〔PROFILE〕まつざき さとる 1954年3月10日千葉県夷隅郡岬町(現いすみ市)生まれ。78年中央大学法学部卒業後、西友ストアー(現西友)入社、2003年同社ファイナンスアジア事業部シニアダイレクター部長。05年良品計画に入社、海外事業部アジア地域担当部長、08年執行役員海外事業部中国担当部長、11年取締役兼執行役員海外事業部長。常務取締役、専務取締役を経て、15年5月社長兼執行役員に就任。趣味はウオーキングと読書。 photo/杉田容子

 「無印良品」の店頭は極めて好調だ。既存店売上高は第3四半期まで(3~11月)で前期比5.1%増。客数は12.1%増と伸びた。だが今期は2期連続の減益になる見通しだ。それはなぜなのか。その根本原因と今後の戦略を良品計画の松﨑曉社長に聞いた。

 ――ここ数年取り組んできた政策は。

 松﨑:2017年度から始まった中期経営計画(中計)で、国内の大方針を「シンプルで美しく暮らそうとする生活者にとって最良で最強の店舗をつくる」と定めました。そこで店舗を大型化し、衣生食(衣服・雑貨、生活雑貨、食品)の商品領域で生活の基本となる商品を作り、価格を下げてきました。

 2つ目はグローバルサプライチェーンの整備と進化です。マーチャンダイジング領域、会計領域、顧客領域のシステムを変える大改革です。これは業務の整備と再構築でもあり、システムとは車の両輪です。日本は今年1月から稼働を始めました。まだ道半ばですが、早急にグローバルプレーヤーとして戦うシステムインフラを整備します。

 3つ目は社員の意識改革です。当社は将来的には「個店経営」を目指したいと考えています。従来はムジグラムなど業務基準書で業務を進めていましたが、今後は社員が主体的に自ら考えて店舗を運営します。システムが全て稼働したら、いずれは世界中の店舗の店長が自店の商品計画を修正できるようにしたいと思っています。

 システム導入に伴い決算期を変更、来期は6カ月の変則決算になります。

積み上がった過大な在庫は発注枠で抑制

 ――店頭は極めて好調なのに、今期は9期ぶりに2期連続の減益になる見通しだ。原因は何か。

 松﨑:まず国内は経費増。人件費や物流費の値上げを営業収益でカバーできませんでした。人件費の対売上比率は第3四半期では落ち着きましたが、物流費はまだ改革の余地があります。

 問題は売上総利益率が落ちてきたことです。これは第3四半期で如実に表れました。当社は消費増税後も価格を変更せず、増税分をのみ込みましたが、これは織り込み済み。良品週間などの価格施策が多かったのが原因です。

 もう一つは在庫が膨らんだことです。社長就任時には500億円台でしたが、今は1100億円。商品部は販売部や海外から毎週の営業会議で「基本商品が少ない」と言われると、機会損失を避けるために商品を確保しがちです。

 在庫の適正化は大きな課題です。今年は期首から在庫枠、発注枠をコントロールし、販売計画に基づいて作成するPL(貸借対照表)と商品計画を期首に一致させます。その後は売れ行きに応じて、発注枠を超える仕入れはしない。これで在庫問題を収束させます。

 ――海外事業も苦戦した。

 松﨑:稼ぎ頭の中国は堅調です。第3四半期の減益額は約20億円なのですが、実はその大半は香港と韓国です。伸び盛りだった韓国が日本製品の不買運動で赤字に転落し、民主化デモで揺れている香港は黒字ですが大きく減益になりました。

 こうなると人の確保が難しくなるので「ファウンドMUJI韓国」「ファウンドMUJI香港」といった試みを進めて、MUJIと地域の関わりを皆で議論し、当社で働くことの意義を分かってもらって雇用を維持したいと思います。

 ――欧米事業は。

 松﨑:欧州では出店を凍結していましたが、18年度に黒字化し、18年12月にバルセロナに大型店を出店。今年はストックホルム、チューリッヒ、フィンランドに開きました、でもバルセロナ、ストックホルム、チューリッヒの店の売上げが当初計画との乖離(かいり)が大きかった。品揃えを修正して21年8月期には黒字化し、再び利益率を一定水準に戻したいと思います。

 米国では18年度に最大の稼ぎ月であるクリスマス商戦が大きくずれて減益になりましたが、今は昨年5月に立案した再建計画通りに進んでいます。

現地で発掘した商品を売場の20%に

 ――先ほどの「ファウンドMUJI韓国」「ファウンドMUJI香港」というのは現地商品を発掘するということか。

 松﨑:そうです。現地の人と話をして、将来的には売場にある商品のうち、地域で売れるべきローカルな商品を20%まで高めたいという「ローカルトゥウェンティ」と呼ぶ取り組みを始めています。

 実はフィンランドで展開している食品はほとんど欧州の食品です。これからはMUJI的な発想で作られているローカル商品を探して積極的に販売していきたいと思います。

 中国では18年9月に商品開発部を新設し、19年から現地の習慣に合った商品を出し始めました。次はインドで生産した商品をインドで販売し、西南アジア、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域、オセアニアにも広げます。地域で物作りをして、ローカルの習慣や風習に合った商品をデビューさせていきたいと考えています。

 ――インドでも商品開発部を設ける。

 松﨑:いいえ。MUJIグローバルソーシング(MGS)という物作りの会社を使って組織は軽めにして、インドのマーケットから商品を発掘します。実はファブリックはすでにインド国内で発売しているのです。来年は200アイテムほどの開発商品をインド国内で売りたいと考えています。

 将来的には中国の次に巨大なマーケットになるのはインドです。MUJIはまだ一般のインドの人が買える価格ではないので、25年以降に出店を加速するまでの準備として、普通の人が買える価格にしたいのです。

 来年はムンバイにMUJIの世界観を示せるフラッグシップ店を開きます。

 ――北欧の新店はなぜ苦戦している。

 松﨑:いずれの店も最初の1カ月はすごいのですが、2カ月目以降が続かない。原因は生活の基本領域をカバーできていない、価格が現地の習慣に合っていない、また海外の大型店を維持できるオペレーションがまだできていないからだと思っています。

 出店計画委員会における審議も甘くなったという反省もあります。この失敗を契機に、社長直轄の「海外賃料減額プロジェクト」(仮)を3月から立ち上げます。法務や不動産の専門家、専門弁護士を集めて、9月までをめどに成果を出したいと思います。海外都市の賃料相場を把握し、出店の可否を決めるKPI(重要業績評価指標)を定めたいと考えています。

 世界のデベロッパーは大手に収斂(しゅうれん)しており、今後は数カ国をまたぐ交渉も必要です。当社はアジアの有力な会社と合弁事業をしており、そのネットワークも使って複数国にわたる物件について一緒に交渉するなどの方法も考えます。

初のロードサイド店となった「無印良品野々市明倫通り」は、次の金脈を掘り当てたエポックメーキングな出店となった。

 ――今期の出店は第3四半期時点で56店と前期を超える順調なペースだ。

 松﨑:昨年4月にオープンした野々市明倫通り(石川県野々市市)は次の金脈を掘り当てた思いです。無印良品は都会的といわれ、地方のロードサイド立地には出店してこなかった。野々市明倫通りはアルビスというスーパーマーケット(SM)の敷地内に路面店を開いたのですが、想定をはるかに超える売上げです。

 今後は地方のロードサイドやSMと同じ敷地に出店を加速します。将来的には年間30店くらい出店できる体制を整えたいと考えています。

漬物や惣菜、菓子といった食の専門店を12社導入するなど地元の事業者との協業をテーマに掲げた「無印良品 京都山科」では、野菜売場を初めて直営で手掛けた。

 ――昨年11月に開店した京都山科(京都市)は。

 松﨑:一昨年3月に開いたイオンモール堺北花田(大阪府)に続く「食」の大型専門売場を備えた2号店で、さらに進化した店になりました。野菜売場を初めて直営で運営。食のテナントを導入し、フードコートも当社が運営。非常に高い支持を頂き、客数が増えた効果で衣服が売れています。SMのお客さまは従来あまり無印良品に来店されなかったので、これは大きな相乗効果となっています。

 また昨年7月に開店したMUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス(東京)は産学共同の取り組みです。都心のコンビニ、コミュニティという形の店舗には今後も取り組みたいと思っています。

ベトナムに「世界最安値」の店を開く

 ――来期の戦略は。

 松﨑:来期は中計の最終年度の21年8月期に営業収益5000億円、営業利益600億円を達成するための準備の6カ月間であり、20年8月期ということになります。こでは生活の基本商品、価格の見直し、在庫の適正化に引き続き取り組みます。

 物流費も改革します。新潟市でEC(電子商取引)向けのセンターを自社運営していますが、関西地区は今年外部のセンター運営に切り替えます。翌年は関東も替え、センターのオペレーションも見直します。ラストワンマイルは自社でやりますが、倉庫の運営は自社か委託か冷静に見極めます。配送料も見直します。

 ――商品政策だが、衣服・雑貨は。

 松﨑:まだまだ伸びる余地があるので、強化カテゴリーとして特に500坪の大型店では売場を拡大します。売上構成比は40%を超え、次は50%も視野に入れます。第2四半期のグローバルの構成比は46.6%でした。

 ――生活雑貨の復権も課題だ。

 松﨑:昨年8月末に実施した価格見直しの効果が出て、生活雑貨は上期に0.1%増だった既存店売上げが第3四半期に7.3%増と伸びました。ただ家具と家電は苦戦しています。

 昨年2月に生活雑貨部内に「生産・調達担当」「品揃え・商品開発担当」「企画デザイン担当」の3つの部門を配置しました。生活シーンを考えて、品揃えから物を作っていこうと考えたのです。秋冬から商品が変わり始めます。

 ――堺北花田、京都山科のような食の大型専門売場を備えた店の開発は。

 松﨑:国内では堺北花田や京都山科のような大型ショッピングセンター(SC)か、野々市のようなSMとの併設か一体型の立地に出店したいと思います。中国など海外でも出店したい。ヘルシンキにはSMを内在した店を開きました。

 ――今後の出店ペースは。

 松﨑:国内では年間15~20店のペースです。500坪級の大型店は41店になりました。大型店は22年8月期をめどに100店に拡大したいと思います。

 ――今後の海外戦略は。

 松﨑:中国における商品開発を加速させます。どんどんアイテムを出していく。ベッドやシーツ、マットレスが中国仕様のサイズに変わり、マグカップも中国の生活に合ったサイズになった。生活雑貨の構成比は10%未満ですが、これをいかに早く作るかです。

 昨年12月に青島にオープンした大型店、青島銀座商城は「MUJIインフィル」という内装・造作サービスのショールームを世界で初めて店内に併設しました。住の領域も今後拡大します。

 中国の店はコーヒーカウンターがあって、お客さまが集まって雑談できるような入り口にしています。よりコミュニティにつながる店に変えていきます。出店は年間30店を維持します。

 また今年中に上海に中国で働いている社員たちに社宅を造ります。中国の不動産が高騰して、みんな電車とバスを乗り継いで2時間ぐらいかけて出勤している。だから都会に自分たちで作った内装・造作の環境で社宅を造る。そこでいろんな実験をします。「MUJIインフィル」のショールームも併設するので、社員が住んでコミュニティをつくり、それが支持をされて販売につながればいいと思っています。

 ――新規国への出店は。

 松﨑:ベトナムのホーチミンに8月までに1号店を出店します。最初から大型店を造ります。ベトナム産をはじめASEANで数多く生産していますから、平均的なプライスとしてはMUJIの世界最安値の店を目指します。

 ――デンマークへの進出は。

 松﨑:デンマークは秋になります。

地域の問題を解決するプラットフォームに

 ――新潟県上越市と地元企業の頸城(くびき)自動車と1月に包括連携協定を結んだ。

 松﨑:無印良品は地方の再生の役に立ちたいと考えており、上越市の直江津SCを運営元の頸城自動車と一緒につくり上げていきたいということです。無印良品が出店し、地域コミュニティとつながって、しかもSCとして成り立つものをやっていきたいと。

 ――疲弊した地方都市を再生する。直江津SCは昨年5月にイトーヨーカドーが撤退した。

 松﨑:SMが撤退したということは人がなかなか集まらないということ。でもやはり必要なのです。無印良品が出店することによって、テナントも入り、コミュニティができればいいなと。

 ――夏ごろに2階に出店する。

 松﨑:これは正式発表を待っていますから、申し訳ありません。

単なるチェーンストアオペレーションではなく、将来的には店長が品揃えや店づくりを主体的に考える「個店経営」を目指したいと松﨑社長。

 ――地域再生に関連して、「暮らしの編集学校」という社内研修を実施している。

 松﨑:一つの都市を選んで、そこでどう市民や地域とつながるのかを社員に勉強させる取り組みです。第1回は岐阜県の柳ケ瀬、第2回は山形県、そして第3回は直江津で2月に開きました。コミュニティをどうつくるか。そしてどう発信するのか。自分はこの地域をどうしたいのか考えをまとめてもらって、チームに分けて意見交換をして、具体的な物件を通して、構想をまとめています。

 ――この背景には金井政明会長の言う無印良品の「大戦略」である「役に立つ」の実現がある。

 松﨑:ローカルからコミュニティの再生をしていきたいと思うのです。将来的にはわれわれは地域のさまざまな問題を解決するプラットフォームになりたいと考えています。コミュニティをつくるというのは人が集まる場所にしていくわけですね。店舗にお客さまが来て、地域の人と話をしながら、そこで問題を解決する。その実現のために取り組んでいるのです。

 
 

※本記事は『販売革新』2020年3月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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