「個店経営か、チェーンストア経営か」については、多くの誤解を含みつつも議論があります。わが国に特有の小売業経営に関する古くて新しい問題です。

 2015年ごろから、大手流通企業がGMS(総合スーパー)の業績不振から脱する目的で「脱チェーンストア」を宣言したのは多くの方の記憶に新しいでしょう。それらが一般にはチェーントストアの経営法を否定し、個店経営への回帰を呼びかけたとされているのです。全国1万8000店と1000m2以上の大型店では最も店舗数が多い業態であるスーパーマーケット(SM)でも、個店経営への回帰を言う経営者も散見します。

 論文調ではさっと読むのが難しくなるので、今回はQ&Aの形式とします。小売業への就職を希望している女子大4年生の矢内千秋(ちあき)さんが、筆者に質問する方法で進めましょう。編集部も司会役で登場します。場所は商業界の3階クラブ室です。

ウォルマートも全国画一的な品揃えはしていない

 編集部:今日は、対照されることが多い個店経営とチェーンストア経営について一番基礎的なこと、本質的なことから話し合っていただきたいと思っています。画一的な品揃えのチェーンストアでは地域対応が難しい。このため、全員参加の個店経営に回帰するとされていますが、この点についてはいかがでしょうか。

 吉田:チェーンストアには専門化(スペシャリゼーション)という経営原則があります。チェーンストアの組織の特徴は 1「専門的な知識と技術を持つ人が仕事を分業し合う」、2「個人が成果責任を負う」ことにあります。成果責任を負うには仕事の範囲が狭くなければならない。そのため、分業を行うのです。

 チェーンストアでは、本部の商品部が店舗の品揃え(技術用語ではプラノグラム)をつくります。商品部は商品について最もよく知っており、プラノグラムづくりの技術が店長や店舗の売場担当よりも高いとされる人たちの部署でなければなりません(このため、技術訓練を受ける必要があります)。これは米国では多店舗経営の中で店舗の売場担当や店長には最適なプラノグラムがつくれなかったという経験則があったからです。

 しかし、実際はどうかというと、300店舗あるチェーンの商品部も時間的な問題から全店舗分のプラノグラムをつくることはできません。プラノグラムは4週に1回は陳列品目の5%から10%くらいを変更して行かねばならないからです。

 しかも、日本の場合は米国よりも季節の変化がはるかに激しく、売れ筋品目も変わっていきます。このため、13週(3カ月)に1回はプラノグラムの大幅修正が必要になっています(大手メーカーの新商品が発表されるサイクルでもほぼ3カ月が多い)。品揃えで変化すべきものを含むと、商品部の部門担当がつくれるプラノグラムは3種類から最大でも5種類くらいが実務上の限界でしょう。

 季節変化が日本より小さいウォルマートの1人のバイヤー(カテゴリーマネジャーといいます)の担当品目は平均で400品目です。売場の広さでは約15坪で、棚(ゴンドラ)で15本です。ウォルマートでは本部の400人のカテゴリーマネジャーが棚の売上高と荒利益の責任を負っています。

 こうした前提の中で本部のバイヤーが店舗の品揃えを行うことから、「チェーンストアは全国画一的な品揃えを行い、画一的な品揃えでは地域の顧客の嗜好に合わない商品も陳列されることが多い」と言われるのでしょう。

 千秋:チェーンストアの国とされる米国では全店が画一的な品揃えなのですか。

 吉田:売上げ規模が最大で、全米の店舗数が約5000店のウォルマートを例に言うと、部門の商品構成のうち約80%が本部商品部によるプラノグラムであり、20%くらいがストアマネジャー、店次長、あるいは部門の売場担当の「品揃え起案」(Want Slip:商品要求伝票の意味)を元にした陳列です。

 店舗側が本部に陳列商品の要請(Want Slip)を行うと、本部の部門商品担当が要求された商品を個店に展示する地域対応を行います(完全に個店ではなく、数百店に共通のことが多いでしょう)。チェーンストアであるウォルマートも実証的にいえば、全国画一的な品揃えは行っていないのです。この「本部品揃え80%、個店品揃え20%」は経験的なもので、結果的にこうなったわけです。

 逆に、個店品揃えといっても、実際にプラグラムをつくってみれば分かりますが、100%商品が違うということは同じ会社で業態が同じ場合はあり得ません。80%が共通、20%が地域対応が個店品揃えの正体といえるでしょう。

 千秋:じゃあ、ウォルマートではチェーンストアでも地域対応しているんですね。それならなぜ、イトーヨーカ堂やユニーがチェーンストアの経営法では品揃えの地域対応はできないと言っているのでしょうか。

 吉田:1970年代のシアーズ、80年代から90年代のKマートのイメージがあるんじゃないかと思います。Kマートはウォルマートに追い抜かれる90年以前は大型店の店舗数と売上高でシアーズを追い抜き、年商が世界ナンバーワンのチェーンストアでした。わが国の経営者の多くは60歳代上ですが、この世代はこの時代に米国のチェーンストアを勉強していた層なのです。