クリスマスデコレーションのイルミネーションには香港の超大物俳優、アンディ・ラウさんが登場した。

 人口約730万人が住む香港。この小さな街は、実は「ショッピングモール天国」とも言える場所だ。ローカルな感じのモールからルイ・ヴィトンなどが入居するものなど、多種多彩。その中には取り組みが日本より進んでいると思うところも多い。

 今回はそうした事例を含めた香港のショッピングモール事情を紹介する。

香港では日本以上に娯楽が求められる

 東京、大阪といった大都市では自動車がなくても十分に生活できるが、それは鉄道を中心とした公共交通機関が発達していることの裏返しだ。

 日本の大都市に行くと、駅前に必ずといっていいほど商店街がある。ちょっと大きな駅になれば、イオンやイトーヨーカドーといった総合スーパー(GMS)があり、さらに大きなターミナル駅となれば、ルミネなどの駅ビルや伊勢丹などの百貨店が進出している。

 香港も地下鉄を中心に24時間、バスがあちらこちらに運行するなど公共交通機関の発展度合いは東京より上だ。事実、建築設計やコンサルティング業務を手掛けるオランダのアルカディスが発表した交通レポート「SUSTAINABLE CITIES MOBILITY INDEX 2017」では、香港が交通機関システムで世界ナンバーワンとしている(なお、東京は13位)。

 香港の面積は札幌市とほぼ同じだが、山地が多く、土地開発に適している陸地が25%しかないため、高層ビル群が多くそびえ立つことになった。レジャー施設や公園を作ることも簡単ではない都市なのだ。

 そして、1国2制度を採用しているため、香港外に行くにはパスポートが必要だ(中国、マカオのみパスポートがいらない香港市民もいる)。「旅行=海外旅行」である。そうなると、休日の過ごし方のバリエーションが日本よりも少なくなってしまうのが香港なのだ。余談だが、香港映画が発展したのはこれらの背景がある。
 香港においてはウィンドウショッピングですら一種の休みの過ごし方ということになるので、買い物をする場所だけではなく、余暇を過ごす場所の機能が日本以上に求められる。

あえて少し不便してフロア内を歩いてもらう

L1フロアからL2フロアに上がるエスカレーター。

 日本のショッピングモールや百貨店も含めて、当然ながら店づくりで優先されるのは、お客の使いやすさだ。1階にあるエスカレーターに乗れば、各階で隣の上りエスカレーターに乗り変えるだけで最上階まで行ける。

L2からL3に行くにはモールの反対側にあるエスカレーターまで移動する。

 ところが、香港ではそうではない。地階(香港はイギリスの統治下にあったので日本でいう1階は地階、2階が1階となる)で乗ったエスカレーターは3階までで、上の階に進むにはモールの反対側にあるエスカレーターまで歩いて行く必要があったりするのだ。

 お客に不便と思われるかもしれないが、実はこれにはメリットが結構ある。

 それはフロア内を強制的に歩かせ、その間にテナントにふらっと立ち寄ってもらおうというものだ。

 日本のようにエスカレーターで連続して上の階まで行けると、どこにも立ち寄らずに目的の店がある階まで上ってしまうが、それをさせないのだ。 

現在10階で、8階、5階、2階とつながるエスカレーターであることが分かる。

 特に商品購入後であれば目的を達成して余裕があるため、思わず……というケースが出てくる。

 これはスーパーマーケットのレジ前にあるガムやチョコレートみたいなもので、「ついで買い」をフロア単位で試みているのだ。

エスカレーターの長さが分かる。

 その一方で、せっかちな性格の香港人を考慮して、モールによっては数フロアを飛ばしてしまう長いエスカレーターを設置しているところもある。「希慎廣場(Hysan Place)」というモールは、例えば8階から5階、そして2階に直通するエスカレーターなどを敷設している。

中央に見える絵が書いてあるのが取り払われたエレベーター(この後、工事で取り払われた)。奥にOMEGAの看板が取り払われた後はより見やすくなった。

 さらに、大技を繰り出したのが「K11」というショッピングモールである。オープン当初は地階から3階までの吹き抜けの構造で、端にガラス張りのエレベーターを設置した。これは特別なことではないのだが、約2年後に、そのエレベーターを取り払っている。

 これによりモールの奥から奥まで見渡せるようになり、吹き抜け部分がより大きくなったことで、開放的な空間が生まれ、人が集まりやすくなったのだ。日本ではまずあり得ない事例だろう。

 実際、この「歩き回されるレイアウト」が使いにくいかといわれると、そうではない。エスカレーターからエスカレーターへと移動する際、いろいろな店が両脇にあるので、「こんな店があるんだ……」と、やはりそちらに意識がいってしまうからだ。テナント側としても今すぐに売上げにつながらなくても、自店がここにあることを知ってもらえただけで十分、宣伝効果があったと思えるはずだ。