マルコメタイランドのマーケティングディレクター、山本佳寛氏。

 タイ人がみそ汁に触れる機会を増やせ。

 そして、BtoBの売上げをアップせよ。

 本社から課せられたミッションを、ユニークなマーケティング視点と大胆な手法で着実に遂行している人物がいる。マルコメタイランドのマネージングダイレクターである山本佳寛氏だ。

効率の良いBtoBの強化ではなく、あえてBtoCに注力した

 タイにある日本料理店の数は約3000店。空前の日本食ブームの中、みそ汁の体験者は急速に増えている。だが、外で飲んだことはあっても家庭で作って飲んだことがあるタイ人となると少数派だ。

 キッチンがない部屋に住んでいるタイ人も珍しくない。外食や持ち帰りで食事を済ませることの多いタイ人にとってみそ汁はハレの日に外で飲むスープ料理の1つ。日常食とはほど遠い。

 家庭の中に入り込むことが難しい以上、タイでみその消費量を拡大する最も効果的な方法はBtoBの強化、つまり業務用ルートの開拓以外にないが、山本氏はあえて異なる道を選択した。BtoCのイベントを多数仕掛けることでタイ人消費者との接点を増やす方法だ。

「売上規模としては圧倒的に業務用が大きいのは確かなので、以前は私もBtoBの取り組みにウエートをおいていました。でも、今は違います。BtoCで接点を増やしつつBtoBにつなげる。この方法が一番効果的だと考えています」

 前職の伊藤園タイランド時代に、山本氏は甘い緑茶しか存在しなかったタイの飲料市場に無糖茶や微糖茶を投入し、見事に軌道にのせた。その実績を買われ、マルコメタイランドにヘッドハンティングされた山本氏が繰り広げる独自のマーケティング戦略を追ってみよう。

BtoCの中にBtoBがあると「業務用の決定権を持つ人たち」を狙う

 タイでマルコメのだし入りみそ「一休さん」が販売されたのは30年前。日本料理店がメニューとして提供しているみそ汁にはほぼ「一休さん」が使用されている。タイにおけるみその代名詞といってもいいだろう。

お湯を注ぐだけで簡単にみそ汁が楽しめる「料亭の味」の家庭への浸透を図り、ひいてはBtoBにつなげることが目標だ。

 日本料理店の増加とともに「一休さん」の売上げも伸びてきた。小売り向けに、お湯を注ぐだけで本格みそ汁が出来上がる「料亭の味」のペットボトルタイプやインスタント8食入りも販売している。2年前からは、コンビニでカップみそ汁の販売もスタートした。

 だが、みそ汁はまだ日常的な場所に食い込むところにまでは至っていない。日本食以外のレストラン、企業の社員食堂や学校、病院といった大規模な利用が見込めるチャネルでの開拓もまだ道半ばだ。

 売上げを伸ばすために、BtoBのチャネルを開拓するにはどうすればいいか。山本氏が出した答えは「業務用の決定権を持つ人たち」に効率的にアプローチする方法だった。

「BtoBの担当者も、一消費者の顔を持つ。基本はコンシューマーの一人ですから、BtoCの中にBtoBが入っているともいえます。そこであえてBtoCに特化することを決めました。例えば、日本の文化を紹介するジャパンエキスポやタイランドコミコンといった消費者向けイベントにブースを出して出展しますよね。会場に来ていただく方の中には、次のイベントのプランを計画しているビジネスマンもいるかもしれないし、工場の社員食堂で使う次のメニューを検討している担当者が来場しているかもしれない。BtoCのイベントを通して、業務用としてみそを使いたい人、使う可能性がある人との接点を持とうと考えたんです」

 現在、マルコメタイランドでは1カ月に1、2回、日本の食を扱うイベントに出展している。日本食ブームを受けてショッピングモールで頻繁に開催されている日本食フェアも出展場所の1つだ。

 こうしたイベントで同社は来場者にのりや豆腐、ワカメなどの具の種類を選んでもらい、積極的にみそ汁をふるまっている。

「日本食レストランでみそ汁を飲んだ経験がある人が非常に多いので、試食の反応はいいですね。ほとんどのタイ人はみそ汁が好きだと思います。でも作り方は知られていない。そこで、作り方を必ずお見せしています。カップにみそを入れてお湯を入れるだけですが、プロセスを知ってもらえば、『簡単に作れるんだ』と思ってもらえますからね」