サンヨネのPB開発には学ぶべき点が非常に多い

 次に、2次産業、3次産業側からの視点で、6次産業化を捉えてみましょう。

 そのために、日本における価格戦略、小売り、地域活性化研究の第一人者である学習院大学 経済学部 上田隆穂教授が執筆された「(株)サンヨネ(以下、サンヨネ)」のケース論文の内容を紹介します(サンヨネは愛知県豊橋市を拠点に商いをしているスーパーマーケットです)

 サンヨネの代表者である、三浦和雄氏は、自社の経営哲学として、「三方良し」「美味しく、新鮮、安全な食品をより安く」「インターナル・マーケティング」を重視しています。

 サンヨネでは、「ハートフルブランド」という生鮮を中心としたプライベートブランド(PB)を商品化しています。

 このPBを製造するにあたり、1次産業側である農業や畜産業の従事者たちに対し、先進的な農業、畜産に関する技術指導を行い、安全性、味のおいしさ、生産性向上を協同で実現。その結果、農業や畜産業の従事者の所得を向上させました。

お客さまのお褒めの声や叱咤激励を生産者と情報共有

 また、三浦氏は、1次産業の従事者にありがちな、「いいものであれば、多少高くても売れる」という幻想を打ち砕き、常に消費者視点を重視しています。FACEBOOKを活用し、お客さまの生の声(お褒め、叱咤激励)を農業や畜産業の従事者と共有化する仕組みも構築しています。この仕組みがあることで、ハートフルブランドは商品として日々、進化を続けています。

 特に、農業は天候に左右されやすい不安定なビジネスです。作物が豊作の場合は、従来では廃棄するか、低価格で販売するしか方法がありませんでした。

 しかし、三浦氏は、余剰となった生鮮でさえ、すぐに捨てたりはせず、安価で販売するのでもなく、2次産業者である食品加工メーカーに素材として持ち込み、付加価値を付けた加工食品(グロサリー)化し、それをサンヨネの店舗で、ハートフルブランドとして販売しているのです。その結果、農業や畜産業の従事者は、従来以上に所得を増やすことができただけでなく(経済的価値の向上)、自らの仕事に対するモチベーションが上がり、自身の仕事に対する誇りを持つことができたのです(社会的価値の向上)。

能力が足りない部分は他者の能力を借りる

 こうした1次産業者、2次産業者、3次産業者の相互連携の発想が6次産業化を推進していく上では非常に重要になります。

 1次産業の従事者が自らの地域で全てをやろうとせず、自身の能力(ケイパビリティ)が足りない部分は、2次産業者、3次産業者の能力を借りる発想が6次産業化には必要なのです(大芝 2015)。それは、オープンイノベーションの発想にも相通じます。

「ブランドに求めるもの」は住む地域で異なる

 

 最後に、6次産業化を捉える上で、大変興味深い示唆を与えてくれる同志社大学商学部 高橋広行准教授の「神戸産水産物の6次産業化を通じた地域ブランド化(2015)」の論文の内容をご紹介します。

 この論文で、高橋氏は、6次産業化を推進していく上で、住民を「神戸市民」「兵庫県民」「兵庫県民外」の3つに分け、各々が神戸産(ブランド)に対し、何を期待しているかを個別に分析し、各々の住民ニーズに見合った施策を実施する視点が重要であると述べています。

 結論からいうと、神戸市民は、神戸産の生鮮素材のことをよく知っており、購買できる場として商店街の直売所やマルシェの増加を求めています。

 一方、兵庫県民や兵庫県外の住民は、神戸産の生鮮素材の良さをあまりよく知らないため、その良さを知るための体験の場としてのレストランや、神戸を代表する有名シェフやパティシエによる試食体験イベント等の場を求めています。

小学校の給食も地域素材の良さを知る食育の場になる

 高橋氏は併せて、小学校の給食での神戸産生鮮素材を使った食育活動が神戸産の良さを知るきっかけとなり、将来に向けた6次産業化推進に貢献すると述べています。

 6次産業化とは、1次産業、2次産業、3次産業の従事者間のCSVを踏まえた、共生のマーケティングに他ならないのかもしれません。それを実現する際、「場と経験価値」「価値共創」の概念が重要となるわけです(三村 2011、中見2017)。 

(学習院大学 経済経営研究所 客員所員 中見真也)