1947年京都市生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、伊藤忠商事に入社。医療機器販売の子会社に出向し、倒産寸前のところを6年で売上げ20倍にする。1993年ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(現ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人)に入社。1999年から日本法人代表として9年間で売上げを大きく伸ばし、最高顧問を経て2008年カルビー社外取締役に就任。2009年6月からカルビー代表取締役会長兼CEO。(Photo/室川イサオ)

時代に即した新しいものをドンドン取り入れる先見性と勇気があり、市場を開拓して今までなかったマーケットをつくり出していく、そんな企業家たちを紹介する、連載「革新企業家たち」。第3回はカルビー会長兼CEOの松本晃さん。仕事の仕方から働く意味、成果の出し方、関心事にご自身の今後までを伺いました。

会社なんか来るな

 

 カルビーのオフィスフロアに入れていただいた。入り口を入ったところからフロア全体が見渡せ、扇形に柔らかな弧を描くように机が配置してある。

 出社するとまず、自分のIDカードをかざし、どこのエリアで仕事をしたいかを選ぶ。「一人で作業するのか」「コミュニケーションをとりながらしたいのか」「電話もかけず2時間みっちり集中するのか」。その3パターンの中から一つを選択すると、その日の席が決まる。そこで初めて、自分のロッカーに行き、PCを取り出して仕事を始めるのだ。

「会議なし、資料なし、フリーアドレスで決まった席もありません。もうずっとですから、特に珍しく思いませんが、僕の席だって個室じゃありません」(松本晃会長)

 

 窓を背に松本会長の右隣が社長の席、左隣が秘書の席である。「松本はほとんど会社におりません」と広報の方が教えてくれた。確かに、机の上には何も載っていない。

 会議する場所は、どこからでも声も聞こえるし、のぞくこともできる。文房具は個人で持たず、皆で共有すればよいと一カ所に集めてある。実に合理的なオフィスだ。

「完全在宅勤務もOKなんです」(松本会長)と言われて、一瞬、訳が分からなくなった。「一日も会社に来なくていいよということです」(同)。そこまで、許されるのかと驚いた。

「会社なんか来るなですよ。昔ならともかく、今はツールがそろっているので毎日オフィスに来る必要はない。求めているのは成果です」と、常々社員に言っているそうだ。

報・連・相なんて大嫌い

 でも、報告したり、連絡したり、相談したりしなくていいんだろうか。

「報・連・相、なんて大嫌い。サラリーマンになってから一度も言ったことがない言葉は「オレ、聞いてない」です。いちいち報告したり、連絡したり、相談されたりしなくていい。それだと社内のコミュニケーションが悪くなると言うけど、社内のコミュニケーションばかりやっていたらそれ以外のコミュニケーションがなくなってしまう。家族、友達、近所とコミュニケートしないと『何のために』と思いますよ。早く帰って家族や友人とコミュニケーションをとって豊かな生活を送る。本当に人生にとって価値のあることに時間を使う必要がある」と、ご自身も実践しているのである。

 

 ただ、重要なところは外さない。社員たちの希望者を募ってほぼ毎月、創業家である相談役の松尾雅彦さんと一緒に「松塾」という出張講座を全国で開催し、「勉強がいかに大切か」ということを一日かけて学ぶ。お二人がしゃべるのは、ほんの少しで、あとはグループワークで議論する。「これは趣味」と言うが、他の何よりも優先している。

 さらに、全体の方針や方向性を伝える「タウンホールミーティング」という会合も全国で開催する。だらだらと無駄な時間は使わないが、社員との距離を縮めるコツコツとした努力は欠かさないのだ。