CSを理念に掲げるチェーンストアはたくさんありますが、その理念を行動化できている店舗はなかなかありません。理念の行動化が上手な企業はその背景が明快で、ブレていません。

『お客さま第一主義』を言うだけなら誰でもできる!

 お客さまのことを大事に思い、『お客さま第一主義』と書き上げた理念パネルを掲げるチェーンストア本部をよく見掛けます。経営者の思いはよく分かります。

 しかし、そこで働く社員はお客さまを『客』と呼び、仲間であるパートさんを『パート』と呼び捨て、わざわざ来社して下さったお取引先へぞんざいな対応をしたりして、経営者の思いが現場に浸透していない企業が多いですね。

 その理由は経営者の思いが具体的な行動として、現場の社員に伝わっていないからです。

具現化には『背景』が必要。店を構える意味は?

 理念として『野を越え、山を越え』という言葉を掲げている企業があります。この企業では『お客さまはありがたい』という思いを社員全員が共有するためにこの理念があります。

 その思いは創業時の経営者の体験からきています。『商売を始めた当初はリヤカーに仕入れた商品を乗せ、お客さまのところへ野を越え、山を越えて訪問し、買っていただいた。そのおかげで商売は成功し、店を構えることができた。すると今度はお客さまが野を超え、山を超えて来てくださる。本当にお客さまはありがたい』というものです。

 この思いはほとんどのチェーンストアの経営者に共通するものです。小売業はリヤカー商売から座売りとなりましたが、その経緯を体験している経営者は少なくなってきています。『店舗を構える』とはどういうことを意味するのか、今一度考えるべきでしょう。

理念を実現する行動が全社員に求められている

 この『お客さまはありがたい』という思いは、来店してくださったお客さまへのあいさつで実践されます。日常の「いらっしゃいませ」のあいさつ一つでも、『来店してくださってありがとうございます』の気持ちを込めて言うのです。決して機械的な「いらっしゃいませ」ではありません。

 お取引先への対応も同じです。『わざわざわが企業に来ていただいてありがとう』の気持ちを持って対応します。この行動はその対応する社員だけでなく、全社員が行うのです。受付の社員はもちろん、通路で行き交う社員までもがこの気持ちで対応します。

 携帯電話なんてないころ、私はあるチェーンストア本部でこんな経験をしました。商品部メンバーへのインタビューが終了し、受付周辺を見回していました。受付周辺の公衆電話には近隣タクシー会社の電話番号が張ってあるからです。

 すると、受付の女性が「タクシーをお呼びしましょうか?」と声を掛けてくれました。チェーンストアの本部でこの対応をしてもらったのは初めてで、大変感激したものです。

 このようなチェーンストアは、お客さまからの支持が高いだけでなく、お取引先からもいつも一番に考えていただける関係を構築できているのです。