若者のコンパが総合居酒屋をつくった

 時代背景として、当時は大学生や専門学校生が積極的に居酒屋を利用するようになった。ちょうど1970年代から1980年代にかけて、大学生を中心とする消費生活が市場を拡大。車を持ち、テニスやスキーに興じ、女子大生の増加を背景に「合コン」が定着したのも、この頃である。

 若者の宴会(コンパ)に対応できる大箱店舗、若者ウケする洋風メニュー、女性が好きなサワー類の拡充、職人要らずのセントラルキッチン化、学生アルバイト中心の店舗運営。

「総合居酒屋」の原型が出来上がった。「つぼ八」の他に「天狗」「北の家族」も同様の展開を見せていた。渋谷センター街には、大勢の若者を収容する大箱の「総合居酒屋」が続々とオープンし、若い男女に出会いの場を提供していた。

 ワタミの創業者、渡邉美樹氏は「つぼ八」のFC経営を通じて勉強した後、1992年4月に自社ブランド「和民」を立ち上げてチェーン展開を開始する。ビジネスモデルは「つぼ八」がFC中心だったのに対して「和民」は直営店で出店を拡大した。

 直営中心で展開するには自前の店長が必要である。そのため渡邉氏は、従業員の教育を徹底させて、QSC、すなわち、品質(料理のクオリティ)、サービス(接客)、クレンリネス(清潔さ)を強化していく。単なる箱物ではなくフードサービス業としての「水準の高さ」を求めたのだ。

 大卒者が集まりづらい居酒屋チェーンであったが、渡邉氏の事業意欲に感化された学生が門をたたくようになった。その真面目で優秀な新卒者(幹部候補生)もチェーンオペレーションに貢献した。直営中心かFC展開かの違いはあれども、「総合居酒屋」の建て付けに大きな違いはなかった。ワタミの強さは、それを運営する「人の力」により、「総合居酒屋」に磨きをかけて業界の盟主となっていく。

特別なメニューで勝負するのは苦手

 しかし「総合居酒屋」だけに頼っていいのか。ワタミは次世代の成長戦略を描く。

 2000年12月にイタリアン居食屋「Cara Gente(カーラジェンテ)」渋谷井の頭通り店をオープン。客単価2000円台のイタリア料理と480円から「おかわり自由」のハウスワインを提供するなど、ワタミが手掛けるイタリアン居酒屋は大いに注目された。しかし、数店舗出した後、この新業態は浮上せぬまま2003年9月に撤退した。

 撤退を決めたとき渡邉美樹社長(当時)は私に次のようにコメントを残した。

「特別な料理をメインに打ち出した業態は、われわれは苦手。ワタミは居食屋として空間を提供するところに強さがある、そう、われわれは空間提供業なのです」。

 すなわち、イタリア料理でお客を呼ぶのではなく、和民というブランドで集客する。それを担保するのが、何でもそろえたお値打ち料理、行き届いた接客サービス、清潔で気持ちの良い店内といった運営力の高さである。

 当時、ワタミは中国料理の居食屋チェーンも計画していたが、これも「Cara Gente」の失敗を見て手を引いている。

看板料理を用意し、専門性を感じさせるが……

「つぼ八」の成功体験を引継ぎ、総合居酒屋の代表格に成長したワタミだったが、既存業態、すなわち「総合居酒屋」から脱皮できぬまま、ずるずると、ここまで引っ張ってきた。近年の “ブラック企業批判”による「ワタミ」ブランドのイメージ低下は、企業経営にとっては大変な痛手だが、ブランド転換を決断せざるを得ない機会になったと前向きに捉えることもできる。

「鳥メロ」の「鶏皮串揚げMIX」390円(税抜き)。タレ、カレー、チリの3つの味で同じ食材を上手に活用。

 新ブランド「ミライザカ」も「鳥メロ」も、看板料理を用意して、専門性や、こだわりを感じさせる。

 一方で、メニューとして特に独創性があるのかと言えば、そうではない。既に他の居酒屋で成功したヒットメニューを研究して、アレンジして、導入したものであり、特筆すべきものではない。

 もちろん、メニューを「総合的な品揃え」から鶏料理を主体とした「専門的な品揃え」に絞り込むことで、食材の回転数を高め、調理工程を簡素化し、生産性の向上を図っていることは容易に想像できる。

 しかし、渡邉美樹氏が分析したように、仮に新規メニューに力を注いでも、ワタミの強さは、そこにはない。若鶏の唐揚げや焼き鳥といった「定番料理」を「少し新しくした程度」で十分なのではと筆者は思う。料理で勝負を挑むのであれば、料理人出身のオーナー企業や、生業の繁盛店とガチで戦わなくてはいけない。

 そうではなくて、ワタミの強さ、すなわち店舗マネジメント力を発揮し、QSCを徹底させた、温かみがあり居心地の良い居酒屋。これが2020年に向けた、総合力のある居酒屋、略して「総合居酒屋」の姿であると考えている。

消費者が嫌う「総合居酒屋の正体」とは?

「鳥メロ」。2階から5階まで鳥料理の競合がひしめく。「総合居酒屋」受難の時代だ。

 過去のビジネスモデルであった「総合居酒屋」は、酔っぱらって大騒ぎしたい若い男女のオアシスであり、宴会シーズンには飲み放題と効率優先の手抜き料理が訴求され、教育されていない、声がでかいだけのアルバイト君たちが仕切っていた。――消費者が嫌う「総合居酒屋の正体」は案外、そんなところではないだろうか。

 品目数や店舗規模の大きさに罪はない。何でもそろえるのか絞っていくのか、総合か専門かといったメニューの話ではない。これから求められる居酒屋は、総合的に夜の飲食を任せられる、中高齢者の目にも耐えうる「総合居酒屋」チェーンである。

 ワタミが、「ミライザカ」と「鳥メロ」において、どういったポジションに収まるのかを知るには時間が必要だ。2010年前後、既存業態「和民」において、顧客の「若返り」を目論んだが、大きな成果を挙げたとは聞いていない。

 若い人向けの、過去に大当たりした総合居酒屋ではなく、誰の目から見ても安心して利用できる、総合居酒屋への進化に期待したい。