新型コロナ・パンデミックに見る奇妙な矛盾

 これまでにない呼吸器感染症として国際ウイルス分類委員会(ICTV)が「SARS-CoV-2」と命名した「新型コロナウイルス」の感染は、本稿執筆時の3月13日現在も世界各地で同時/多発的に拡大している。

 3月11日時点の感染者数が117の国と地域で11万8326人にまで達したことから、世界保健機関(WHO)は翌12日、同ウイルスの感染拡大が「パンデミック」であるとの認識を広報した。

 ウイルスとしての分類はできても、その発症メカニズムに確証はなく、いまだ未解明。従って、試薬開発したワクチンも治験なき未完成状態。予防と対症療法しかないため、感染者が急増する国々では半パニック状態が続いている。

 すでに感染者が世界に散らばっているため、死者も激増した中国で仮に終息の兆しが見えたとしても、今後は新たな国・地域へとサミダレ式に感染が伝播することになる。

「病気としての新コロナ・パンデミック」については本連載の主旨から外れるため、別稿で「経済と政治」「食と生活」に関連付け、改めて詳述する。IRカジノをテーマとする本稿で注目したいのは、感染騒ぎの過程で見られる不可解さや奇妙さである。

  •  例えば次のような事柄だ(2020年3月13日現在)。

・例年1〜2月のインフルエンザ死者数は新型コロナの100倍超

・とはいえ、前述したように新型ウイルスは機序も不明で不気味

・高校野球は中止したのに東京オリンピックは実施する政府方針(※ただし、安倍首相は米国の「延期提案」に従う可能性が高い)

・外国人の訪日はやめると言いつつオリンピックでの来日は歓迎

・国内のマスク不足を嘆く一方で、中国には大量のマスクを寄贈

・国民は高熱なら自宅待機で学校も休校、通勤の満員電車は放置

・その他(いろいろあり過ぎて、省略)

 このように矛盾とも見える不可解な事柄は、IRカジノにまつわる政府コメントの不可解さとよく似ている。この種の奇妙さには、必ず裏がある。

日本は観光客数の増加にIRカジノを必要としていない

 観光庁は、新型コロナ騒ぎの混乱が続いていた3月6日、「外国人観光客をストレスフリーで快適なホストタウン等でおもてなししましょう!」とホームページを通じて国民に呼び掛けた

 インバウンドに対応する飲食店・小売店等を支援するための「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」(ホストタウン等緊急対策事業)で、自治体・民間業者・協議会等を補助対象事業者とした公募の開始告知である。

 新型コロナのパンデミックで東京オリンピック開催さえ危ぶまれ、感染拡大では日本人に対しても各国が「要注意!」と見ているにもかかわらず、「訪日外国人にストレスフリーでおもてなしを!」とは、またずいぶんと能天気な話だ。

 IRカジノとのからみで、この「外国人観光客に対する政府の期待」については、前回の記事で大要次のように書いた。

①「IRカジノで自治体財政が潤う」として誘致に血眼の自治体は、「IRカジノ誘致依存症」「IRカジノ効果期待症」とでも名付けたくなるような錯覚である可能性が高い。

②政府は「IRにおける収入の大半がカジノ」だと公言しているにもかかわらず、自治体やマスメディアは「カジノ賭博が客から飲み込む多額のカネこそが税収増の源泉」だと気付いていない。

③IRカジノの成功は外国人観光客の呼び込みこそが重要だとされている一方で、その集客論理が曖昧なため、いつまでたっても一般の国民は煙に巻かれてばかり。

④IRカジノで潤う財源は税収、税収増の源は客のカジノ浪費だとしたら、その客は誰か。政府は「外国人観光客」だと説明しているが、それは本当か。

 実は、外国人観光客数の年次推移データをみれば、単純に政府の説明のいい加減さが判明する。

 IRカジノが日本でまだ法制化さえされていなかった10年ほど前と最近の訪日客数を、国策IRカジノで日本に先行するシンガポールと比較してみよう。

 下表は、筆者が「日本政府観光局」と「シンガポール政府観光局」のデータを併せて概算し、作成したものだ。

 

 表の数字で明らかなように、まだIRカジノを持たない日本に訪れる観光客数は、実数でシンガポールの1.7倍、増加率では実に10倍にもなっている。

 IRカジノ法制定の目的が政府の言う「訪日観光客数の増加」だとしたら、少なくとも現在の日本がこれにIRカジノを必要としていないことは一目瞭然である。しかも、そのことは、出入国の人数を集計して統計基礎データを作る政府官僚と閣僚たちが一番よく分かっているはずなのだ。

ほとんどの外資IRカジノ業者が「標的は日本人」と公言

 2019年5月16日、IRカジノ推進派の国会議員が多数参加したシンポジウムが東京で開かれた。登壇したIR議連の細田博之会長と自民党の萩生田光一幹事長代行は、それぞれ次のようにあいさつした。

  • 「日本国の観光を楽しんでいただいて、あわせてIR施設でカジノ等でも楽しんでいただく」(細田氏)
  • 「日本に対して熱い眼差しを注いでいただくことを心からお祈り申し上げ、……」(萩生田氏)

 しかし、前述したように、日本は観光客数の増加にIRカジノを必要としていない。従って、強行採決までして合法化したIRカジノ法の成立根拠と必然性など、初めからなかったといってよい。

 そうであれば、カジノ推進の人々と安倍内閣、誘致自治体の面々が、それぞれの立場から想定するIRカジノの収入とは、いったい「誰に博打をさせ、誰に大損させて稼ぎ出すカネ」なのか。

 結論を言えば、博打で大金を巻き上げる標的は結局、「日本人」なのである。事実、カジノがらみのイベントに参加した大手カジノ業者の幹部たちも、例外なく「客の大半は日本人だ」と断言しているからだ。

 2019年5月14日、和歌山湾にある人工島「和歌山マリーナシティ」でマグロ解体ショーが催された。さばかれたマグロの切り身を旨そうにつまんだのはフランスの俳優ジャン・レノ氏。彼はそこでカジノをPRした。

 どうしてカジノかというと、和歌山市がIR誘致を目指す自治体の1つであり、そこに日本事務所を開設しているフランスIRカジノ業者「グループ・ルシアン・バリエール」の公式ブランド大使を同氏が務めているからである。

 実はこの日、同社以外にも大手IRカジノ業者が参加していた。各社の幹部は現地で、日本に開業するIRカジノが客として想定する「標的」を明言している。ざっと列挙しよう。

  • 「日本人の客は5割を占めることになるだろう」(メルコ・リゾーツ&エンターテインメント)
  • ――同社の日本支社は、「カジノ汚職」で逮捕された自民党の衆院議員・秋元司容疑者(すでに離党)の関係先として東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。実はこの事件捜査は偏りのあるものだったが、詳述は別の機会に。
  •  
  • 「IR利用者の大半は日本人になると見込んでいる」(日本MGMリゾーツ)
  • ――数十年前に筆者が米国ラスベガスを取材した際、同社は世界最大のカジノホテル(客室5000超)を開業していた。地下には従業員のために巨大な“街”が準備され、膨大なモノとサービスが消費されていた。「従業員=客」ということだ。
  •  
  • 「(IRカジノ客はおおむね)6〜7割が日本人だろう」(ウィン・リゾーツ・ジャパン)
  • ――創業者のスティーブン・ウィン氏は「ラスベガスそのものが夢なのだ。この街に来れば、ゲストは全てから解放され、自由になれる」と言った。同社はIRカジノのエンターテインメント性を強烈に打ち出した。

 政府や財界は「IRカジノで外国人観光客が日本に巨額のカネを落とす」と言ってきたが、その見通しがいい加減なものであることは以上で判断できる。たった一つの「年次推移表」(前掲)と大手IR業者の公的「コメント」だけで、政府や財界のゴマカシはこうして他愛なく崩れ去る。

 それにもかかわらず、IRカジノ問題の急所を突く報道は1つもない。その理由と背景に、実は本題である「IRカジノは地域経済を活性化する」の真偽も直結する。“フィクション”まがいのこのキャッチフレーズは、いったい何を目的に“創作”されたのか。(つづく)