舗、スマホ上のアプリ)を使って「顧客経験価値(Customer Experience)=サービス品質」を、いかに顧客と一緒に共創できるかにかかっています。

(学習院大学 経済経営研究所 客員所員 中見真也)