櫻井 明 社長 1963年5月14日群馬県安中市出身。小学校ではサッカー、水泳(市の新記録樹立)を、中学・高校では陸上部に所属し、インターハイにも出場。高校卒業後、国鉄に入社。その後23歳で独立。好きだったファッションの世界に足を踏み入れる。富岡市に「レイランド」を出店するも4カ月で閉店、その後ジーンズショップ「カーター」の店長を務め、売上げを3倍に伸ばす。93年ハートマーケットを創業し、現在に至る。

母娘が一緒に楽しめる世代を超えたカジュアルショップ

17年11月24日にオープンしたプライムツリー赤池店。愛知県内の出店は6店舗目。売場面積は65坪。まだオープンしたばかりだが滑り出しは好調。
17年9月21日にオープンしたイオンモール松本店。レディスのジーニングカジュアルショップらしく、商品をきれいに見せる工夫がされている。

「ノーエイジ、ノージャンル」を合言葉に定番から旬のトレンド物まで幅広いアイテムを提案する「ハートマーケット」。1993年の創業以来、成長を続けて、2016年度(17年2月期)に年商100億円を突破した。ただ、その道筋は決して順調ではなかった。創業以来、13年度まで増収を続けてきた同社だが、14年度にわずかではあるが減収になった。

 その理由を櫻井明社長にぶつけてみると、「それまでが実力以上の売上げだったかもしれません。その頃は商品を仕入れ過ぎて大量の在庫で3億数千万円ほどの赤字を抱えることになりました。いわばハートマーケット(以下ハトマ)バブルがはじけたのかもしれません。その反省から、お客さまの笑顔のために仕事をしよう、みんなで幸せになろうという創業の精神に立ち戻りました」と当時を振り返る。

 それは「ハトマらしさ」を深掘りして、お母さんと娘さんが一緒に買物できるようなオンリーワンの店にすることだと言う。「わざわざ足を運んでくれたお客さまが笑顔で買物を楽しめる『心の市場(ハートマーケット)』をつくりたいと思い、創業したのがハトマの始まりです。時代で変わるお客さまのニーズを捉えて、決して売り手目線にならないこと。そしてレディスのカジュアルショップという軸は動かさないこと。売上げなどの数字はその結果付いてきたものだと思います」。

 以後15年度には91億円と最高売上げを更新。そして16年度についに100億円の大台を突破することになった。

挫折と苦労を乗り越えて到達した経営方針

 櫻井社長は国鉄に入社したものの分割民営化を機に退社、大好きだったファッションの道で独立することを決意した。「昔から洋服が大好きで、その頃からお気に入りのショップに足しげく通っていた」と言う。

 1987年に現在世界遺産になった富岡製糸場近くにフレンチブランドをメインにそろえたカジュアルショップ「レイランド」を創業したが、あえなく最初の挫折を味わった。その後、借金返済のために前橋のジーンズショップ「カーター」の店長となり、年間3000万円の店を3年かけて3倍の1億円に成長させた。その実績から、雇われ店長として「インディアンサマー」に関わったものの、当時のオーナーと反りが合わず失敗。

「お金も信用もなくした上に、心もずたずたになりました。3カ月何もしていなかったのですが暇で仕方がない。人間は働かなければいけないとつくづく思いました」と櫻井社長。

 そんなある日、前橋市内を歩いていたら、偶然貸店舗の物件を見つけた。すぐに大家に連絡を取って会ったところ、お金も信用もないのにその場でOKをもらったと言う。「うれしかったですが、同時に覚悟を決めました。実家を担保に金策をして後がない気持ち。初日の売上げは3人のお客さまで7万円だったと思います。資金も潤沢ではなかったので常に綱渡りの状態でした。店の名前は、無職で傷ついていた頃、住んでいたアパートの天窓を見ていたら、頭の中に『ハートマーケット=心の市場』というフレーズが浮かんできたのです。店起点ではないお客さま満足の店をつくり続けようとそのまま店の名前にしました」。

思いや夢を共有するコミュニケーションカンパニーに

櫻井社長が毎朝スタッフ全員に送るキラキラメールは、本のフレーズから引用する場合が多いが、時には自作の詩を送るときも

 ハトマでは、話し合いなどでコミュニケーションを取る機会をあらゆる場で用意している。

 それは全国の店長が月1回集まる店長会議、幹部会議、接客や仕事についての話し合い、月1回の課題図書を読んでのディスカッションなど意見を交わす場が多い。「ハトマらしさをつくるのはなにより働くスタッフ。全員が進む方向や理念を共有しなければお客さまにはその思いが伝わりません。それを徹底させるのはコミュニケーション。時間や手間はかかりますが、そういったスタッフが多く育つと居心地のいい笑顔あふれる店になります」。

 他にも、ホスピタリティで有名なホテル、ザ・リッツ・カールトンを参考に社員が話し合って作ったハトマのクレド、櫻井社長が毎朝メッセージを送りスタッフの心をまとめるキラキラメールなど、思いを共有する手段はそろっている。

 また5年前から始めた試みとして、メーカーとの月例会の場を設けて、商品開発についての話し合いを行っている。「全てはお客さまの笑顔のため。ライバル同士のメーカーさんが一堂に会して、より良い商品づくりのために意見を出し合っています。他社さんではあまりないと思います。メーカーさんが作った品質向上のためのクレドもあります」。

理念の浸透を図る数字の目標は設定しない

17年11月23日にオープンしたイオンモール甲府昭和店は100坪クラスの大型店。山梨県の出店は2店舗目。店のサインがより上質感を与えている。

 今後については、「具体的な数字の目標は特にありません。お客さまに喜んでほしいことを徹底して、社会やニーズの変化などに応じて磨き上げることです」。新規出店については今のところ、18年春に3店をオープンする予定だ。

 ハトマは郊外のショッピングセンターを中心に基本60坪タイプ(年商1億7000万円)が主流だが、最近出店したイオンモール甲府昭和店などの100坪クラス、最大では宇都宮インターパーク店など150坪の店も増えている。

 ハトマの商品原価率は40~45%と他の製造小売業より高いので、店舗数を増やしていけばそのメリットも享受できる。そうなれば今より魅力的な品質と価格の商品が提供できる。「出店の余地はまだまだあります。最近はフードコートをチェックして参考にしています」。

 また、ネット販売については楽天で展開しているが、「売上げは3億円で比率はまだ3%というところ。まずは10億円ぐらいを目指したい。客層については、リアル店と変わらず30代~40代がメインで、リアル店のお客さまが90%と圧倒的です」。

 ハトマでは、毎年のテーマを決めているが、18年のテーマは「考える」。「一人一人がマネジャーぐらいの地位になったつもりで、チームのことを見て考えることが大事です。よく経営者の立場になってと言いますが、それではあまりリアリティが感じられないので。あと少しきれい事になりますが、もっと充実した働き方を推し進めていきたい。そして地域や社会貢献をテーマにハトマを続けていければと考えています」。

 18年4月には50人余りの新しい仲間がこの輪に加わる。「アキラさん」と社員から慕われる櫻井社長がタクトを振るハトマの進化は継続中だ。

※本記事は『ファッション販売』2018年2月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

ハートマーケット
本社所在地/群馬県前橋市川原町1-28-7
代表者/櫻井明
売上高/101億円(2018年2月期見込み)
    100億円(17年2月期)
    91億円(16年2月期)
店舗数/67店(ネットショップ(楽天)含む)
従業員数/402人(うちパート34人、17年12月現在)
創業/1993年(設立は1995年)

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