ヤマト運輸の取り組みは、「利便性」の概念見直しだ

 今、日本ではラストワンマイルを考える上で切っても切れない社会問題が起こっています。

 それは、「宅配の再配達問題」です。日本の宅配のサービス水準は常々、世界最高レベルだと言われています。その高いサービス品質を支えているのが、皆さんご存知の宅配事業者であるヤマト運輸、佐川急便、日本郵政の大手3社です。

 彼らは単なる運送屋ではありません。日本のビジネス界、一般消費者に対し、全国津々浦々、商品を指定の時間に正確に配送する社会インフラ(物流の動脈)を支える社会公共性の高い企業なのです。

 しかし、2016年のクリスマス商戦時期に不幸にも起きてしまった商品未到着問題を契機に、ヤマト運輸の従業員の配送荷物量の大幅な増加、再配達問題による過酷な労働環境が世の中に露見しました。

 その結果、ヤマト運輸は昨年2月に「働き方改革室」を設置し、抜本的な労働環境の改善、未払い残業代の支払いを実施し始めています。こうした取り組みは、ヤマト運輸がインターナルマーケティングを重視し始めたと証とも言えるでしょう。

 今、ヤマト運輸は、創業者の小倉昌男氏が唱えた「顧客視点の全員経営、サービス品質重視」の姿勢を現在の時代背景(ネット通販の伸長)を踏まえた上で、再びビジネスモデルを革新しようとしているのかもしれません。

 今後のネット通販の伸長を考え、いったん、売上増加は置いておき、従業員の労働負担を減らし、荷受個数の縮小を図り、自社の身の丈を縮めているわけです。

 その一方で、アマゾンなどの大口顧客に対しては配送料金の見直しを提案し、収益性を改善しつつ、一般消費者に対しても配送料金の見直し、指定時間帯サービス、当日配送サービスの見直しを提案し始めました。こうした取り組みは、「利便性」の概念そのものの見直しと捉えて良いのではないでしょうか。

興味深い松岡真宏氏の「同時性の解消」という概念

 この「利便性」の概念見直しについて、興味深い話をここで紹介しましょう。

 フロンティアマネジメント代表取締役の松岡真宏氏が提唱している、「同時性の解消」という概念です。

 この概念のベースには、スマートフォンの普及に伴う、通勤、通学の際の数分や数十分発生する「隙間時間」の価値増大が背景にあります。

 隙間時間は、スマートフォンの登場以前には、全く使いようがなく、価値が見いだせなかった時間でした。

 それがスマートフォン普及により、細切れの隙間時間を使って、ニュースを見たり、ネットで買い物をしたり、友達とSNSでコミュニケーションしたりすることが可能になりました。

 松岡氏は、「同時性とは、他者との時間と空間の共有」であると定義しています。彼が主張したい点は、彼の著書『宅配がなくなる日―同時性解消の社会論―」を読んでもらいたいのですが、要点をまとめると、「今日の日本の宅配システムは過剰サービスであり、再配達問題を踏まえた受け取りタイプを3分割すべきだ」と主張しています。

 それを松竹梅で例えると、「松」は現在の優れた宅配サービス(人的サービスと利便性のバランス重視型)、「竹」は店舗ピッキング(利便性とコストのバランス重視型)、「梅」は宅配BOX(利便性重視型)で考え直してみたらどうかという主張です。そして、松岡氏はその際、宅配BOXが、宅配の再配達問題の大きなブレイクスルーになりうると主張しています。

やはり、商売は「三方良し」の考え方が重要になる

 昨年、ラストワンマイルを巡る宅配の再配達問題に関連し、ヤマト運輸のアマゾンへの値上げ交渉ばかりがマスコミで騒がれましたが、その一方、地方の農家では、宅配料金の値上げに伴い、都心のお客さまに配送していたネット通販経由での商品の配送回数が5回から3〜4回に減り、それが農家の経済面に大きく影響を与えているそうです。

 これは宅配は社会のインフラだと考えさせられる話です。消費者や企業が、経済的利得を追求することは決して悪いことではないのですが、社会公共サービスである「宅配」の在り方を今一度、考え直す時期に差し掛かっているのかもしれません。

 その点では、松岡氏の「同時性の解消」の考え方は、大変参考になると思います。やはり、商売は、自分だけが良ければいいのではなく、「三方良し」の考え方が大切なのではないしょうか。

(学習院大学 経済経営研究所 客員所員 中見真也)