第10回は、「IoTと小売業の革新」です。

 皆さん、IoTという言葉を最近、よく耳にしませんか?

 ちなみに、ICTとIoTは違うので、要注意です。

IoTの特徴は「ICT×モノ×人」の重層構造

 ここで簡単に前回の復習です。

 ICT(情報通信技術)は「情報技術と通信技術の融合」のことで「いつでも、どこでも、誰とでもコミュニケーションを可能にする、ユキビタス性が特徴」でしたね。

 これに対して、IoTは「Internet of things」の略で、「モノがインターネットにつながる」ことを指します。

 このIoT、「ICT×モノ×人」の重層構造が特徴です。つまり、IoTはICTの普及を前提に、従来、スタンドアローンだったモノが情報通信ネットワーク(インターネット)につながり、それらをうまく活用する人がいて初めて成り立つ概念なのです。

 日本のサービス・マーケティングの第一人者である、関西大学商学部 西岡健一教授は、「IoTは、あらゆるモノにICT、マイクロチップ、ソフトウェア、そして、通信装置が埋め込まれており、それにセンサーを備え付け、新たな能力が発揮できること」と定義しています。

 現在、IoTが使われている製品にはPC、タブレット、スマートフォン等の情報家電に加え、日用品、白物家電、自動車、建物、建設機器(ブルドーザー等)、電力管理用のスマートメーターなどがあります。われわれが日常生活で使うモノでも多岐に渡っています。

利点は大きいが、サイバーテロの危険も

 IoTにはメリットとデメリットがあります。

 メリットですが、企業にとっては「バイアスのかからない顧客の生活上の情報が入手できること」が挙げられます。

 デメリットは「大切な顧客のプライベートな情報が流出しかねないこと」。すなわち、セキュリティ上の問題、サイバーテロの危険性があるということで、この点には十分な対策が必要になります。

顧客ニーズなどを吸い上げる力が弱まるリスクも

 今日のお客さまは、スマートフォンやWi-Fiの普及に伴い、常時インターネットにつながった状態で来店します。

 小売企業は、そうしたお客さまに対して、無線LANやBeacon、RFID等のIoT技術を介して接触をしています。

 このおかげで、お客さまの動線(移動、停止)や位置が正確に把握できるようになり、これに過去の購買履歴データ等を加味することで、スマートフォンのアプリ等を通じてお客さまに有益な情報を提供できるようになりました(これを「リコメンデーション」といいます)。

 その反面、IoT化の弊害として、店舗従業員が便利なIoTに頼るがゆえに、小売企業として大切な「顧客視点」を失い、顧客のニーズや不満を吸い上げる力が弱まるリスクが考えられます。

「カスタマージャーニー」の概念が生まれた

 このIoT、小売企業にとってはサービス・マーケティングの視点を持つことも重要です。

 サービス・マーケティングとは、「サービス商品(無形財)が顧客によって消費され、顧客にとって最大限のサービス価値が発生するような仕組み作り(近藤 1997)」のことです。

 なぜ小売業がこの視点を持つことが重要かというと、従来、小売業では商品を仕入れ(品揃え)、店舗でそれを適正価格で販売するという経済学的な取引行為(交換価値)が中心でした。しかし、商品(スタンドアローン)にRFID等を付け、インターネットに常時接続されるようになると、それが買物の利便性を高めるサービス価値を併せ持つ存在に進化するからです(利便性向上の例としては、どの棚に探している商品が置いてあるのかをスマホを通じ、随時教えてくれるなど)。

 その結果、これまでは「店舗という場」だけだったお客さまと小売企業の接点に「スマートフォン上のアプリという場」が加わり、両者において、価値共創(相互作用)を行うことが可能となったのです。

 これは「購買前(認知、検討)」と「購買時」に力点を置いてきた従来の消費者行動研究が、IoTの進展に伴い、「購買後(消費シーン)」も重要視し始めたことにも現れており、この消費者の購買行動全体を包括する概念を「カスタマージャーニー」と呼びます。

 つまり、IoTはカスタマージャーニーの可視化に一役買っているのです。