マカオのカジノVIPルームで飛び交う莫大な賭博マネー、40兆円超!

「……収入は数千万の時もあれば1億を超える時もありますね(笑)。いや、実際バラバラなんですよ。ローリングのベット額がどのくらいになるか次第ですし、お客さまによっても全然違いますから。……今回の帰国ですか? もちろん、お仕事です(笑)」

 これは以前、東京・赤坂の中華料理店で某ロビイストを取材した際、その知人ということで途中から合流し紹介された男性が雑談で漏らした話だ。「エージェントとしてマカオのジャンケットに所属している」という。

「ベット」は「賭け」の意。「ジャンケット」とは、カジノに高額賭博の顧客を紹介して報酬を得る組織。「エージェント」は、顧客に交通機関の手配や宿泊、両替などのサポートサービスを提供する人々の呼称だ。読者は少し驚かれるかもしれないが、コメントに出た金額は「年収」ではなく「月収」である。

 彼は、続けてこう言った。

「私じゃないですけど、同業で1億くらい稼いだケースもありますよ、1日で(笑)。マカオでは紹介料の取り分がベット額の何%までと決められていて、平均だと1%前後かなと思います」(同)

 マカオ特別行政区のカジノ規制機関「博彩監察協調局(DICJ)」は、ジャンケット業務の報酬上限がローリング総額の1.25%を超えてはならないと規定している。「ローリング」については少し複雑なので、いずれこの話の続きと併せて詳述するが、行政法規に違反すれば罰金を科される。

 後段の話に出た顧客は、つまり「100億円(=1億÷0.01)を1日でベットした」ということだ。一般庶民の金銭感覚から見れば、「富豪ぶりもいい加減にしろ」と言いたくなるようなカネ遣いだが、実は、“超・鉄火場”とされるマカオVIPカジノルームのベットとしては特に珍しくもない話なのである。

 米国ラスベガスを抜いてマカオがカジノ収益で世界一になったのは2006年。7年後の2013年には451億ドルという莫大な営業収益を記録した。1ドル100円換算だと日本円で約4兆5100億円である。

 しかし、この数字は「営業収益」にすぎない。というのも、カジノの収益は「客が負けた金額と諸手数料との合算額」であり、賭けられたチップ総額の一部にすぎないからである。マカオにおける同年の賭け金推定総額は、実に40兆円超! オーストラリアの国家予算にも匹敵する金額だ。

IRカジノ法で民間カジノ業者による賭博を安倍首相が公認・奨励

 今、日本は「消費の場としての地域を活性化するためにはどうしたらよいか?」という難題を抱えたまま、出口が見つからず右往左往している。「地域活性」とは「地域経済の振興」であり、それは「地域にカネがあふれる」ことを指している。カネがあふれれば「就労環境も整う」ため、「いいことだらけ」という理屈だ。

 驚くべきことに、数多ある政策案を打ち捨てて、安倍晋三内閣が「政府として、その課題解決にお応えしましょう!」と選んだ国策は、なんと「外資を含む民間カジノ業者による賭博の合法化」だった。民間業者が自ら設置して運営する賭博ビジネスを「政府が公認」するのは、日本史上初の“怪挙”だ。しかも「強行採決」というオマケ付きである。

 令和の時代に入る前年の2018(平成30)年7月20日、カジノを含む統合型リゾート(特定複合施設)を設置するための法律「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(略称「IR整備法」、通称「カジノ法」)が参議院本会議で可決・成立し、2019(同31)年3月29日に公布・施行された。

 IRとは、コンベンション(国際会議場)、エンターテインメント(娯楽施設)、ショッピング(商業施設)、レストラン(飲食街)、ホテル(宿泊施設)といった複数のリゾート施設が置かれた観光区域のことだ。その中に「カジノ」(賭博施設)の設置も認められた。国内の経済事情が激変し、遊び方やモラルも様変わりする中で、「観光立国」振興の目玉として安倍首相の肝煎りで制定された閣法が、このIR整備法である。

 しかし、賭博ビジネスの儲けと成功は、人が「カネを失い」「ギャンブル依存症に陥り」「家族や友人を失い」、地域の「治安が悪化し」「近隣の商売が影響を受け」……といった数々の“不幸”に支えられて成り立つものだ。そのため、政府がこれを「公認」したことに国民世論は猛反発した。民営賭博の合法化を現実のものとした政官財の人々は、法制化され施行された今、それまで公言してきた「IRカジノのメリット」を実証する義務を負っている。

 本連載の目的は、そこで公言され提唱されてきた「数々のメリット」のうち、特に「地域経済の活性化に寄与する」という宣伝文句を中心に、その内実を検証・分析することである。

豪華クルーズ船「洋上ミニIRカジノ」の賭博ビジネスも今後はより盛況に

 周知のようにカジノは世界で知られる「賭博」である。IR整備法が「カジノ法」と通称されるのはそのためであり、IR整備法とは、つまり「カジノ解禁法」なのだ。

 カジノは国の規制次第で微妙にスタイルも変わる。日本政府は、先行事例としてシンガポールのカジノに主眼を置き、法を整備したと説明している。IR整備法に基づくカジノの売上げは「当該IR売上総額の大半を占める」ことが見込まれており、その占有面積は「IR全体施設面積の3%まで」と規定された。法案提出から可決・成立、施行に至る過程で、新聞やテレビが「カジノは、占有面積3%でIR売上全体の80%を稼ぐ」「地域経済の活性を促す」と連日のように報じた。

 いまさらテレビ番組に文句を言っても仕方がないが、日中のワイドショーで連日のように報じる中身が、いつも煮え切らない。局側は「具体的な賛同」を秘め、コメンテーターには「抽象的な批判」をさせつつ、両方を混ぜ合わせて番組を放映すれば「とりあえずは“中立”のアリバイになるだろう」といった魂胆を感じさせることが多いのは、それに満足する視聴者が多いからだが、おかげで、視聴者の大半は重要な問題を何も知らされぬまま、ただ可決・成立・施行の成り行きを眺め続けるしかなかったようだ。

写真はイメージです

 ところで、民間業者による賭博の合法化は、陸だけでなく海にも及ぶ。

 今年2月25日現在、新型コロナウィルスの感染拡大が依然としてマスメディアを賑わせているが、注目を浴びたあの豪華クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」は、まさしく「洋上ミニIRカジノ・ビジネス」である。

 同クルーズ船には、大規模で複合的な施設群の中に、約150台のスロットマシンや10数台のゲームテーブルが設置されたカジノスペースが組み込まれており、巨大な「船」自体が一つの「街」となっている。客の多くに高齢客が含まれているのは、日本人の年金が世界中のビジネスの標的でもあるからである。巨大クルーズ船も、カジノの収益がなければ儲けもなく運営できないのだ。

 今後は、巨大クルーズ船が日本の港でも堂々とカジノ賭博を打てるようになったわけだ。長年働いて貯め込んだ貯金と年金は、巨大クルーズ船の華やかな企画や就航数の増加に比例して、これからは日本の港や領海内でもどんどん海の中に消えていくことだろう。

IRカジノの起案者→トランプ大統領の大口献金者→日本に1兆円投資!宣言

 IRカジノ法がまだどうなるか不明だった今から6年ほど前、「日本のカジノに100億ドル(約1兆円)を投資する準備がある!」と狼煙をあげ、巨万の富を誇示して大手賭博ビジネスとしての日本上陸を高らかに宣言したのは、米ラスベガス・サンズ社のシェルドン・アデルソン会長兼CEOである。筆者は当時、この“上陸宣言”を別の媒体の短い記事で論評したことがある。

 同氏は、カジノホテルを本業とするドナルド・トランプ米国大統領の大口献金者としても知られており、両者はいわゆる“マブダチ”だ。

 そもそも、IRカジノそのものは、「カジノを合法化するためにIRという場をひねり出す」という昔の米国産ビジネスモデルを採用したものだが、実は、1980年代末の米ラスベガスで、「IRカジノ」という新しいビジネスモデルを起案し実現したのが、このアデルソン氏を頭目とする米ラスベガス・サンズ社だった。第2回につづく)