〔PROFILE〕むらた よしお 1961年10月26日東京・千駄木生まれ。慶応大学法学部卒業後、1985年4月髙島屋入社。東京店(現日本橋店)のワイン売場を振り出しに、紳士服、ドイツ駐在員事務所、新宿出店準備室などを経験。労働組合委員長も務めた。2011年柏店長、13年2月執行役員、15年3月常務執行役員。15年5月常務取締役。17年8月代表取締役常務総務本部長、企画本部副本部長、経営戦略部長。18年3月同企画本部長。19年3月に代表取締役社長に昇格。 photo/杉田容子

 富裕層とインバウンド(訪日外国人客)が引っ張っていた百貨店が変調を来している。2020年に髙島屋はこの難局をどう乗り切ろうとしているのか。昨年3月にトップに就いた村田善郎社長を直撃した。

 ――20年2月期は営業利益こそ増益だが、リーマンショック直後以来の2期連続の経常減益になる見通しだ。

 村田:トップライン(売上高)はここ数年、富裕層の比較的堅調な消費とインバウンドの両軸で回ってきました。しかしインバウンドは減速し、消費増税で中間層を中心に消費が減退。

 利益面では、アパレルが売れなくなり、売上比率が食料品などより低率な商品にシフトし、商品利益率が低下。売上げの伸びがそのまま利益には結び付きにくい構図が続いています。

 実は今までのお化粧がはがれただけで、本来の基調が伸びていないのは変わっていません。

 ――村田社長の使命である構造改革の必要性がより明確になった。

 村田:百貨店の再定義が必要になるかもしれません。物を仕入れて売るのは変わりませんが、マーケットインに近づけ、適時適切に対応する旬な品揃えを実現するためにはしがらみを断ち切り、専門店と百貨店をミックスし、融合することが重要です。

 ショッピングセンター(SC)開発の東神開発や飲食店事業のアール・ティー・コーポレーションといった食の関連事業などをミックスさせた髙島屋グループとしての百貨店を目指します。

構造改革と同時に成長戦略も進める

 ――19年を振り返って。

 村田:グループ総合戦略の「まちづくり戦略」の一つのモデルと考える日本橋髙島屋S.C.が昨年3月にグランドオープンし、18年11月に出店したバンコクのサイアム髙島屋と合わせて成長路線をいかに安定軌道に乗せるかが19年のテーマでした。

まちづくり戦略のモデルケースとなった日本橋髙島屋S.C.。グランドオープンから丸1年を迎えた。

 ――日本橋髙島屋S.C.の状況は。

 村田:本館、ウオッチメゾン、東館に、18年9月に開いた新館を加え4館体制になり、入店客は予想を若干上回り、売上高もほぼ予算通りです。ベイエリアから新しいお客さまを呼び込み、既存のお客さまにも満足していただき、当初の狙い通り、回遊していただいています。

 ――地方店・郊外店では横浜市の港南台店の閉店を決め、米子髙島屋(鳥取県)は地元への株式譲渡を決議した。

 村田:できる限り店舗を存続させたいという強い思いは変わりません。港南台店は横浜店と同一商圏にあり、閉店後もお客さまをフォローできると判断し、今年8月に閉店します。一時ニトリなど大型テナントを導入し百貨店と専門店を融合させましたが、商圏の高齢化が進み、マーケットがしぼんでいて、継続は難しいのが実情です。

 ――米子髙島屋は地元企業に全株式を売却し、撤退するが髙島屋の看板は残り地元も喜ぶという理想的な継承だ。

 村田:行政との密接な連携もありました。本館と東館のうち自社ビルだった東館を無償で米子市に譲渡し、コンペで新しいスポンサーが名乗りを上げてくれました。

 ――20年度からの重点施策は。

 村田:百貨店の構造改革が第一ですが、成長戦略も同時に進めます。緊急的な取り組みもします。間接部門を減らしフロントの営業に人をシフトします。要員を圧縮して得られた原資を成長部門に振り替えます。東神開発が新たに手掛ける国内の流山おおたかの森(千葉県)の周辺開発や海外ではベトナムへの成長投資が中心になります。

 髙島屋には①優良な顧客基盤、②東神開発やアール・ティー・コーポレーションなどの優良な子会社、③売上高1000億円を超える東西の大型店やシンガポールなど国内外を含めた店舗立地――という3つの大きなアドバンテージ(優位性)があります。これらを組み合わせて成長モデルをつくることが成長戦略です。

 3つを組み合わせることで「金融事業」も海外事業と匹敵する収益の柱にできる可能性があり、今春から本格的な事業としてスタートさせます。

金融事業は23年度営業利益100億円に

 ――金融事業の具体的な取り組みは。

 村田:銀行業に参入するわけではなく、冠婚葬祭や終活も含めライフタイムバリューをいかに上げるかです。例えば信託や資産運用など。横浜店で評判が良かったのが割賦販売。ジャックスと組みローンが組めるようにしたら、単価も上がりました。使う、貯める、決済するなど髙島屋クレジットでできることがあるでしょう。

 髙島屋クレジットが髙島屋保険を3月に吸収合併します。専門人材が接客し、来店するお客さまが気軽に相談できるカウンターを設け、外商マンとも連携します。両社の営業利益は現在54億円。与信枠や外部利用の拡大による手数料増や新サービスを積み増して23年度に100億円を目指します。

 ――構造改革で得られた利益のうち国内百貨店事業への投資は。

 村田:収益性が低いので多額の投資はできません。従来のようなリニューアルは極力圧縮します。リニューアルはキャッシュアウトだけして、結局利益につながっていません。ただ横浜店で進めている駅直結の食料品売場の増床のような間違いなく収益性が確保できるものには投資していきます。

 ――20年度の改装計画は。

 村田:横浜は国内百貨店では最大級の食料品売場になります。4弾ロケットで昨年11月に続く第2弾が今年5月ごろ、第3弾が11月、売場を5000㎡増床し完成するのは来年2月です。京都店は四条通に面した部分のリニューアルに着手しました。

 ――国内店の閉鎖は。

 村田:当面予定はありません。まだまだやりようがあります。

 国内17店には17通りの事情と方策があります。生き残りに向けた手は打っています。国は地方創生を掲げるなど行政も同じ船に乗っています。米子のように知恵を出し合えば、完全撤退しない方法もあると思います。

 ――まちづくり戦略はさらに進める。

 村田:まちづくりには3つあります。1つ目は百貨店グループ内のまちづくりです。日本橋髙島屋S.C.は代表例で、4館を一つのまちと捉えて、楽しく回遊していただく。

 2つ目は百貨店グループを核とする周辺を含めたまちづくり。代表例は流山おおたかの森です。行政とも話をしながら、周辺のインフラも含めて開発します。22年までに開く3施設ができれば営業面積は1.4倍に拡大します。

 将来は相当なベッドタウンに成長するとみており、第2の二子玉川にしたいという希望的な思いがあります。

 3つ目がEC(電子商取引)です。自社ECの「髙島屋オンラインストア」と子会社の「タカシマヤファッションスクエア」のIDを共通化し、プラットフォームをつくって、その中を楽しくネットサーフィンしてもらう。EC事業は18年度は168億円の売上げでしたが、23年度には285億円を目指します。

海外事業は成長国のベトナムにも投資

 ――今後の海外事業の戦略は。

 村田:シンガポールを中心としたASEAN(東南アジア諸国連合)地域と中国で展開している4店の収益力をいかに高めるかが大事です。タカシマヤシンガポールの18年度の営業収益は181億円、営業利益は32億円。この人、モノ、金をうまく他の3店に援用し、各店の収益力を高めていきます。

 ベトナム・ホーチミンのサイゴンセンターにも期待しています。不動産投資事業とテナント運営事業、百貨店事業の3層構造になっており、既に百貨店以外は黒字です。百貨店もIFRS(国際会計基準)では今期は黒字化しています。来期はIFRSの影響を除いても黒字にしたい考えです。

 ベトナムは伸び代があるので、積極的に投資します。東神開発のノウハウを生かして、ハノイ市の副都心となるスターレイクプロジェクトに参画します。現地の教育企業と合弁で、21年初めに開校予定のバイリンガルスクールと22年ごろに開業する商業・オフィスなどの開発事業です。ハノイは大使館もあり、海外子女も多い。既にある学校が移転してくるので収支も堅い。商業施設は東神開発が中心にテナントを集積します。

 ――18年11月に開業したタイのサイアム髙島屋の状況は。

 村田:今年7~8月に高架鉄道が接続すれば早い段階で黒字化するでしょう。開業当初の狙いとずれも出ているのでマーチャンダイジングも見直します。紳士服や婦人服はニーズに合っていないので修正。食品はハイエンドなものをそろえて和牛やフルーツなどを前面に出しましたが、価格帯の上下を調整して、もう少しボリュームに近づけます。一方で、ランチで2万円するカウンター寿司も人気なので、ハイエンドな顧客の期待にも応えていきます。

 ――昨年8月に撤退する予定だった上海店は一転、営業継続が決まった。

 村田:認知度の低さと上海の周辺開発や環境整備が当初想定よりもかなり遅れたことで苦戦していました。行政も家主も含めて諸条件が整ってきたので、継続する判断をしました。

「構造改革には早晩取り組まなければならないと思っていた。従来とは異なる次代の百貨店にどういう形でシフトしていくか。今はそのタイミングにきている」と村田社長。

 ――国内百貨店の売上高は1990年に比べ4割減り、百貨店業態は終わったとの声もある。都心部ではまだ生き残れそうだが、地方や郊外では業態としての役割を終えたのでは。

 村田:そうは思いません。むしろこれからは百貨店の時代だと声を大にして言いたい。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やECなどが拡大する中で、リアルの良さにもう一度光が当たっています。当社の最大のアドバンテージはリアルの店舗を持っていること。店で得られるリアルの体験などいよいよ百貨店の出番です。悲観的ではなく、むしろポテンシャルが大きいと楽観視しています。

 一方で、旧態依然なものにデジタルの要素を取り入れ、新しい感動を与えていくことが百貨店の新しい使命です。

 特に高齢化が進むと買物にストレスを感じる方が増えてくる。独居老人が増えると人とのつながりがより大事になる。地方ではモノだけでなく止まり木になれるような店舗が必要になります。

 デジタルの良い点を取り入れ、まさに百貨店を再定義した次世代型百貨店グループを考えていきます。まだまだ成長できると信じています。

 
 

※本記事は『販売革新』2020年3月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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