活用範囲は「店舗開発から品揃え見直し、DM改善など」と幅広い

 ここでは2つの事例を紹介する。

 1つ目は店舗開発の事例。お客さまセグメントを活用し、価値観や購買特徴を捉え、店舗コンセプトを作成。それを基に売場づくりをした事例だ。

 2つ目が商品と顧客のDNAをマッチングさせることでクーポンやダイレクトメールの配布対象者を選定した事例だ。

小売りA社「商圏特性を基に自社の弱点を改め、店舗を出店」

 A社では、お客さまニーズを明らかにする「顧客のDNA」を活用して、店舗開発を行った。この企業がまず行ったのは、自社の利用客にどのようなニーズを持つ人たちが多いかを把握するための「お客さまセグメントの作成」だった。

 これにより、「素材にこだわり、食事を一から手づくりする層に支持されている」一方で、「素材は気になるが、食事にはあまり手間をかけたくないという簡便層のニーズに応えられていない」ことが明らかになった。

 さらに、お客さまセグメントと出店エリアの商圏特性を分析したところ、その店舗では簡便層のポテンシャルが大きそうなことが判明。そこで、一定の簡便商品の品揃え強化も必要との判断に至り、それが店舗コンセプトに盛り込まれた。

 このコンセプトに基づき、店内の売場レイアウトから商品構成までをデータを活用して構築、例えば、簡便層向けに店舗入り口付近に惣菜コーナーを設置したり、カット野菜や冷凍食品の品揃えを充実させたりするなど、ターゲットとするお客さまを軸とした特徴的な売場づくりを実施した。

 出店後にはお客さまセグメントを軸とした検証を実施し、ターゲットに設定した層に支持されていることを確認。また、検証結果から導き出された課題に対して、売場レイアウトや商品構成の改善を行うことで、客単価アップにつなげることができている。

小売りB社「プロモーションターゲットを見付け、好む商品を提案」

 B社では、会員とのコミュニケーション手段として、店頭に加え、ダイレクトメールを活用していたが、ほぼ一律のメッセージを送信したり、経験と勘でお客さまが好みそうな商品を選定したりしており、結果が良かった場合も、悪かった場合も、その理由が分からないまま、日々運用している状態にあった。

 そこで、自社を利用するお客さまにどのようなニーズを持つ人たちが多いかを知るため、「顧客のDNA」を用いて、いくつかのお客さまセグメントを作成した。

 その結果、主にダイレクトメールを受け取っている多くのお客さまが「健康意識が高く、栄養のバランスのとれた食事を好むと同時に、活動的でもあるアクティブシニア層」であることが分かった。

 そこで彼らをプロモーションターゲットに設定。「商品のDNA」を用いて、彼らが好みそうな商品を選定していった。

 例えば、減塩しょうゆや海藻サラダといった健康とひも付けできそうな商品に加え、手づくりするニーズも高い層であるため、こだわりの基礎調味料なども選定していった。

 また「安全」「国産」といった言葉に反応しやすい層のため、こうしたキーワードを入れ込んだメッセージをダイレクトメールで配信。

 最終的に、反応率が従来と比べて平均3倍以上になるなど高い効果が出て、該当商品の購入率アップにも貢献するようになっている。

 なお、B社でも良い結果ばかりが出たわけではない。毎回、どのような層が反応したのか、狙った層は反応したのかをお客さまセグメントや「顧客のDNA」スコアを用いて検証することで、悪い結果が出た場合には「なぜ、駄目だったのか」を明らかにし、次の修正アクションに生かしている。

 このように検証し、次に生かすというサイクルを回すことで、データに裏付けされた経験値が蓄積されるとともに、取り組みの精度も向上していっている。

ビッグデータ活用のシーンは、まだまだ広がっている

 ここまでID-POSデータを活用し、実際の打ち手につなげている事例を紹介してきたが、これらの事例以外にも、お客さまを軸にしたデータ分析を具体的な打ち手につなげ、さらに効果検証することで、次の施策の改善を行うPDCAサイクルを回している事例も増えている。

 例えば、商品開発。小売企業のプライベート商品開発ではこれまで、お客さまがどのような価値観を背景に選んでいるのかを理解できず、ターゲットが不明瞭なまま商品開発を行っているケースがあった。

 こうした場合でも、自社のお客さまを分析し、「商品のDNA」と「顧客のDNA」を活用すれは、「商品のターゲット像」と「そのターゲットのニーズや価値観」を明らかにでき、これらを関係者全員(商品開発チームやメーカー等)と共有することで、「お客さまを軸とした商品開発」が行えるようになる。

 今回は具体例を通して、小売企業でのデータ活用方法をイメージしてもらうことができたと思う。ID-POSデータの分析や活用には、ここで紹介した以外にもさまざまな方法がある。どのような方法を選択するかは、自社の現状や課題に沿って検討してほしい。

<次回に向けて>組織、体制、インフラの構築方法を紹介します

 第4回では、データ分析からお客さま像を理解し、実際の打ち手につなげる方法を紹介した。PDCAサイクルを継続的に回していくことが、お客さまに選ばれる店づくりには不可欠だが、そのためには多様化するお客さまのことを、これまで以上に深く知ることが重要になる。

 小売業でのビッグデータ活用はまだ始まったばかりだ。まずは「はじめの一歩」を踏み出してほしい。自社のお客さまを深く知ることから始めれば、必ず、そこから自社の課題解決につながる打ち手が導き出せるはずだ。

 次回は、ビッグデータ活用のための組織、体制、インフラの構築方法を紹介する。

(株式会社インテージ 事業デザイン企画部 森 俊一)