2017年から小型専門店型の新業態をスタートした。気軽に立ち寄れる雰囲気を演出し、メニュー数も絞っている。

 日本は世界中の人々に愛される2つの料理を生み出した。寿司とラーメンだ。寿司の普及については言うまでもないだろう。

 もう一方の雄であるラーメンの浸透度合いもすさまじい。海を渡り、国境を超え、今やちょっとした海外の地方都市でもラーメン店の1つや2つはある。

 ここタイでもラーメンの人気は絶好調だ。ラーメン店の数はバンコクを中心に350店以上。ラーメンののれんを掲げていなくても、日本料理の店ならほぼメニューにラーメンを取り入れている。「ラーメンが食べられる店」というくくりで考えると、どれだけの数に達するのか想像もつかない。

『8番らーめん』の壁、長らく二番手の不在だった

タイの一風堂1号店はバンコクの高級ショッピングモール「セントラルエンバシー」内にある。抑えた演出が高級感をもり立てる。

 しかし、成功しているチェーン店となると一握りだ。日本では行列が絶えない人気店や有名店など個店レベルでファンをつかんでいる店ならあるものの、多店舗展開となると数える程度。厳密にいえば、1992年に石川県から進出し、25年間でタイ国内に122もの店舗を展開するに至った『8番らーめん』以外に、タイ人の胃袋をつかんだチェーン店は存在しない。

1号店の店内。黒と赤を基調にした洗練された空間で、タイ人はスープ料理としてのラーメンを楽しんでいる。

 長きにわたる二番手の不在。ここに今、『一風堂』が終止符を打とうとしている。福岡を拠点に全国展開を果たし、海外進出も積極的に行っている力の源ホールディングスは、現在バンコク市内に8つの一風堂を展開しており、2018年以降も新店が続々誕生する予定だ。

 アメリカ、香港、台湾、中国、オーストラリアへの進出を果たした一風堂が、タイに1号店を開いたのは2014年8月。バンコクのショッピングモールの中でもゴージャスさ、ラグジュアリー度ではトップを行く「セントラルエンバシー」が1号店の舞台として選ばれた。

 きらきらと輝く白い照明器具、黒い壁、赤い椅子など、黒と赤を基調にしたシックなインテリアでまとめられた店内は、「セントラルエンバシー」の一員にふさわしい。モダンで洗練された空間は他国にはないタイオリジナルのデザインだ。

食べ方、注文する料理、楽しみ方は、こんなに違う!

コクと深みを追求した「赤丸新味」(220バーツ)。自家製の香味油と辛みそを加えた風味はタイ人にも受けている。

 一風堂を運営する力の源ホールディングスのアジア事業本部イーストアジア事業のタイランド担当者の中筋堂雄氏は言う。

「1号店は、ニューヨークやシンガポール、ロンドンで展開している店同様、ラーメンダイニングという業態です。メインターゲットはタイの中間層以上や在留邦人。料理としてラーメンを食べていただく店に仕上げました」

 タイのラーメン店の多くは、1杯200バーツ~300バーツでラーメンを提供しているが、一風堂の場合、看板メニューの「白丸元味」は200バーツ、「赤丸新味」は220バーツ、「からか麺」は230バーツ。日本円換算で800円前後のラーメンは、タイの物価を考慮すると間違いなく「高い」料理に該当する。

ラーメンはスープ料理の一種、麺は残してもスープは残さない!

 そのラーメンをタイ人は、日本人とは異なるスタイルで楽しんでいる。

「タイの方にとって、ラーメンはスープ料理の一種。スープがメインなので、麺は残してもスープは残さない。ほとんど飲み干されていますね。ラーメンが来てもすぐに食べないのも特徴です。カップルや家族、友人と一緒に来られる方が多く、時間をかけてゆっくり食べていかれます」

 ラーメンを自らの好みに合わせてカスタマイズするのもタイならではだ。各テーブルにセットされたニンニク、ゴマ、紅ショウガをほとんどのタイ人は積極的に使用し、好みの味に仕上げている。日本の一風堂でも珍しくない光景ではあるが、カスタマイズの頻度と量が大違いだ。タイ人は、普段からナンプラーや酢、唐辛子、砂糖を使い、出されたタイ料理をオリジナルの味に変えてから食べている。カスタマイズは、タイ料理に欠かせない要素だ。

まずは前菜、それからラーメンと他の料理をオーダーする

「鉄板旨辛チャーハン」(130バーツ)は、ラーメンと合わせてオーダーする料理として人気を博している。

 ラーメンと合わせて注文する料理も日本とは全く違う。日本の場合、ラーメンと一緒に食べる料理といえば餃子やチャーハンが相場で、他の料理はどちらかといえば脇役にすぎない。主役のラーメンをとことん満喫したいと替え玉を頼むお客も多い。

 だが、中筋氏が先に述べたようにタイではラーメンはあくまで料理の1つ。タイ人のお客の平均的な注文内容は、「博多餃子」や「一風堂チキン南蛮」などのアペタイザーをまず1つ頼み、それからラーメン、他の料理を合わせてオーダーするというもの。替え玉を注文するのはかなりのラーメン通だ。

「ラーメンの受け止め方が違うので、アペタイザーは20種類ほどそろえました。アペタイザーの内容は各国それぞれのオリジナルです。餃子やチャーハン以外のメニューも増やしました。ラーメンと一緒に頼む料理として好評なのは、「餃子」や「炙りサーモンロール」「バンズ」ですね」

タイ人が大好きなサーモンを使った「炙りサーモンロール」(240バーツ)と「ポークバンズ」(80バーツ)。後者はニューヨークでも大人気の一品だ。

 サーモンをネタに使った寿司は、寿司好きのタイ人がこよなく愛する一品だ。とろっとした脂質がもたらすサーモンの食感やオレンジの色合いが好まれ、日本料理店には欠かせないアイテム。「バンズ」とは、肉まんの生地で中に豚の角煮やとんかつをサンドしたメニューで、ニューヨークの一風堂でも大好評を博している。

 客単価は平均400バーツ。食事スタイルとしては、「呑んで、つまんで、麺で〆る」をコンセプトに掲げ、現在、力の源ホールディングスが東京・西麻布や名古屋、京都で展開している別業態「五行」に近い。

 カップルやファミリー、友人などグループで来店し、前菜を楽しんだ後、ラーメンを含む複数の料理を大勢で囲み、時間をかけて食事をする。タイ人にとって、一風堂はラーメン目当てで来店する店というよりも、ハレの日に出かけるレストランの選択肢の1つなのである。