フルフィルメントセンターで感染が拡がり、欠品や出荷遅延が起こっているアマゾン。感染発生後の対策が不十分として、従業員がストライキを起こす施設もある〔出所〕アマゾン社提供

 筆者の外出禁止生活も10日目となった。本題に入る前に、最も感染被害が大きく非常事態下にあるニューヨーク州政府の対応と市民の様子を報告したい。3月29日時点で米国の感染者数は14万904人、死亡者数は2405人に拡大している[1]。その半数を占めるニューヨーク州では、感染者数のピークは21日後の4月後半と推定し、既に州内は22日から期間を限定せず外出禁止、公立小中高校は4月1日まで閉鎖だったが4月15日まで延長した。既にオンライン授業に切り替わっているので、教育に大きな遅れが生じる訳ではないが、経済への影響は深刻だ。これからピークが来ることが明らかな現在、企業閉鎖期間も15日まで延長、暫定的に4月1日頃に営業再開としていた小売業者も、再開日程の延長は必須で4月中再開の見込みもたっていない。

 全米レベルでは総額2兆ドルの景気対策が成立したが、既に医療機能がオーバーフローし始めているニューヨーク州では、感染拡大の減速と感染者の治療体制の短期拡大に力を入れており、既に不足している医療用保護用品や人工呼吸器、新型コロナ感染患者専用の病院、ベッドの確保を急いでいる。特にベッドは最大14万台が必要なのに対して5万3000台しか確保できていないため、既存の病院の拡充だけでなく、マンハッタン内コンベンションセンターのジャヴィッツセンターや、ホテル、高齢者介護施設、大学寮など全15カ所のコロナ専用施設を設け、ベッド、機材を入れてピーク時に備えている体制を整え始めた。

3月30日、1000台のベッドと12の手術室を持つ海軍病院船コンフォートがマンハッタンに入港〔出所〕スペクトラムNY1

 ニューヨーク州クオモ知事は毎日正午前後に30~40分のテレビ会見を通じて、現状および州政府の対策の進捗を報告しているが、このように外出禁止令からわずか1週間で分析に基づいた政策を具体化する指導力を評価する人々は多い。クオモ州知事は会見の締めくくりに必ず市民へのメッセージを語るが、窮屈な外出禁止下にある市民に共感を寄せながらも、市民一人一人が自宅にこもることで、人の命が守れる点を毎回繰り返し強調している。

 加えて、医療関係者、スーパーマーケット従業員、警官、警備員、消防士などエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々への賞賛を忘れていない。しかしこちらの現実は一般市民の外出禁止以上に厳しい。医療関係者の間に感染死亡者も出ているが、専門に関わらずコロナ感染者治療に配置され、それを拒否した場合は減給処分の可能性もあるとのこと。

 営業を許されている小売の最前線にも危険にさらされている。25日にコロナ感染者が見つかったマンハッタン内ホールフーズ・マーケットのコロンバスサークル店では店内殺菌のため2日半店舗を閉鎖、近隣のトレーダージョーズも3日閉鎖し、今後も客数の多い大型スーパーマーケットの間では感染者発生のたびに、数日営業休止となる可能性がある。もちろん店内感染を恐れて病欠を取る従業員も後をたたない。

新型コロナ感染者が出たトレーダージョーズ、アッパーウェスト店は店舗消毒のため一時休業〔出所〕筆者撮影

 ディストリビューションセンター(DC)やフルフィルメントセンター(FC)でも後述のアマゾンの事例のように、感染が広がっており、感染を恐れて欠勤やストライキが始まろうとしている。前のレポート(『新型コロナウイルスで外出禁止令が出たニューヨーク州で起こったこと』)では消費者のパニックショッピングは小売業者と流通業者の多大な努力でだいぶ収まってきたと書いたが、これから迎える感染ピークに向けて、最前線で働く人々の健康を守り、任務を全うしてもらうかが大きな課題となっている。

フルフィルメントセンターの苦悩:急増する需要、FC内感染拡大

 需要が急増したアマゾンは3月16日、全世界で3億5000万ドルを投資し、米国、カナダ、イギリス、EU諸国のフルフィルメントセンター(FC)、物流、配送、店舗での時給を4月から2ドル相当値上げすると発表。また米国内FCでは10万人の正規、パートタイム社員を募集を開始した。この直後、ワシントン州に続いてカリフォルニア州やニューヨーク州で外出禁止令の施行が発表され、全米で実店舗営業停止が広がった。

 同時期にウォルマートは15万人、ダラージェネラル2万5千人、セブンイレブン2万人など大量に募集を次々発表し、時給の積み増しも行った。2週間後の現在、外出禁止令が30以上の州に広がり、レストラン、ホテル、タクシーやウーバ―、チェーンストアなどで大量の失業者が出て、失業保険申告数が10倍に増えた。エッセンシャル小売業者の人員募集は一過性ではあるが、大きな受け皿となると見られていた。

 しかしアマゾンのFCでは3月18日にニューヨーク市クィーンズ区に同社FCで初めての感染者が出て、26日時点でカリフォルニア州、ケンタッキー州など14カ所に広がっている。感染者が出たFCは一時的に閉鎖し、消毒を行って再開しているが、1万8000人が働くロサンゼルス郊外のFCでのケースでは従業員に感染者発生をメールで伝えておらず、出社して初めて知った従業員たちは恐怖のため多くが自宅に戻った[2]

 ニューヨーク市スタテンアイランド区のFCでは30日から従業員4500人のうち約100人がストライキを表明しており、この原稿を書いている現在も労使で交渉中だ。理由は同FCで少なくとも7人も感染しているのにマネジャーが状況について従業員に明確なコミュニケーションを取っていなかったこと、感染拡大後もFCを一時閉鎖して消毒を行っていないためだ。従業員側はストライキを行うことで、アマゾンがFCを閉鎖して消毒し、その間従業員に時給を支払うことを要求している。広報担当者は、FCは既に念入りに消毒されており、州の規制通り、従業員同士の距離を2メートル以上空けるソーシャルディスタンシングに従って営業していること、感染者の行動は分析されており、接触者の監視なども行っていると説明している。感染者を出した他のアマゾンFCも、多くは閉鎖なく営業を続けている。

 ストライキをリードする同FCマネジメントアシスタントのクリス・スモールズ氏はCNBCのインタビュー[3]で、アマゾンがマスク、手袋、ハンドサニタイザー、除菌ペーパーなど感染予防の基本的なツールを毎日交換できるだけの数量を従業員に支給していないこと、またマネジャーが感染者が出たことを正確に従業員に伝えておらず、後から人のうわさやソーシャルメディアなどで知った、と語っている。スモールズ氏自身も何人か感染者を自宅まで送り届けたため、現在自宅隔離中だ。

国民生活に影響を及ぼす出荷の遅延、在庫切れ

 アマゾンは3月17日、アマゾンフルフィルメントサービスを利用している米国およびEUの出店者に対して、需要がひっ迫している生活必需品と医療品の出荷を優先するため、大部分の商品の出荷を暫定的に4月5日まで止めるように依頼した。優先対象となるのは、①ベビー用品、②健康および生活用品、③ビューティ&パーソナルケア、④食料品、⑤産業および科学関連商品、⑥ペット用品、だ。

アマゾンで販売しているパンパースのおむつ。3月29日時点で1サイズしかない〔出所〕アマゾン社ウェブサイト

 この発表の段階で①、②の対象商品、特にせっけんやおむつなどは在庫切れとなっていた。その後徐々に商品は戻ってきてはいるが、1週間強たった29日の段階で、例えば主力ブランドのパンパースのおむつは6サイズのうち1サイズしか在庫が無く、プライム配送なのに配送は5日後だ。もっともベビー専門店のバイバイベビーでもサイズを選ぶと、ブランドは選べないというのが現状だ。ウォルマートはさすがに、長年のサプライヤーとの協力体制のおかげでアマゾンでは販売できていない複数の主力ブランドもサイズも確保している。しかも、食品とファーマシー部門があるためエッセンシャル小売業者と認定され多くの店舗が営業中だ。ただし、需要が高い必需品のオンラインでの購入は不可で、在庫がある店舗に買いに行かなければならない。在庫は全店に行きわたっておらず、ここでも商品供給の苦労が見え隠れする。

ウォルマートではパンパースのおむつの全サイズを販売しているが、サイズによってはオンラインでは買えず、店舗に行かなければいけない〔出所〕ウォルマート社ウェブサイト

 おむつ以外の必需品についても似たような状況で、アマゾンではハンドサニタイザーやペーパータオルは主力ブランドはサイトから消えていたり、多くのサイズが切れていたり、割高となる容量の小さい商品、聞いたことがないようなブランドがズラズラ並んでいる。サニタイザーは通常販売されている99.99%殺菌ではなく、70%が多い。これでも米国疾病管理予防センターのガイドラインである60%以上なので問題はないが、今まで見たことが無いブランドがほとんどなので、いかにアマゾンがコロナ関連商品の生活必需品調達に苦労しているかがうかがわれる。

 アマゾンによると緊急性の低い対象外の商品は、4月末頃の配達となる予定だ。ただし、マーケットプレースでもドロップシップメント、つまりアマゾンFCを介さず、出店者自身が直接お客に配送する商品はほぼ通常通り配送される。テクノロジーを駆使してスピード配送他、小売業を革新し続け、全米オンライン売上高の39%[4]を占めるアマゾンが、新型コロナによってこのような大型配送遅延や基本商品の品切れを長期間起こす日が来るとは、誰も予測していなかった事態だ。

アマゾン:価格の不当な吊り上げ、不正商品の撤去

3月29日のアマゾンマーケットプレースでハンドサニタイザーを検索した結果、トップには見慣れないブランドがズラリと並ぶが、よく見ると在庫切れもある。サイトのバナーには「商品によっては需要増加のため在庫が無いものもあります。現在パートナー企業と大至急補充するよう調整中です」とある〔出所〕アマゾン社ウェブサイト

 アマゾンマーケットプレースではマスクやハンドサニタイザーの価格が2月の中旬から急上昇した。ハンドサニタイザーでは主力ブランドのピュレル1リットルボトルが通常ウォルマートなどで1本12ドルしないが、2月の終わりには2本で350ドルで販売されていた。アマゾンは、異常な値上げを行う出店者を公正価格ポリシーに基づいて退店処分にすると警告した。また、マスクの機能についてコロナ感染を防ぐ、というウソの宣伝の取り締まりも強化した。

アマゾンマーケットプレースでは3月5日、ハンドサニタイザーの主力ブランド、ピュレルのボトルが通常の10倍の値段で売られていた〔出所〕メディア、リコードによるアマゾンウェブサイトのスクリーンショット、2020年3月5日

 パニックショッピングがピークを迎えていた3月6日には、アマゾンはマスクをはじめハンドサニタイザーなどコロナ感染関連商品の不当な値上げ商品53万点を削除、販売店2500軒を営業停止とした。これを行うために、過去と現在の価格変動歴をモニターする機械学習だけでなく、人間による24時間体制の監視も行った。また、高額品を購入したお客にコンタクトし、司法省からの調査に協力を要請したようだ。その後も監視の手を緩めず、3月23日には追加で3900店舗を退店させたと発表した。

 同様の不当な値上げへの対応はウォルマート、eベイ他のマーケットプレースでも同様に行われている。アマゾンが不当値上げの管理を強化したことはオンライン市場へのけん制だけでなく、その後コロナ関連商品が全米で一時品薄になった際、便乗値上げの可能性のあった中小企業を含む店舗へのけん制にも多少は役立ったのではないだろうか。

 

 まだ3月30日の段階で感染拡大のピークは14日から21日後と言われている米国。アマゾンの事例は小売業界全体の縮図でもある。外出できない市民に、エッセンシャル小売業者は、自社の従業員の健康を守りながら生活必需品を供給し続けていけるのだろうか。

 


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  • [1] 米国疾病管理予防センター集計値
  • [2] NBCニュース、’Amazon’s Largest Warehouse Hub Has a Coronavirus Case’、2020年3月26日
  • [3] NBCニュース、’Amazon Workers Plan Strike at Staten Island Warehouse to Demand Coronavirus Protections’、2020年3月29日
  • [4] eMarketer試算