「第86回 商業界ゼミナール」の開催が迫ってきた。

 同ゼミナールは600人を超える商人が集い、3日間の寝食をともにしながら、計20を超える講座に触れ、交流し、語り、学び合ういわば「商人の大勉強会」。本ゼミナールを企画し、運営に当たる運営委員と呼ばれる人々もまたこのゼミナールで学んできた「商人」である。本シリーズでは運営委員の皆さまに「商業界ゼミナールで得たもの」「商業界精神が教えてくれたこと」をテーマに語ってもらう。

 今回は群馬・高崎で電気工事業を営む勝山 敦さんに登場いただいた。

勝山 敦(かつやま あつし)●1966年群馬県生まれ。群馬大学卒業後、化学関連会社へ入社し、研究員に。91年に家業を継ぐことを決意し、電気関連の専門学校へ通う。その後、電気工事会社での修業を経て、95年に勝山電気工事へ入社。2008年より現職。

下心あって参加したが真剣な同友たちに衝撃

 私の会社は1988年に父が脱サラして設立した会社です。当初は売上げの全てが下請けで、元請けの業績や政治情勢の変化によって売上げが左右されました。通常、地域にある電気工事会社は建設会社などからの下請けで設備工事やメンテナンスを行うため、利益率が低いといわれます。

 そんな中で、商業界ゼミナールに出合ったのは、私が今の会社に入社して間もない20年ほど前、埼玉県で開催された商業界地方ゼミナールに友人から誘われたのがきっかけです。経営の勉強会は初めてでしたが、「きっといろんな会社の社長がたくさん来るから、仕事をもらえるかもしれない」という気持ちで参加しました。

 でも、会場へ行って他の参加者を見たとき、みんな本当に真剣に勉強していたので、下心があった自分がくだらない人間に思えました。「もっと人のために働かなければ、仕事をしている意味がない」と思うようになり、さらに学ぼうと高崎同友会に入会しました。

 その後は、全国規模で開催される商業界ゼミナール(本ゼミ)にも毎年欠かさず参加しています。本ゼミでは、日本中から集まるさまざまな業界のすごい人にたくさん会えるので、ワクワクします。多くの先輩や仲間たちから、「どうすればお客さまが笑顔になってくれるか」ということなど、商いの考え方を教えてもらいました。

 しかし残念ながら、孫請けをしている弊社では、お金の絡むことは全て元請け業者を通さなければできず、お客さまに喜んでいただける提案をしようとしても元請けから止められ、伝えられないことばかりでした。だから商業界で教えてもらっていることは、私たちの業界では通用しないと思っていました。

 お客さまは建設のプロではないので、私たちが工事をする部分がどうなっているかは分かりません。建設業界の中には「とにかく作って引き渡してしまえばいい」という考えを持っている人が私自身も含め、少なくないのかも知れません。

「お客が喜ぶ提案」で社員と共に乗り越えた危機

勝山電気の施工

 でも、そんな私の考えを一変させることが起きました。売上げの多くを占めていた公共工事主体の元請けからの受注が、政治情勢の変化で激減し、会社の経営が厳しくなったのです。

 私は思い切って、孫請けで出入りしていた大企業の担当者に「仕事をください」と頭を下げました。するとその担当者は、日頃から私たちの仕事ぶりを見込んでくれたのか、仕事を発注してくれるようになりました。

 この頃、私は社員を集めて自社の厳しい状況を話し、今後について泊り込みで会議をしたものです。「このままでは給料は2割カットするしかなく、それでも今まで通りに下請けを続けるのか、それともお客さまが喜ぶ方法に切り替えるのか、ただし給料維持の保証はできない」と一人一人に聞いた結果、全員の意思を確認して同社は大きく方向転換することを選択したのです。

 こうした考え方が社員全員に浸透するまでは約3年かかりました。それでもお客さまからの信頼は確実にあつくなり、徐々に売上げが上がって経営状況が改善されたように思います。利益も確保できるようになったため、従業員の給与も上げることができました。これも商業界ゼミナールに参加していること、そこで知り合った同友とのつながりが私の背中を押してくれたように思います。

 商業界の「商売十訓」は私にとっては「生きていくための基準」です。例えば「愛と真実で適正利潤を確保せよ」がありますが、利潤がなければ会社は回せません。これまで苦しい思いをしているので、痛感しています。

 商業界に出合う前の私は「どうすれば元請けになれるか」と考えていました。しかし、商業界で倉本長治主幹の「君の客は誰なんだ?」という言葉を先輩から学んでから「私のお客さまは誰なんだろう?」と考えるようになりました。

 これは同友の先輩から教わったことでもあります。先輩同友の豆腐店にうかがったとき、スーパーでの買物帰りのお年寄りが来店し、500円の豆腐を2丁買ったのです。スーパーにも豆腐はあるはずなのに、わざわざこの店の私にとっては高い豆腐を買いに来る人がいる。これを見て私は「価格ではなく価値を重視する人がいることに気付きました。商品やサービスの価値を喜んでもらえる企業になれれば何とかなるのではと思いました。

 私の会社でも現在ではお付き合いするお客さまを慎重に選んでいます。自分たちと共に喜び合えるお客さまと仕事をさせていただいています。直取引しているのは大手企業や行政など堅いところが多く、10年前ではとても考えられない状況です。お客さま方が喜んでくれる提案ができなければ、今の状況はなかったと思います。

 今では経営状況も良くなって、従業員の給与も上がり、ようやく私は「お客さまから喜んでもらうと、こうなるんだ」と実感しています。経営者だけが方針を切り替えることはすぐにできますが、社員みんなも同時に切り替わるわけではありません。業績が上がり、給与が上がってはじめて「お客さまから喜んでもらえる仕事こそ報われる」と思うようになった気がします。

 電気工事会社が同友会にいるのは珍しいかもしれませんが、商いは何でも同じです。モノでもサービスでも工事でも「お客さまが喜んでくれることをいかに提案できるか」だと思います。

※本記事は『商業界』2016年2月号に掲載されたものです。(文/長谷川敏子)

  • 企業名/(有)勝山電気工事
    本社/群馬県高崎市行力町301-1
    代表者/勝山 敦
    設立/1988年
    従業員数/11人