第9回は、「ICTとサービス・イノベーション」です。

 皆さん、ICTという言葉を一度は耳にしたことがありますか?

 ICTは、「Information and Communication Technology」の略であり、「情報技術と通信技術の融合」のことです。

コインの表と裏の関係に近い

 まずは、「ICTとサービス・イノベーションの関係」について。

 ここでは日本を代表する2人のサービス・マーケティング研究者の主張を説明しておきましょう。

 神戸大学大学院経営学研究科 南知恵子教授は、「サービス・イノベーションにおいて、ICTの役割が注目される理由は、ICTはいつでも、どこでも、誰とでもコミュニケーションを可能にする、つまり、ユキビタス性にある」と述べています。また、関西大学商学部 西岡健一准教授は、「サービス領域におけるイノベーションとICTの関係は、コインの表と裏の関係に近い(Rust and Huang(2014))」と説明しています。

ICTはヒト・モノ・カネの経営資源を活性化させる

 次に、ICTとサービス・イノベーションの定義も理解しておきましょう。

 南・西岡(2014)、西岡(2015)は、「ICTは、企業の活動の中でそれ自体が何かを生み出す直接的な経営資源(リソース)ではなく、ヒト・モノ・カネといった経営資源(リソース)を活性化させるための鍵概念(イネーブラー)の役割を担っている」と定義付けています。

 さらに、南・西岡(2014)は、「サービス・イノベーションとは、サービス財やサービス取引がもっている製品にはない特性(生産と消費の同時性、企業と顧客との同時参加)をイノベーションに結びつける概念である」としています。

 つまり、マーケティング分野において、サービス・イノベーションは次の2つの視点で捉える必要があるわけです。

 1つは、顧客満足と生産性とのトレードオフを新技術(ICT)の活用で解消しようとする視点。もう1つは、顧客がICTを活用し、自身のビジネス上のメリットを享受し得る新市場を創造できるという視点です。

3つあるICTが果たす役割

 西岡(2015)は、ICTが果たす役割は以下の3つであると述べています。すなわち、①Facilitator(仲介)、②Inspire(触発)、③Platform(プラットフォーム)です。

 ①は、企業が顧客情報を収集する、あるいは顧客とのコミュニケーションを仲介する役割。②は、より大量で多様な情報を収集・分析する能力を促進する役割。③は、SNSやクラウドコンピューティングサービスのように、情報通信システム自身がサービス化することで、企業が新たなビジネスを生み出すための基盤としての役割(例:アマゾンのAWS)です。

サービスの生産性効率、付加価値サービスの創造に貢献

 ICTがサービス・イノベーション上、イネーブラーとしての役割を果たし得る理由は、「統合化」「協同化」「高度な情報処理」の3つの機能を持っているからで、それが適切に機能した結果、「ビジネス・プロセスの発展」と「革新的なビジネスシステムの創出」が可能となります。

 つまり、「ビジネス・プロセスの発展」とは、2社間における受発注システム導入の話だけではなく、SCM全体のマネジメントの話をしているのです。また、ICTシステムと他のシステム(例:ERP(業務統合型システム)やCRM(顧客関係管理システム))が統合され、その境界自体が拡張されることもあります。

 一方、「革新的なビジネスシステムの創出」とは、製品・サービスを提供する企業のサービスプロセスの新しい展開(企画や方法)を意図しています。

 実はICTは、サービスの生産性効率への貢献のみならず、顧客に対する付加価値サービスの創造にも貢献しているのです。