もう一つの大きなリスクとして指摘しておきたいのが為替だ。小売価格に占める工賃のウエートは低価格になるにつれて大きくなるが、それ以上に影響してくるのが為替リスクだ。ここ一年ほどは1ドル110~112円で安定しているが、2015年に1ドル120円代の円安、前年の2014年までが101~102円の円高。短期間による為替の乱高下は為替予約による保険処置があるものの、小売価格にストレートに転嫁できなければ企業業績に大打撃を与えかねない。

▼用語解説
為替予約:貿易取引では、輸入者から輸出者へ商品代金の支払いが発生するが、その通貨は輸出国または輸入国の通貨、あるいは米ドルが使われる。しかし、為替レートは常に変動しているため、買契約のときに想定した外国通貨の為替レートが、実際に代金決済するときの為替レートと異なるケースがある。そうした為替の変動リスクを防ぐために、売買契約を結んだときに、代金決済時の先物為替を予約しておく方法。

原産国Aでの物流フローチャート(再掲)


 フロー図の黄色の枠で囲った物流加工とは、物流センターで行われる加工作業を指す。加工作業は多岐に渡るものの、主に検品、検針、仕上げ、袋詰め、ラベル・値札付け、セットやアソートメント(サイズ、カラーのセット組み)作業などがある。これらの作業も生産国で完結してしまえば、大幅なコストダウンになるのだが、それを行う上で管理と精度が問題となる。また、輸入後に発生・発覚した商品不具合については国内での補修・修理を余儀なくされる。こうしたアフターケアも物流加工に含まれてくる。

 先に述べたように、衣料品市場のデフレ感が拭えない現状では、商品のコストダウン目標は必達だ。小売り側でも店舗当たりの人件費を増やせない今、店舗で行う作業をいかに効率よく減らしていけるのかが鍵となる。文字通り、川上から川下まで取り組む前提で進めていかないことには、コストについても品質についても、安定したオペレーションは一朝一夕に完成するものではない。

衣料品だからこその「IT化の難しさ」

 衣料品物流において、在庫管理を簡便にしたり物流加工費を抑えるための対策は急務である。ここで、新たに生まれた最新テクノロジーと衣料品の特性による課題についてまとめてみたい。

 今、急速に注目され始めているのが、RFID(radio frequency identifier)技術を利用した電子タグだ。この電子タグの大きな特徴は、スキャンしなくても、情報を無線で受信できることだ。これによって得られるメリットとして、店頭在庫を含めたリアルタイムでの正確な商品在庫の掌握(実地棚卸しが不要)、店頭での盗難防止、レジ精算の自動化などが挙げられる。

 しかし、この技術は店舗にかかる作業の効率化が主であって、物流加工への関与は低い。そもそも、衣料品の物流加工の自動化は大変難しいと考えられる。その理由は、品種や素材の多様性への技術対応の難しさがあると思う。例えば検品作業で考えた場合、仕上がり寸法のチェック、生地汚れ、縫製パンクや縫い外(はず)れの発見、プリント位置などは、経験による目視に頼るところが大きい。また、商品購入後の洗濯による伸縮、斜行(編み地が斜めによってしまう現象)、色落ち、毛玉や強度の確認と検品項目の枚挙にいとまがない。

 衣料品専門企業として世界一の高収益を上げているインディテックスグループのZARAは、世界中で生産した商品を全て本社のあるスペインに集めて一元管理し、入荷後と出荷前に電子タグによる商品情報の確認を行って、世界7000店舗への週2回の配送を実現させている。また、世界中の店舗の売上げが本社に集まると同時に、翌日以降に必要な商品を必要量、発注する仕組みができている。スペイン国内に4カ所ある物流拠点は、週6日24時間3シフトで稼働して、各店から発注に応じた商品配送の手配は8時間で終わる。生産と販売をグローバルに展開していても、本社近くに、自前で巨大物流を作って管理する。この辺りにインディテックスの成功の秘訣が隠されているのかもしれない。ただし、日本国内にもZARAの倉庫は存在するようだ。日本のオンライン向けの対応が表向きのようだが、B品や売れ残り、持ち越し在庫にも当然、対応していると見られる。

衣料品のリサイクルはなかなか進まない

 最後にサステナビリティについて少し触れたい。衣料品のサステナビリティへの考え方にもいろいろ存在するが、ここでは衣料品のリサイクルの現状を紹介する。

▼用語解説
サステナビリティ:持続可能性を意味する。社会環境に配慮した生物的なシステムや資源の再利用等、その多様性と生産性を期限なく継続できる能力のことを指し、さらに、システムとして機能して持続可能な社会発展を目指す活動のこと。

 少し古い資料だが、平成23年の経済産業省の報告書によると、衣料品のリサイクル率は11.1%、リユース率は13.4%、リペア率は1.6%と合計して26.1%だ。なかなか推進されていかない理由の一つに、回収、処理、再利用の面でコストを要するということがある。また、有害物質を排出する恐れのある家電などと異なり、繊維の廃棄物は大きく社会問題化していないのも影響しているのかもしれない。

レンタルでファッションを楽しめるサービスも登場

 今後、衣料品の物流は、ますます多様化していくと予想する。今までは消費を前提に、効率の良さを探求するオペレーションを中心に考えられてきたが、これからはそれらに加えて、リサイクルやリユース、レンタル、個人所有する衣料品を預かるといった、新しい形の物流が増えていくのではないか。

 例えば、新しい発想によって起業して急速に業績を伸ばしている会社がある。ファッションレンタル企業の株式会社エアークローゼットだ。サービスを始めて2年目で登録会員数10万人、参画ブランド300以上、洋服在庫数10万点以上、流通総額37億円以上の急成長を遂げている。

 この会社の新しい発想とは、ファッションレンタルビジネスに、割安な定額制の料金プランを持ってきたところ。レギュラープラン(月額9800円)であればレンタル回数無制限で、返却期限はなく、返却時のクリーニングも不要という手軽さが受けている。事前に洋服の好みを伝えておき、専属スタイリストが服を選んで3着送られてくる。気に入らなければ何回でも交換可能というサービスは、入会を動機づける大きな説得材料となるだろう。

 気に入った商品は購入もできるという柔軟なオプションに加え、参画ブランドが多いのは消費者の嗜好を考えると心強い。この企業は、洋服を「所有」するという従来の観点から「使用」するという観点に重心を移し、費用対効果で考えると割安な料金プランでファッションレンタルサービスへの参加のハードルを下げ、現在、登録利用者数を伸ばしている。

 時代とともに「ファッション」の意味や価値も変わりつつある。消費者は無意識に便利な生活、豊かな生活を目指してライフスタイルを構築している。「ファッション」に向けた期待感や存在価値そのものが自然と変わる中で、ビジネス形態も変わっていかなければ、消費者との距離が遠のいてしまう。現在、そして近未来を見据えた「ファッション」の価値、役割を改めて問い直してみる必要がある。