売れ切れ間近のドライパスタ、パック入りスープ、ソースなど常温保存食品。〔出所〕ウォルマート、ニューヨーク州トロイ市。筆者撮影

 2月29日にワシントン州が新型コロナウイルス感染拡大で非常事態宣言を発令した時には、筆者が住むニューヨーク市ではまだ新型ウイルスの目に見える影響は少なく、カリフォルニア州にも急激に感染が広がっているため要注意、という状況だった。全米での感染者数はワシントン州を中心に70人だった[1]

 しかし人口密度が高く世界中から人が流入するニューヨーク市に新型ウイルスは瞬く間に広がり、1週間後にはニューヨーク州は非常事態を宣言、その頃にはハンドサニタイザー、ペーパータオル、トイレットペーパー、除菌クリーナーがオンラインや小売店から姿を消し始め、パニックが始まった。ブロードウェイ、マジソンスクエアガーデン、リンカーンセンターなど数千から数万人を収容する施設では、チケットを購入した人々が自発的にキャンセルして空席が目立ち始めた。この段階で総感染者数は400人未満だった。

 さらに1週間後の16日には感染拡大を防ぐために大人数のイベントが中止となり、レストラン、バーは店内営業禁止でテイクアウトとデリバリーのみとなった。翌17日にサンフランシスコベイエリアでは外出禁止令が発令され、ニューヨーク州でも従業員50%以上の自宅勤務が命じられた。百貨店、ギャップやアップルストア、H&Mなどの大手チェーンストアは暫定的に3月末から4月2日まで全米の店舗を閉店、ショッピングセンターも全米で閉業した。総感染者数は5904人。そしてカリフォルニア州に次いで20日、ニューヨーク州も実質外出禁止令が発表され、22日から正式に施行された。総感染者数は1万7935人に膨れ上がり、その約半分がニューヨーク州だ。

 

 外出禁止令が出ると、エッセンシャルと呼ばれる社会生活インフラである商業や事業(図表①)以外の従業員は自宅からオンライン勤務するか、一時解雇となる。

 外出は「食料・薬品の購入」「運動のための散歩やサイクリング」以外禁じられ、やむを得ない外出の際でも、他人との距離を6フィート(180センチ)以上間隔を空けなければいけない。

 筆者も店舗が閉まった17日から実質的な引きこもり生活が始まり、狭い家に家族全員がほとんど外出できず、朝から晩まで一緒にいる。6日目にして早くも息が詰まる思いだ。

 全米の総世帯数は1億3854万、3月23日時点で外出禁止を命じている10州の総世帯数はその28%に及ぶ。今後もさらに広がるだろう。

 

パニックによる買い占めとリテーラーの対応

 現在、米国最大の感染エピセンターであるニューヨーク州ニューヨーク市では、3月7日の州の非常事態宣言前から、買い占めによる物資不足が始まった。当初は直接感染防止に関わるハンドサニタイザーなどだけで、これらを販売するファーマシー、スーパーマーケット、ステープルズなどオフィスサプライ店、そしてアマゾンや他のオンラインストアから一挙に商品が消えた。メディアは物資不足対策として自宅でのハンドサニタイザーの作り方を報道したが、材料となるアルコールとアロマヴェラジェルも2、3日で店やオンラインから消えた。

 10日以降からカリフォルニア、ニューヨーク州ではそれぞれ250人、500人以上のイベントの中止命令が出て、両州以外でも大学が次々と学生を寮から出して閉鎖し、オンライン授業に切り替えた。ニューヨーク市内では週末に市がロックダウンするのではないか、という噂が流れ、買い占めは感染予防アイテムから、基礎食品、保存食品に広がった。

 市内のスーパーマーケットでは、ミルク、ヨーグルト、卵、鶏肉、シリアル、ドライパスタ、缶詰トマトソース、スパイス、冷凍ピザ、アイスクリーム、冷凍肉、冷凍野菜、冷凍ミール、水、ジュース、ポテトチップスなどのチップス類などがどの店舗でも売れ切れとなった。一方で、青果や精肉など生鮮食品は保存ができないため後回しとなったのか在庫があった。こうした欠品は地域や企業によるが、パニックが始まってから3週間後には落ち着いてきた。

 ところで米国大都市でのパニックショッピングの特徴は「実店舗より早くオンラインで在庫が消えた」ということだろう。パニックが始まった頃はまだ多くの人は会社に出勤していたので、オンライン、多くの場合はアマゾンやウォルマート、ターゲットで必要なものをまとめて確保したようだ。そしてアマゾン等で買えないと分かった瞬間、近くの店に駆け付ける、という構図だ。

パニックショッピングが始まり、鶏肉、ビーフは完全に売り切れ。〔出所〕ホールフーズ・マーケット、ニューヨーク市コロンバスサークル店。筆者撮影
外出禁止令が間もなく発令されると噂された3月18日の冷蔵保存デリ売場(ソーセージ、ハム、チーズなど)。〔出所〕ウォルマート、ニューヨーク州トロイ市。筆者撮影
同日のトイレットペーパー、ペーパータオル売場。〔出所〕ウォルマート、ニューヨーク州トロイ市。筆者撮影
入店制限のため6フィート間隔を保って入店列で待つ人々。〔出所〕トレーダージョーズ、ニューヨーク市アッパーウェストサイド店。筆者撮影
普段は大混雑のマクドナルドも閉店。〔出所〕マクドナルド、ニューヨーク市ブロードウェイ店。筆者撮影

店舗での感染拡大防止策

 店舗では、顧客の健康管理の視点から新たな顧客サービスを始めている。まずハンドサニタイザーや除菌アルコールペーパータオルを入り口に設置し、ショッピングカートを顧客が自分で拭く光景が当たり前となった。クロ―ガ―他のスーパーマーケットでは店舗の清掃と商品補充のため、従業員を普段より早い、開店2時間前から勤務させている。

 感染に弱いとされ、体力的にも買物競争についていけない高齢者を守るため、先週からストップ&ショップを皮切りに、ウォルマート、ターゲット、ホールフーズ・マーケット、ダラージェネラルなど主要スーパーマーケットはそれぞれ、一般者への開店時間を1~1時間30分遅らせ、開店前に「高齢者専用の買物時間」を設定している。高齢者の定義は企業によるが60~65歳以上で、入店時に身分証明書などは不要だが、明らかに対象年齢外のお客には退去を命じるそうだ。

 また、来店客数の多い店舗では業種や店舗のサイズを問わず「入店制限」を行っている。ニューヨーク市内の地元スーパーマーケットのチタレラでは、「6フィートルール」を徹底するため、レジ列の床にはガムテープで6フィートごとにx印を貼り、レジ担当者とお客の間が6フィート距離が開くよう、お客の立ち位置にx印をつけている。

オンラインが命綱?ヴァーチャル生活の始まり

 筆者はニューヨーク市内でセプテンバー11やリーマンショックを経験してきたが、今回のように、自由を尊ぶアメリカ人の多くが自宅に縛り付けられ、人とも会えない生活をするのを見るのは初めてだ。いったいいつまで我慢できるのだろう。全く想像がつかない。

 毎日テレビ会見を行うニューヨーク州知事は「食料は確保した。酒屋もエッセンシャルなのでオープンしている」を強調し、オンラインで家族や友人とのヴァーチャルな交流を勧めている。また、突然の生活変化によるストレスを予測し、21日の会見ではメンタルヘルスケアの必要性に触れ、精神科医やセラピストのボランティアによるオンラインを利用したメンタルヘルスエレクトロニックヘルプセンターを開設したい意向を述べた。

 つまりは当分はオンラインが文字通りの命綱となる。この経験が近い将来、どのように社会、経済、消費者に影響するのだろう。次回はアマゾンの動きをみていきたい。

 

[1] 新型コロナウイルス感染者数、ニューヨーク・タイムズ調査。以後注釈の無いものは全て同調査結果より。