「第86回 商業界ゼミナール」の開催が迫ってきた。

 同ゼミナールは600人を超える商人が集い、3日間の寝食をともにしながら、計20を超える講座に触れ、交流し、語り、学び合ういわば「商人の大勉強会」。本ゼミナールを企画し、運営に当たる運営委員と呼ばれる人々もまたこのゼミナールで学んできた「商人」である。本シリーズでは運営委員の皆さまに「商業界ゼミナールで得たもの」「商業界精神が教えてくれたこと」をテーマに語ってもらう。

 今回は「ミルクジャム」という看板商品で知られる十勝しんむら牧場の4代目であり、次回ゼミナールの運営副委員長も務める新村浩隆さんに登場してもらった。

新村浩隆(しんむら ひろたか)●1971年、牧場の四代目として生まれる。大学卒業後、ニュージーランドなどで学ぶ。学生時代から持続可能な循環型の農業や乳製品の加工について考え、家業を継いで実践し、事業を拡大。2000年に会社設立し、現職。

商売するなら商業界で学べ 農業勉強会での先輩の一言

 私の牧場(十勝しんむら牧場)には130頭の乳牛、30頭の豚、3頭の馬、15匹のヤギがいます。牛乳からは乳製品、菓子を製造、豚肉からはソーセージ、ハンバーグ等を製造、販売しています。牧場内にはカフェもあり、お客さまにゆっくりと牧場でのひとときを楽しんでいただいています。

 牧場では牛を放牧していますが、北海道では放牧による酪農は5%にとどまり、95%は牛舎での飼育です。私は「食べる人のための農業を実践し、次世代に継承し続ける企業」という経営理念を掲げ、自然と共存して持続可能な循環型の農業を実践しています。

 1933年に創業した当初は、一般的な家族経営の牧場でした。4代目である私が引き継いだ際、私は自分で搾った牛乳の価格決定権を自分で持ち、販売するにはどうすればいいかと悩みました。そんなとき、農業の勉強会で出会った先輩の経営者から「商売をするなら商業界で学びなさい」とアドバイスされました。

 そこで26歳の時、箱根での開催だった商業界ゼミナールに初めて参加しました。商業専門の勉強会は初めてでしたので、最初は「店は客のためにある」と掲げられているのを見て「なんでこんな当たり前のことを勉強するんだろう?」と思いました。

 しかし、ゼミナールに参加してみると、その実践の難しさを学び、商売十訓をはじめとする商業界精神に感銘を受けて、農業についても改めて考えるようになりました。
「商業が『店は客のためにある』というなら、農業は『食べる人のためにある』ということになる。でも実際には、生産性を上げようとするだけで、本当にお客さま、つまり食べる人のために農業をしている農業者はいない」と思い、「農業も商業も同じだ」と実感したのです。

 それまでは、たくさん儲けている人が勝ち組のように思っていました。でも、商業界精神に出合って「単に金儲けをして、私腹を肥やせばいいのでは、従業員もお客さまも付いてこない」と思うようになったのです。

全国の同友から学ぶ ぶれないための経営哲学

 現在、私にとってゼミナールは単なる勉強会ではありません。3日間を通して全国の同友と一緒に話をして「商売とは何か」を真剣に考える時間です。普段のしがらみや、本当は当たり前ではないのに業界内では当たり前になっていることに、改めて気付くことができます。

 また、ゼミナールで知り合った全国の経営者のところへ行き、工場や会社を見学したり、話を聞いたりしています。その中でもいろいろと得るものがありますし、同友の方々は小売店も多いので、自社商品の販売先として力になってくれている方もいます。商業界で学んだこと、つながった人たちなど、全てがプラスになっていると思います。

 特に「商売十訓」は、迷ったときや壁にぶつかったときなどの指標になっています。「今やるべきなのか、やらない方がいいのか」を考えたり、人と会う時には「この人が損得のために生きている人なのか、損得だけではなく、善悪まで含めて考えて経営をしているのか」を商売十訓に照らし合わせて考えています。

 私自身、講演など多くの人前で話をする機会もあるのですが、商売十訓を例に挙げています。それほど私にとっては大きなものです。

 私は学生時代から、家業を継いだらいろいろなことをやろうと考えてはいましたが、その手段や手法、仕組みづくりは、商業界で学んだことが役に立っています。技術論ではなく、考え方や根幹を、ゼミや先輩経営者から教えてもらったのが一番の財産です。何のためにやるのか、そこをしっかり持っていないとぶれてしまいます。ぶれないための経営哲学を学ぶのが商業界だと思います。

 これからゼミナールに参加する人には「迷っているならアクションを起こすべき」と言いたいですね。アクションを起こさなければ次のステップには行けませんし、その選択肢の一つとして商業界ゼミナールは役に立つと思います。ただ単に参加するのではなく、「必ず何かを学び取ろう、勝ち取ろう」という気持ちで臨んでもらいたいです。

 私が商業界ゼミナールに参加して20年になります。毎年、休まず参加しています。先輩同友の方々の中には30年、40年と続けて参加されている方もいます。参加し続けるということに、商業界ゼミナールにしかない価値があるのです。

※本記事は『商業界』2015年12月号に掲載されたものです。(文/長谷川敏子)

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    企業名/(有)十勝しんむら牧場
    本社/北海道河東郡上士幌町字上音更西1線261番地
    代表者/新村浩隆
    設立/2000年(創業1933年)
    従業員数/14人