第5回は、「顧客経験価値」です。 

 皆さん、「顧客経験価値」という言葉を一度は耳にしたことがありますか?

「顧客経験価値」は、英語では、「Customer Experience(以下、CX)」と呼びます。

 皆さんは、日常生活において、スマートフォンがない日を想像できますか?

 今日、消費者であるわれわれは、スマートフォンの普及により、情報探索や購買検討の際に、リアル(店舗)とネットの世界を常に往来しています。

 この現象を「オムニチャネル化」と言います。この連載の第1回で紹介した概念です。

 このオムニチャネル化と顧客経験価値は密接に関連しています。その理由は、「オムニチャネル化の実現には、企業は消費者が日常的に利用する自社のリアル(店舗)とネットの全てのタッチポイント(接点)で、統合的なサービス品質(お客さまの抱える問題解決や感動のサービス)を提供。それを通じて、顧客経験価値を高めることで、エンゲージメント(顧客との絆、信頼)を築ける」からです。

 この際に、忘れてはならないのが、「顧客視点」です。

「顧客経験」と「経験価値」で構成されます

 ここで、顧客経験価値を構成する2つの重要な概念を説明しましょう。

 1つは、「顧客経験」です。

 顧客経験とは、多面的な構造を持ち、購買プロセス全体(Customer Journey、以下、CJ)を通して発生する「企業の提供物(モノやサービス)に対する顧客の認知的、感情的、行動的、感覚的、社会的な反応」を指します。(Lemon. K. and Peter. C. Verhoef 2016、奥谷・西原・太宰 2017)。

 もう一つは、「経験価値」です。

 経験価値(マーケティング分野でよく使われます)は、コロンビア大学ビジネススクールのB. H. Schmitt教授が1999年に提言した概念で、「製品・サービスによる物質的、金銭的な価値(交換価値)ではなく、その利用、消費体験を通じて得られる効果や感動、満足感等の心理的、感覚的な価値」を意図しています。

 経験価値は、感覚的経験価値(SENSE)、情緒的経験価値(FEEL)、創造的・認知的経験価値(THINK)、肉体的・行動的経験価値(ACT)、準拠集団や文化との関連付け・関係的経験価値(RELATE)(B. H. Schmitt 1999、太宰 2008)の5つで構成されています。

 今日のデジタル全盛の時代において、企業は、モノの良さ(機能的価値)やそのモノが醸し出す感情的な価値(情緒的価値)だけでは、消費者の購買意欲の促進が難しくなってきています。

 また、製品・サービスの性能や効用にあまり差がない場合、製品・サービスの同質化(コモディティ化)が進み、同業他社との低価格競争の結果、企業の収益が圧迫されることになります。

 こうした同質化現象の回避のためにも、「価値次元の階層性」の上位部分(ブランド価値)にあたる「経験価値」の醸成に取り組む意味があるわけです(図表1参照)。