流通業界では「納入掛け率」や「原価率」が話題になることが多いし、消費者の目から見て「原価率」はお買い得かどうかの目安ともなるが、これが結構怪しい代物だ。大衆品から高級ブランドまで、何かと怪しいアナウンスにだまされかねない「原価率」のマジックを解き明かしてみたい。

ユニクロ、しまむら、ワークマンの原価率

 世には「薄利多売」と言うから高級品は利幅が厚く大衆品は利幅が薄いというイメージがあるが、あながち間違ってはいない半面、実態を掘り下げてみると認識を改めるべきことも少なくない。

 アパレルの世界で大衆品を代表するのはユニクロとしまむら、ワークマンというのが今日で実勢だから、この3者の価格と原価率をまず比較してみよう。無印良品(良品計画国内事業)の衣料品比率はインナーまで含んでも29.1%(877億4500万円/19年2月期)にとどまるので、ここでは外したい。

 

 価格の水準を表すのが平均販売単価と同客単価だが、決算書で客単価や商品単価は必ずしも開示されておらず、一部は推計するしかない。最も客単価が低いのがしまむらの2553円(商品単価は859円)でワークマンも2671円と大差ないが、ジリジリと高級化するユニクロは客単価も商品単価も前年比のみで実額は一切、公表しておらず4600〜4800円程度と推計される。

  原価率はしまむらが68.2%と最も高く、ユニクロが53.3%で続き、ワークマンが44.9%(加盟店のみだと48.1%)と最も低い。決算書に記載される原価は売上原価であって、値引きや廃棄処分の減損が加わって調達原価より高くなる。各社の売価変更の頻度や部分的な公表値から調達原価率をバックリ推計すれば、しまむらが61.4%と最も高いが、値引きがほとんどないEDLPのワークマンが44.3%とユニクロの36.5%を逆転する。ワークマンとユニクロの8ポイント弱の差は売価では22%ほどの差になるが、店頭の商品価格にはもっと差があるように感じられるのはなぜだろうか。

 価格に対する割安感が調達原価率にスライドするとすれば、この順にお買い得ということになるが、ことはそんなに簡単ではない。

調達原価率のマジック

 調達原価は工場出し値(EXW)に、a)生産地での物流加工や仕分け、空港や港までの物流費、b)関税や保険料、貿易決済手数料、c)生産地から国内倉庫への物流費、d)国内倉庫での保管料や仕分け出荷費用、e)一括納入ではなく分納だと長期保管料や金利、在庫リスクの分担コストまで乗ってくる。このどこまでを含んでの調達原価なのかが問われるが、ベンダー企画の製品仕入れが大半のしまむらは、このほとんどを含んだ調達原価率だから、当然に高くなる。ワークマンは過半に迫るPBこそ直貿が多いにしてもb) やc)はともかくa)まで自分で負担しているかは不明だし、仕入れ商品はベンダーに在庫補給を委託するVMIだから、しまむらに近いと思われる。

 ユニクロは「製造情報小売業」の建前としてはこの全てを自分で負担しているかのようだが、現実は全く異なる。18年8月期第2四半期まではa)からe)まで商社が負担し、国内倉庫からユニクロの店舗に出荷された時点で在庫の所有権がユニクロに移るという商社依存体制だった。生産地工場から国内倉庫までの物流がブラックボックス化してC&CなOMO戦略に立ち遅れ、18年8月期第3四半期から国内倉庫に入荷した時点でユニクロに所有権が移る会計処理に変わったが(それで在庫は2.4倍になった)、生産地工場から国内倉庫までの在庫運用は依然、商社に依存したままと思われる。ユニクロの調達原価率には商社が負担するこれらの業務の手数料が乗っており、手数料分を差し引けばユニクロのEXW(工場出し値)原価率は34%を切ると推計される。

 三者のEXW(工場出し値)原価率をバックリ推計すれば、ワークマンが43%と最も高く、しまむらが40%で続き、ユニクロが34%弱と最も低くなる。推計を重ねた全くアバウトな数字だが、顧客の印象にも近いのではないか。

 グローバル展開やブランディングのコストが肥大するユニクロは「低価格高品質ベーシックSPA」から「適正価格高品質ベーシックNB」へとマーケットポジション自体が上滑りしており、EXW原価率で他社とお買い得感を比較する次元ではなくなっているのかもしれない。

  • OMO(Online Merges with Offline):ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、モバイルフォンをキーデバイスにウェブルーミングとショールーミングを駆使して顧客利便と在庫効率を高めるニューリテール戦略。
  • EXWEx Works:ICC(国際商業会議所)が定める貿易規定インコタームズが区分する取引形態の一つで、最も価格が低くなる「工場渡し」を指す。他にFOBやCIFなどがある。
  • NB:ナショナルブランド。