洋服の青山 YouTube公式チャンネルより

『商業界オンライン』ではさまざまな流通企業を取り上げて警鐘を鳴らし、具体的な方策も提示してきたが、受け入れることなく業績を悪化させる企業が多かった。参考になる前例がないと転換に踏み切れないのかもしれないが、近似した前例があるのに見過ごすか無視して同じ轍を踏むことが多いのは残念というしかない。

青山商事が大幅下方修正

 青山商事が20年3月期決算予想を大幅に下方修正した。売上高を2355億円から2190億円に7.0%、営業利益を90億円から400万円の赤字に、最終損益を20億円の赤字から203億円の赤字に修正したが、その要因は以下の2点だと釈明している。

1)アメリカンイーグルの事業整理損84億円、ミスターミニットを展開する子会社の減損40億円

 アメリカンイーグルは2010年に青山商事が90%を出資して設立したイーグルリテイリングが米AEO社のフランチャイジーとなり、12年4月に原宿に「アメリカンイーグル」1号店を開設。ピーク時の17年3月期には34店舗を展開して148億円を売り上げても営業損益は15億円の赤字で、18年3月期には既存店売上げが2ケタ減に陥り、紆余曲折を経て19年末で全店を閉店し事業から撤退した。

 17年5月にイーグルリテイリング関連で38億1000万円の特別損失を計上。20年3月中間期に69億9800万円、20年3月期通期では84億円の特別損失を計上することになったが、17年3月期に計上した特別損失とこれまでの累積赤字を合わせればアメリカンイーグル事業で184億円の資本が浪費されたことになる。

2)売上減少による営業損失は4億円だが店舗の減損が50億円発生

 前期は2503億円を売り上げて146.3億円の営業利益を稼いでいたから、313億円(12.5%)の減収、146.34億円の減益となるが、コロナウイルスによる売上減少は2月後半からで(AOKIは2月も落としていない)、消費増税の10月以降の落ち込みが大きかった。

 青山商事のビジネスウエア事業とAOKIファッション事業の既存店売上前年比の推移を比較すると、上期(4〜9月)の差は極端ではなくAOKIが3.2ポイントのリードだったが、下期(10〜2月)は10.3ポイントにも開いている。消費税増税の駆け込みも反動も両者に大差はなかったはずなのに、どうしてこれだけ差が開いてしまったのだろうか。思い当たるのが青山商事が10月1日から実施した「価格表示の適正化」だ。

 

「Jos.A.Bank」事件

 青山理社長以下の経営陣が『申し訳ありません。洋服の青山は、スーツ業界特有のわかりにくい価格表示をやめます。』と仰々しく頭を下げる芝居かがったCMを見て頭に浮かんだのが、“米国の青山商事”ともいうべきテイラード・ブランズ社が2015年に同様な価格表示適正化を図って売上げと株価が急落した“事件”だった。

 テイラーズ・ブランズ社は米国最大の紳士服専門店チェーンで、19年1月期で32億2230万ドルを売り上げて2億1200万ドルの営業利益を計上している。19年11月2日段階で「Men’s Wearhouse」716店、「Jos.A.Bank」475店など計1451店をロードサイドや商業施設内に展開している。スーツ中心の構成で平均店舗面積が586平米だから、“米国の青山商事”と言っても差し支えないだろう。

 そんなテイラーズ・ブランド社も青山商事同様、2着セールどころか「Buy 1 Suit Get 7 Items」まで駆使した価格訴求を行っていたのを、「Jos.A.Bank」からシンプルな価格表示に変えたところ、顧客の混乱を招いて売上げが急落。株価は15年6月の66ドルから16年1月には10ドルまで急落してしまった。その後、いったんは持ち直したものの、昨年末ごろは5ドルの攻防で、3月に入っては2ドル台まで落ち込んでいる。

 

 価格表示は販売方法の骨格であり、それが正しいか否かではなく、顧客が買いやすいかどうかが問われる。顧客の購買慣習が2着セールなどイベント的購買喚起によって定着しているなら、それを一方的に変更すれば予想外の混乱を招くことは想像に難くない。テイラーズ・ブランズ社では実際にそれが起きたが、青山商事の経営陣はこの“事件”に学ばなかったのだろうか。米国を代表する極めて類似した紳士服チェーンの出来事だけに、知らなかったとは思えない。

なぜ他山の石に学ばないのか

 紳士服に限らず、正価販売への回帰が繰り返し叫ばれ、セット販売やタイムセール、チラシ広告やECでのクーポン販売などから離脱が試みられるが、うまくいったケースは極めて限られる。グロサリー食品やトイレタリーなど日常的継続的に購入する商品ならEDLPが好ましいが、購買頻度が低くなんらかの使用イベントや販売イベントがないと購入に踏み切れない品目については、さまざまに購買を喚起する仕掛けがないと売上げが稼げない。

 購買慣習は店舗やサイトと顧客との“社会契約”であり、売り手が一方的に変えれば顧客の離反を招きかねない。それは取引関係とて同様で、バイヤーやプラットフォーマーが一方的にルールを変えれば信頼関係が崩れ、やがてはサブライチェーン総体の魅力もあせて顧客の離反を招く。

 紳士服チェーンの衰退は、年に2回転もせず持ち越し在庫に新商品を継ぎ足していく鰻のタレのような非効率な商売がビジネスウエアのカジュアル化というマーケット変化に直面して崩壊していく姿であり、カジュアルに手を出して大やけどをするのではなく、デジタル装備のショールームストアや短納期パターンオーダーに総力を挙げてシフトしていくべきだった。それは物流コストの高騰に直面したZOZOが物流体制の根本的転換に注力せず、PBに活路を求めて大やけどを負ったのと大差はない。

 繰り返し事例を挙げて警鐘を鳴らしても「他山の石」に学ばないのは一体どうしてなのだろうか。