試食は出し惜しみをしない! 無料でたっぷり提供!

 こうしたイベントでの試食でよくあるのは、ほんの少量をカップに入れて提供する形だが、マルコメタイランドでは試食だからといって出し惜しみはしない。たっぷりのボリュームを無料で提供している。

 山本氏がこの方法をとるのは、伊藤園時代に培ったノウハウがあるからだ。

 「最初の頃、イベントやサンプリング時には、カップに少しだけ無糖茶や微糖茶を入れて配布していましたが、少量ではお茶の良さが分かってもらえない。そこで、封を開けていないペットボトルを丸々1本渡すようにしました。量が多いので、自分がおいしいと思えば残りをほかの誰かに飲んでもらいたくなる。その効果も狙ったわけです」

 タイの緑茶市場は圧倒的に加糖タイプが優勢だ。無糖や微糖タイプは少数派だが、ヘルシー志向で甘さ控えめの飲料を好むタイ人が一定数いるのもまた事実。そしてヘルシー派は健康志向の高まりを受けて着々と増えつつある。

8食入りの「料亭の味」。イベントでは具材を選んでもらい、お客にたっぷりとみそ汁の味を体験してもらっている。

 この層を狙ってペットボトルのレギュラーサイズを惜しみなく配布した山本氏の戦略は見事に当たり、タイの飲料マーケットで伊藤園の緑茶は一定のポジションを確立するに至った。この経験を踏まえて編み出したのがみそ汁の試食スタイルだ。

 反応は上々。業務用に使いたいという問い合わせが増えている。「別のイベントでマルコメの存在を知ったという方から『うちが開催するイベントにも出てくれないか』という依頼もあります」と山本氏。長い目でビジネスユースの掘り起こしを図るこの方法は着実な効果を示している。

子供がおいしかったと自慢すると、大人が飲みたくなる

 マルコメタイランドでは「食育」にも熱心に取り組んでいる。ここ1年ほど、タイで食のワークショップやシェフ向けトレーニングプログラムなどを開発・提供している企業(Marimo5)と組んで、工業団地の社員食堂で食育プロモーションを実施。自分が普段、摂取している糖分量やカロリーの摂取量を把握し、食や健康への知識を深めるプログラムの中で、みそ汁を作って飲んでもらうワークショップを開き、みその味わい方、タイと日本とのみその違いについて理解を深める活動を繰り広げている。

 また、高校や大学などでもサンプリングや講義を実施している他、日本で行っているスーパーマーケットでのお客やバイヤー、店舗の従業員を対象にした食育教育も2018年中に開始できるよう現在環境整備中だ。

「地方の学校での食育プログラムは効果的です。地方だとみそ汁を飲んだことがない大人がまだ多いんですが、学校でみそ汁を飲んだ子供たちが『今日、学校でもらったみそ汁がおいしかった』と自慢すると、今度は大人がみそ汁を飲みたくなる(笑)。みそ汁の存在や良さを子供から知ることになるんですよ。大学や高校での食育プログラムは、流行に敏感な世代によってSNSや口コミを通してみそ汁に関して発信してもらえるのがメリット。これから若い世代の間で評判を広げ、その上の親の世代にもみそ汁の情報を広げていきたいと考えています。というのも、これまでイベントをやってきた経験から、大人だけのイベントよりも親を連れてくる子供のイベントの方が購入率が高くなる傾向があることが分かったからです」

 みそ汁はおいしい、みそ汁は身体に良い。そうした知識と体験を得たタイ人が増えれば、学食や会社、工場の社員食堂にみそ汁を導入してもらう確率が高まる。ローカルのレストランチェーンでの販路開拓に結び付く可能性も期待できる。多少時間はかかるとしても、みそ汁の体験機会や知識の提供がBtoBの拡張に結び付くわけだ。

試食、サンプリング、食育プログラムはコスパが良い

ジャパンエクスポや日本食フェアなどのイベントではブースを構えて、試食をふるまい、タイ人消費者との接点を増やしている。

 もっとも、地方の百貨店やショッピングモールで開催する日本食フェアは「まだ時期尚早」と山本氏は見る。

「日本食フェアは集客力がありますが、そこで人気があるのは和牛やカニなどの高級品。どかんと高い日本の食材はよく売れますが、日常的な食材であるみそへの注目度は低い。地方ではまだ日本食はハレの日の食なんです」

 展示会や日本食フェアでの試食やサンプリング、食育プログラム。経験値を上げながら何が受け、何が受けないのかを確認し、「最適な解」を模索する山本氏の取り組みはコストパフォーマンスとしては悪くない。こうした活動に擁する費用は1回につき数万バーツ(1バーツ=約3.5円)。テレビや新聞などメディアに広告を出せば何千万バーツものコストがかかることを考えれば割安だ。

大豆ミートの「ダイズラボ」シリーズ。ビーガン志向のタイ人にも将来的には受けそうな商材だ。

「この商品を欲しいと思ってもらえるか、買いに行ってもらえるか、売場に立ち寄ってくれるか、価格設定はちょうどいいか、食べてもらえるか、リピートしてくれそうか。マーケティングの必須要素はこれだけありますが、一度試食やワークショップを通して飲んで味を体験してもらえれば、これらを全て実現させることができる。意外かもしれませんが、マルコメは自分が思ったことをすぐに表現し実現できる会社。役員との距離も近いので、すぐに意見が通るんですよ。これからもできることは何でもやっていきます」

 バンコク中心部では、マクロビオティックやビーガン(動物製品の使用を行わない完全菜食主義)のレストランが増えつつある。マルコメのラインアップの1つ、ダイズラボ(肉の代用品として使える大豆の肉)も将来的には有望な商材といえるだろう。独自のマーケティング戦略でタイの市場を切り拓くマルコメの次の一手に期待したい。