②「PMQ」(元創方)

 次に紹介するのは香港島の中環(セントラル)に、2014年6月に開業した「PMQ」(元創方)だ。

 PMQとは「Police Married Quarter」(警察官家族寮)の略称であり、もともとこの施設は2007年までは香港警察の既婚者警察官舎として利用されていた建物を、商業施設としてコンバージョンしたものだ。 

 さらにさかのぼれば、このPMQのある場所は、香港がイギリスの植民地時代に優秀な香港の若者をイギリス式エリート教育によって植民地政策を推進する人材に育てるため、1862年に設立された香港初の公立の西洋式教育学校「中央書院」(後の皇仁書院【クイーンズカレッジ】)の跡地でもある。

 そのような歴史的な場所にあるPMQだが、現在では香港のマスターキーズ教育文化慈善財団と香港デザインセンターの主導のもと運営会社を設立し、香港の若手クリエイターがデザインする商品や、海外からセレクトしたデザイン性の高い商品を販売するテナントを中心に構成されている。

 施設はもともとハリウッド通り沿いに面したHollywood棟と、ストーントン通り沿いに面したStaunton棟の2棟に分かれていたが、その建物の間に新たにブリッジを作ることでより回遊性を高めている。

 店舗区画は全部で130区画ほどあり、元の居住区画をコンバージョンしている関係で、標準的な店舗面積は約40㎡(約13坪)前後と狭い。 参考までに1カ月の基本賃料は標準区画(約40㎡)で、1800HK$(約25万円)となっている。だが、借り手が香港出身の地元デザイナーであれば、基本賃料から20~50%の割引が受けられ、さらに販売する商品が「よりユニークである」とか「創造性に富んでいる」と運営会社に判断されれば、さらに5~10%程度の割引が受けられる。 このようなやや特殊なデベロッパーのテナント選定基準ゆえ、人気店と不人気店の差は歴然としており、結果としてテナントの入れ替わりはかなり激しいのが実情である。

 しかし、徐々にではあるが確実に人気店も出てきており、まさにデベロッパーが意図する、若手クリエイターの「インキュベート施設」としてのポジションを固めつつある。

 固有の事情はあるものの、今後の日本の新たな商業施設開発の参考事例として、視察されることをお勧めしたい。

2つの棟の間には新たに人工地盤を用いた連絡ブリッジが作られ、回遊性が強化されている。
人工地盤の上層部には屋上緑化が施されている。
テナントには香港の若手デザイナーのオリジナル商品を販売する店が多い。
あまり一般受けしないアーティスティックな商品を扱う店も多く、売上不振によるテナント入れ替えも多い。
数年前から日本のABCクッキングスタジオが香港にも進出し、多店舗展開中。一般的に外食比率が高い香港市民だが、近年高まる“健康志向”から自炊する若者も徐々に増えている。
店舗前の通路もワーキングスペースや展示スペースとして活用される。
皇仁書院(クイーンズカレッジ)の模型。第二次世界大戦中の日本占領下時代には日本軍の総司令部としても使用された。
中国における“近代革命の父”である孫文(左)と“マカオのカジノ王”ことローレンス・ホー(右)も皇仁書院で学んだエリートである。