間中さんは、店舗を「商品をよりよく見せるための箱」と捉える。平たいハンカチを立体的に見せるために斜めの棚だったり、オブジェのような靴下の什器を使ったりと、独特な世界観を醸し出している。

「H TOKYO」は都内に4店舗、京都に1店舗を構えるハンカチをメインに扱う専門店だ。ハンカチの他に靴下、トランクスやブックカバーなどオリジナルの布製品をそろえる。2017年にはナイトシャツ(シャツ生地のパジャマ)の販売も始めた。

 都内では世田谷区三宿を本店として、丸の内のKITTEや、ブランドは異なるが銀座の東急プラザ(「swimmie」)、上野パルコヤ(「OLD-FASHONED STORE」)に展開。京都は路面店だ。海外でも、ニューヨークや上海のセレクトショップに納品する。

 なぜハンカチという、一見需要の少なそうな商品を主力として、ここまで手を広げることができたのか。社長の間中伸也さんに話を聞いた。

自分が買いたいハンカチを作りたい

「H TOKYO」は2007年にスタートした。当時はECのみで、シャツ生地のハンカチを中心とした、男性向けのブランドだったという。

 なぜハンカチだったのか。間中さんはもともと大手小売企業の男性用服飾雑貨のバイヤーをしていたが、販売していたハンカチにあまり自分で買いたいものがなかったことから、自分で作ろうと思ったそうだ。男性向けであれば、素材や縫製、デザインなどの質が良いものが受け入れられると考え、ハンカチの研究をしていたところ、“手巻き”というハンカチの縫製技術に行きついた。ハンカチの縫製と言っても四辺を縫うだけではないか、と思われるかもしれないが、角をきれいに作るなどには専門の技術が必要なのだ。ハンカチの需要が減り、失われつつあったこの技術を残したいという思いもあった。

見過ごされてしまったものを、新しい視点で復活させる

「H TOKYO」のハンカチの特徴は縫製だけではない。

 最大の違いは、「H TOKYO」のハンカチは“シャツ生地”を使用しているという点だろう。大手メーカーでは、ハンカチにはハンカチ用に生地を織ることが多いが、「H TOKYO」ではシャツ生地の中からハンカチに向いているものを選び、それを使う。結果として、ハンカチの機能を損なわず、商品に個性を出すことに成功しているようだ。使っているのは主に兵庫県西脇市や静岡県浜松市で作られる良質なシャツ生地で、海外の高級シャツ生地を使用した商品もある。

 これは「シャツ生地を使うことでハンカチの品質を高めた」というだけではない。間中さんの言う「見過ごされてしまったものに、新しい視点を入れることで新しい価値を提案する」取り組みであり、これが「H TOKYO」の強みなのだ。

「見過ごされてしまったものに新しい視点を入れる」とはどういうことだろうか。例えば、「H TOKYO」ではシャツ生地で作ったトランクスも扱っている。トランクスは一時期ブリーフなどに取って代わられ、需要が落ちていた。しかし愛好者は残っていたので、「H TOKYO」はその小さな需要を拾い上げ、質の良いシャツ生地を使うという新たな切り口で商品化した。そうすると「履き心地の良さ」という新しい価値がトランクスに付加され、新たなユーザーを取り込むことができた。

 ハンカチや靴下、ナイトシャツも同様だ。人が忘れていたものに焦点を当て、新しい切り口で商品化をする。その目新しさとなつかしさとがお客を引き付けるのだろう。

東急三軒茶屋駅から歩いて10分程度、学校や給食センターの並びにある三宿店では、カラフルな刺しゅう作品の展示と、それを印刷したハンカチが大きな机に並べられて陳列されていた。机の上には食器やパスタなどが並び、にぎやかな演出。

 もう一つの特徴は、品揃えの多さだ。三宿店には、120種類以上のハンカチが壁一面に並ぶ。しかも、ハンカチは1つの柄につき100枚という小ロット(人気のあるものは増刷する)で、1カ月につき、10種類ほどを新しく発売する。

 シャツ生地に柄をプリントする商品では、イラスト、デザインの世界で、メジャーではなくとも感度の高い作家にデザインを依頼する。他では売っていない、面白いものにしたいという思いからだ。素材は柄に合わせて変える。綿か麻か、また織り方でも触り心地や表情が変わる。

 この膨大な品揃えと商品の改廃は、常に商品を入れ替え、お客が来店するたびに新しい商品があるようにしたいという間中さんの考えを反映している。

販売員はお客と同じくらい大事

オーナーの間中伸也さんは三宿の商店会でも活動しており、現在は会長を務めている。「世田谷蚤の市」や「世田谷パン祭り」など、5万人を集めるイベントも主催。

 先述の通り、「H TOKYO」はECからスタートしたが、間中さんは「やはり触れて買ってもらうのが一番いい」と言う。実際、ECサイトの売上げは全体の10%程度にとどまっている。

 店舗についてはどのように捉えているのだろうか。間中さんは「店舗は人がいて成り立つものであり、店舗においては足を運んでくれるお客をどうもてなすかを一番大切にしている」と言う。おもてなしの鍵となるのは販売員だ。

 間中さんの考える「良い販売員」の条件とは以下の2点だ。①聞かれなくとも、お客の心理を行動で察知できること。そして、②商品に対して深い知識を持っていること。②については同店はアイテム数が多く、商品の入れ替わりが激しいので苦労しそうだが、「簡単なことを簡単にやっているだけでは成長しないし、他店と差別化ができない」というのが間中さんの考えだ。

 同時に販売員が働きやすい環境づくりにも努める。最も問題が起こりやすいのは人間関係だ。それも、人が増えるほどコミュニケーションは難しくなる。そこで、販売員同士でハンカチについての勉強会を行ったり、京都店とはスカイプなどでまめに連絡を取り合うなど、販売員同士が話す機会を増やしたり、考えを共有する場を作るようにしている。

店舗を増やすよりも、ゆるやかな成長と拡大を

この写真のみパルコヤの「OLD-FASHIONED STORE」。

 今後の目標は「店舗を増やすことではなく、ゆるやかに成長しながら、同時に海外展開も伸ばしていきたい」とのこと。商業施設から声がかかることは増えたが、投資の大きさや管理の難しさを考えて出店は慎重だ。

 ハンカチ以外の商品展開については、ナイトシャツ以降に具体的に計画しているものはないが、「今の世の中にない視点が提供できるならば」という条件で、新しいアイテムが増える可能性もある。「布が好きなので」(間中さん)とのことで、今後も布を使った製品になる予定だ。

なぜ多くの人に愛されるのか

 ブランド設立の経緯から、商品、店舗まで見てきたが、そのどれもに間中さんの哲学が込められていた。興味深いのは、この哲学に「お客本位」の部分と「自分本位」の部分があることだ。例えば、自分の「布が好き」という思いにこだわる一方で、「簡単なことを簡単にやっているだけでは成長しないし、差別化ができない」と言い、お客のためのサービスも貫く。この2つの両立が、これまでハンカチに興味のなかったお客も引き付けて、ファンにしてしまうのではないだろうか。

 

会社名/オールドファッション株式会社
従業員数/23人(本社4人、店舗19人)
創立時期/2007年12月
所在地/東京都世田谷区太子堂1-1-11

地図エリア