「独立したのだから『ここは俺の城!』俺の好きにやる!」

「良いよ、良い!それでよし!」

 普段から明るい笑顔で店内に響き渡る大きな声で「いらっしゃいませ」

 気さくにお客さまに話し掛け、“繁盛店”として栄えていたコンビニのベテランオーナー、先輩の話です。

遊びに来ていた他店のバイトを殴った

 何事も親身に相談に乗っていただける良き先輩なのですが……、店の訪れると、なぜか今日は機嫌が悪そうだ。

 ふと、手元を見ると白い軍手? 見直すと手に包帯をしていました。

 そこで仕事での「けがか?」と恐る恐る尋ねると、よそのバイトが遊びに来ていて、「あまりにもふざけていたから頭にきて殴った!」というのです。

 思わず、「なぜ、そんな些細なことで人を殴るのか? そのバイトの人のけがは?」と聞くと、「知らね~よ! そんなの関係ね~、俺の手の骨が折れた」と答え、「お前は頭にきたら殴らないのか?」と言うのでした。

 そこで、一呼吸置いてから……、「恥ずかしながら、自分はね、嫌というほど少年時代や自衛隊員時代に理不尽な体験をしてきました……。今、守るべき家族があり、些細なことで暴力を振るい、人生を台無しにしたくないから、そんなことできるはずもないですよね……」と言いました。

 すると、冷静になったのか、「お前の言う通りだよな……」と。

 アンガーマネジメント(怒りを予防し制御する心理療法)の重要性は思い当たる面があったので、私自身も気を付けていこうと思ったのでした。

商品説明会で便座を振り回した理由

 年に数回行われる盛大なイベント「コンビニFC加盟店商品説明会」。

 大勢な人で活況に沸く会場から「やめてください! キャー!」という女性の叫び声……。「ギャー」という子供の泣き叫ぶ声……。

 “キレ者の先輩”が「おりゃ~ 、コラ~ 」と喚き散らしながら、会場のテーブルやいすをひっくり返し、手にした「丸い物体」をぐるりぐるりと大きく回転させながら、誰かを追い回しているのです。

 ここは、陸上競技の円盤投げの会場か? それともプロレスの場外乱闘か?

 目の前で繰り広げられる光景に、わが目を疑ったのでした。

 よく見ると、丸い物体は何とトイレの便座。もしもの緊急時に備えつつ「アトラクション?」が落ち着くまで様子を見ていました。

 後で先輩に「なぜ、暴れたのか?」と尋ねると、「経営する店舗のトイレ便座の不具合を何度も相談しても本部担当者が対応しない。

 無視をされたから、フラストレーションがたまり、頭にきて追い回して暴れた……」

 しかし、仮にも「コンビニFC加盟店商品説明会」は、コンビニの本部、加盟店、メーカー、関係各社、多数の方々が集まる大切なイベント。その開催中に多数の目の前で暴挙に出るのは……。

 まして、女性や子供を怖がらせることはまずいと、コンビニ経営の後輩の立場ながら諭したのでした。

 その後、この件に関して、本部から明らかな粗暴行為へ至る経緯の聞き取りや注意勧告が行われるのかと推測していましたが、結果的には「臭い物にはフタをしろ」と見て見ぬふり。これはコンビニ本部の「自己保身」「責任逃れ」なのでしょうか?

ついに本部から契約解除を伝えられる

 数年後、私がコンビニ本部社員の方と打ち合わせの最中、携帯電話が鳴り響きました。

 その先輩は悲痛な声で、「俺、やっちまった……」。

 話を聞くと、突然、本部の地区責任者が店に来て、俺が「店の営業担当を殴り、けがをさせた! 弊社社員に対してのこの行為は弊社に対する重大な不信行為であり、病院に通院中で全治1カ月と診断書が出ています。よって、〇月〇日でFC加盟店契約を解除します、同意をいただけるのでしたら、違約金を免除します。ただし、〇月〇日に地区事務所にFC加盟店契約時の印鑑と契約者、当人が来るように。同意をいただけないのであれば、管轄の警察暑に刑事事件として告訴し、FC加盟店契約に基づき損害賠償金の請求訴訟を起こします」と淡々と冷静に告げていった……。

 先輩の言い分は、「俺は殴っていない! じゃれた、だけだ! 全治1カ月? 大袈裟だ! コンビニ本部は俺をはめようとしている! 俺は納得がいかない!」

 先輩は、私に本部とのネゴシエーター(交渉人)になることを求めてきたのですが……、私は先輩にこう言いました。「少なくとも暴力沙汰を3回は把握していますから。もう無理ですよ。今まで何度も自制するように話してきましたよね。独立して一国一城の主になると、わずかですが傲慢になりわが道を進む方もいらっしゃいます。それで、大成功するならよいですが、コンビニFC経営は大半が『立場の弱い小魚の群れ』ですから、小魚の命運は危ういものなのです。勘違いし、たがが外れて起こした行動が原因なので、今が引き際。これ以上、もめない方が良いです。自業自得なのですから……」

 すると、先輩は「もう良いよ。今までありがとう! 楽しかった。元気で過ごせよ。さようなら」と電話を切ったのでした(しかし、この言葉に一抹の不安を感じたのです)。

頭をよぎった「立てこもり放火事件」の可能性

 先輩は以前から「コンビニの本部社員、特に幹部たち、一部の貴族社員は俺たちを完全になめている! 会議で言っていた。奴ら加盟店は『奴隷だ! 何をしてもいい! 言うことを聞かなければ俺のところに言ってこい!』と」

 結果的に魑魅魍魎の「コンビニ業界の問題」は露呈したわけですが、その時、先輩が言っていた「俺は何かあった時は必ず行動に移す!」という言葉も思い出したのです。

 そして、頭をよぎったのが、本部とのトラブルによる「立てこもり放火事件」。まさかの可能性を感じ、ベテランの本部社員に相談内容を打ち明けました。

 その後の本部の対応は素早く、屈強な精鋭部隊数人を編成(?)し、本部社員が怒濤の如く、先輩のコンビニ店舗を訪れ、「〇月〇日に地区事務所にお呼び致しましたが、長くに渡りコンビニFC経営をしていただきました。本日を持ちまして無条件でのコンビニFC契約の合意解約を」と懇願され、「情けなくなった……」と先輩。

「さすがに、折れてコンビニ契約終了書面に署名し、俺の長いコンビニ経営も終わったよ」と電話をいただきました。

 実はこの暴力沙汰の原因は、先輩オーナーの売上金の着服。善良な本部社員が抜き打ちの会計監査を行う最中に「俺の金に勝手に何をするのか!」と、身勝手な考えで激怒しての行為だったのです。

 昔、深夜に先輩の店舗を訪れると、許可なく店舗を閉めて宴会。「時短営業をして大丈夫か」とお聞きすると、「そんなの関係ね~」

 先輩が経営をやめたコンビニ店はその後、激しいコンビニ競合に惨敗し大赤字で撤退。「その店舗を経営していたのが知人で知った。今の仕事は俺の天職! 俺、結果的にあの時にやめさせられたけど運が良かった」と、今も、相変わらず明るく前向きに元気に過ごしてみえます。

 ある意味「時代の先を行っていた」のかもしれません……。