ZARAの物流センター(『ファッション販売』2017年8月号より)

 

物流のおさらいと、「商流」とは何か?

 第1回、第2回と重複する部分もあるが、衣料品の流通を説明するにあたり、まず、物流についてシンプルにまとめてみよう。

 まず、経済の主要活動は「生産」「流通」「消費」の3部門に分けられ、「流通」は商流と物流、つまりカネの流れとモノの流れに分けられる(→第1回も参照)。

図1  経済には「生産」「流通」「消費」の3部門がある。

 
「物流」とは、「物的流通」の略で、商品が生産され小売店を経由して消費者に運ばれてくる一連のモノの流れを統合・体系化したもの。

図2 「流通」には「商流」と「物流」がある。「情報の流れ」もこの中に含める考え方もある。

 また、「ロジスティック」(戦略物流)という言葉もよく使われる。ロジスティックとは企業が高度な戦略性を持って、物流部門を中心としたビジネスプロセスの最適化を行うことを指す。「サプライチェーンマネジメント(SCM)」は「拡大されたロジスティック」という意味で、物流にとどまらず生産から消費にいたる企業のビジネスプロセス全体を管理し最適化するという経営手法だ(→第2回3ページ目も参照)。

 流通を構成する、物的流通の「物流」に対して、商的流通の「商流」とは、所有権を移す行為を指す。例えば、棚から気に入ったシャツを1枚選んでも、その段階ではシャツは自分の物にはならない。シャツをレジに持っていき、代金を支払って初めて自分のシャツとなる。この所有権を移す行為を「商的流通」と呼び、それを略して「商流」となる(商物一致)。

 一方、インターネットでシャツを買った場合は、シャツを選んで買物カゴに入れ、決済方法を選んだ段階で所有権は消費者に移る。選んだシャツは後日配達される。この場合、所有権とモノの流れが完全に分離することになる(商物分離)。

 従来、商流と物流は同じ道筋にあったが、インターネット販売に代表される現代のビジネスでは、商流と物流が区別されるケースが増えてくる。

衣料品物流の特徴は「ほとんどが輸入であること」

 日本国内で流通している衣料品のほとんどは輸入によるものだ。97%にも上る輸入比率を国別に見ていくと、中国が62.6%、次がベトナムで10.7%、インドネシアが4.1%と、中国製品が占めるウエートは高い(2016年日本繊維輸入組合より)。ピークだった2009年の79.5%ほどではないものの、依然、中国に頼るところは大きいといえる。

図3 原産国Aでの物流フローチャート

 では、なぜ中国ウエートが高いのだろうか。

 その理由は、中国の人件費の安さと、生産から店頭に並ぶまでのリードタイムの短さだ(図3)。トレンドの移り変わりの速さも衣料品の特徴の一つだけに、各社とも流行を見極めるために、発注から納品までの期間をなるべく縮めたい。読めない需要を予測する上で的中率を高めるために、直近の市場動向を見てから発注する方が、リスクが低いと考えられているためだ。

原産国が海外であることには「リスクがある」

図4 原産国Bでの物流フローチャート

 法定最低賃金が毎年5~8%上がっていく中国での生産は、なかなかデフレ脱却の進まない衣料品市場とはミスマッチな関係にある。一方、図4で取り上げたバングラデシュ、ベトナムなどの東南アジア方面の賃金は中国と比べて安い。製造業に携わる一般工員の賃金を、日本を100とすると、中国の大連16.8、青島18.7に対して、ベトナムのハノイで7.7、ホーチミンが8.6と中国の半額ほどだ。一国集中生産による政情リスクも含め、賃金の低い国での生産、物流オペレーションの開拓は現在も進んでいる。

▼用語解説
一国集中生産:商品を特定国に集中させて生産をすること。集中させて生産するとサプライチェーンマネジメントの面でメリットがある反面、生産国で「デモ」「クーデター」「金融不安」など予測不能な事態が生じてしまうと、商品供給に支障が生じるリスクがある(そういったリスクをカントリーリスクとも呼ぶ)。
原産国と生産国:材料となるものが作られた場合を原産国、製造・加工した国を生産国と区別する。衣料品の場合は一般的に「原産国」を使う。現在の衣料品の生産は複雑に多国間をまたぐケースが多いために、2006年に原産国表示決定マニュアルが作られた。


 しかし、低賃金な国にも、それなりのリスクは付きまとう。例えば、発展途上国では素材や付属品の産業が育っていないケースが多く、必要な資材を中国などから輸入する必要がある(図4)。当然、生産リードタイムは長くかかり、品質、納期管理も複雑に絡みあってくる。当初の中国生産でも見られたように、衣料品の品質安定には技術と経験が必要で、安定した取引量が保証できる取り組みを今日、明日で構築することは不可能だ。

 緑の青枠で囲った国際輸送部分には、よく使われる納期短縮のテクニックがある。それは輸送手段の空輸への切り替えだ。通常、衣料品の原価は海上輸送を前提として見積もり、生産リードタイムを設定している。しかし、何かしらの理由により納期が遅れる場合に取られる緊急措置が、空輸への輸送手段の変更だ。納期が遅れてしまう原因のほとんどは生産側の過失によるものなので、費用は工場との間に入るサプライヤーや商社が負担することが多い。

▼用語解説
海上輸送:コンテナ船(貨物船)による輸送方法、船積み量によって20、40、45フィートのコンテナサイズに分けられる。荷主が一つのコンテナを貸し切って大口貨物を運ぶ輸送方法をFCL(Full Container Loadの略)、また、複数の荷主が一つのコンテナに小口貨物を混載して運ぶLCL(Less than Container Loadの略)があり、輸送日数やコストが異なる。