②Open House

寄せ木細工をほうふつとさせる“和風モダン”な内装は一瞬、自分がタイにいることを忘れてしまう。
SCの最上階(6階)の天井高を最大限活用した開放感あふれる空間が広がる。
地震大国の日本では実現できない、支柱を使用しない「キャットウォーク」と壁面を活用した美しい陳列棚。
2層分ある天高を活用した店舗は開放感あふれる“知的空間”となっている。
吹き抜けの中央部にはモニュメント的な構造物を作り、上部には植栽を施すなどのデザイン処理がされている。
陳列什器の中に違和感なくソファを組み込んでいるデザイン処理は秀逸。
店舗の中央部は構造上の観点から、給排水設備が軽く済むカフェ業態を中心に構成。


「Open House」は今年の3月にバンコク中心部のプルンチットにあるSC「Central Embassy」6階にオープンした書籍と飲食店を組み合わせた複合業態である。 実はこの「Central Embassy」は、2014年5月にセントラルグループの“ラグジュアリーSC”としての期待を担い、華々しく開業した。

 しかし、周辺競合もあり、開業以来、売上げ・集客ともに振るわず、2016年5月には早くも5階のレストランフロアはテナントの大量退店が発生し、それに伴い、大幅なテコ入れが加えられた。

 中でもシネコンがある6階の区画は、開業以来、そのフロアの半分が3年間ふさがったままだったが、そこに誕生したのが「Open House」である。

 ルーバー天井から自然光をふんだんに取り入れた開放感ある空間、天然の木材と観葉植物を多用した店舗には訪れた誰もが魅了されるだろう。 こちらの店舗デザインも、前述の「Think Space」同様、日本に本拠を置くデザイン会社、クライン・ダイサム・アーキテクチャーの手によるものだ((同社はこの店で2017年のDesign For Asia Grand Awardを獲得) 。

バンコクの人気イタリアンレストランの「ペッピーナ」。Soi33にある本店は予約必須だが、ここではゆったりと景色を眺めながら自慢のピザが堪能できる。

 売場面積で約7000㎡、8店の飲食店と約2万冊のデザインやアート関連、児童書の蔵書を持つ同店のコンセプトは “Co-Living Space”(共同生活空間)である。  

 その言葉通り、8カ所のゾーンで構成される店内には、至るところにテーブルやソファが配置され、時間をかけながら書籍を選んだり、友人と語り合ったりできる洗練された空間になっている。 

 特に飲食店は人気のイタリアンの「ペッピーナ」や、バンコクにおけるヴィーガンレストランブームの草分けである「ブロッコリーレボリューション」等、“こだわりのテナントミックス”は何とも絶妙と言うしかない。 

 このようなある意味、購買ターゲットを絞った店舗構成が、むしろ一般客への裾野を広げる効果を生み、今や市内のローカルの若者だけでなく、観光客まで巻き込んだ人気スポットに変貌を遂げた。 

 当然のことだが、個人のインスタグラムやフェィスブック等のSNSへの露出の増加に伴い、その反響からSCへの来館客も日に日に増加基調となっている。

リアル店舗はより“エモーショナル”なデザインに!

 今回紹介した店舗は現在の日本の商業デザインから見れば、建築規制や運営コスト面で100%同じものを実現するのは難しいだろう。

 しかし、現在の日本の小売業は無駄を省き、標準化と効率化を追求した結果、“どこにでもある店舗”が増殖し、業態としての差別化が困難になってしまった。

 “大量消費”の時代が終わり、“成熟化”に突入した国内の小売業において、改めてリアル店舗の在り方が問われている今、そろそろ個性的かつ人間のエモーショナル(感情)に訴えるようなデザインの店舗やSCが出てきて欲しい。

 それはお客から見て単純に「COOL=かっこいい」デザインであると同時に、その空間にいること自体が「お洒落で」「心地良い」と言った感覚に包まれることが重要ではないだろうか(特に洗練されたマインドを持つ、都市生活者や高額消費をしてくれる富裕層には重要なアプローチ手法だ)。 

 そうでもしない限り、お客はわざわざ店舗に足を運ぶことはないだろうし、それが価格や品質等で差別化ができない書籍という商材であればなおさらだ。

 バンコクにおける2つの店舗は、台湾の「誠品書店」「誠品生活」、日本で人気の「TSUTAYA T-SITE」や「蔦屋家電」とともに、「書籍」の新たな販売手法の可能性を明示していると言えるだろう。