人材不足が叫ばれる昨今、飲食業界でも慢性的な人手不足が起きている。しかしながら、「外国人材」が頑張ることで「働きたい店」として問い合わせが殺到している事例がある。それが「焼肉きんぐ前橋店」だ。

 同店は愛知県豊橋市に本拠を置く(株)物語コーポレーション(代表取締役社長CEO/加治幸夫、以下物語Co)の焼肉業態で、昨年の10月4日(金曜日)に「チャレンジ営業」と称して、外国籍の従業員だけの21人(5カ国)で営業を行い、客数232人、売上高80万6008円、売上前年比175.4%、売上予算比152.4%を達成した。

 同店は122坪、26卓150席で、営業はディナータイムのみ。通常、この時期の金曜日の客数は約180人、前年の売上げは52万円で当年の売上予算は55万円に設定していた。それを、外国籍の従業員たちだけでさまざまな施策を自ら考えて行う「チャレンジ営業」ということで目標80万円に設定し、冒頭のような成果をもたらした。この快挙はいかにして達成できたのだろうか。

外国籍の人材を積極的に採用するワケ

 物語Coという会社には外国籍の人材を貴ぶ文化が存在している。同社では「ダイバーシティ(多様性)推進」を掲げており、その一環として外国籍従業員採用に力を入れている。

 同社の経営理念には「個の尊厳を組織の尊厳より上位に置く」という一文があるが、これは「一人一人の個性を尊重すると同時に、一人一人が自らに責任を持ち、自分の考えを積極的に他者に伝える義務を持っている」ことを意味している。

 そこで外国籍従業員には、自分の考えを堂々と他者に伝える「モノ言う文化の醸成へ向けての模範演技者」としての役割を期待している。現在、同社では25カ国500人の外国籍従業員が勤務しており、うち約90人が総合職(正社員)として勤務している。

「焼肉きんぐ前橋店」店長の中村莉子氏

 今回、同店の店長、中村莉子氏に取材をしたのだが、いかにもポジティブな人物であった。中村氏は長野県出身、高校生時代に地元の「焼肉きんぐ」でアルバイトをしていて、物語Coの清らかな社風に引かれたという。2016年4月高校卒の新卒で入社、現在22歳。同店の店長には昨年10月1日に就任した。

 同店の周りには日本語学校が5校、その他にも外国籍留学生に向けてホテルサービスを教える500人規模の専門学校もある。外国籍の人を雇用する環境が十分でありながら、中村氏が前橋店に就いた当時は外国籍の人の採用を積極的に行っていなかった。

 その後、前橋店は人員不足を解消するために外国籍のアルバイトを積極的に採用する方針を打ち立て、店長たちが近隣の専門学校を訪問することになるが、そんな時、インドネシア国籍の人が1人面接にきて、人格面でも優れていたことから採用に至った。そして、その従業員が「僕の友人を紹介したいです」と次々と同じ学校の外国籍の学生を紹介してくれるようになり、外国籍の従業員が十数人と、急速に増えていった。

売上げを考えて、うまく店長を利用する外国籍従業員

 現在はアルバイト在籍50人、うち23人が外国籍で、ほとんどが20代前半で東南アジア出身となっている(同店ではOJT、OFFJTでの教育ツールは日本国籍、外国籍ともに同じものを使用。ただし、日本語のレベルに応じて言葉を簡略化するなどしている)。外国籍アルバイトだけの「チャレンジ営業」を発案したのは当時アルバイトリーダーをしていたリコ・フェブリアン氏(インドネシア国籍、22歳)だ。

外国籍アルバイトだけの「チャレンジ営業」をまとめたリコ・フェブリアン氏

 ある日、中村氏はフェブリアン氏に「うちでも何かやらないか」と声を掛けたところ、「じゃあ、自分たち外国籍アルバイトだけで店を運営させてください」と提案してくれた。

 物語Coには「チャレンジ営業」を行う文化がある。それには新入社員研修を終えたばかりの新入社員だけで行うことから始まり、パート・アルバイトだけで行うものなどさまざま。高い目標を立て、それに挑戦することの重要性を学び、成果発表で共有している。

 中村氏が「なぜ、そのように考えたのか」と尋ねると、「外国籍アルバイトのみんなが楽しんで仕事をしている。僕たちのチャレンジによって良い結果を残し、全国の留学生に誇りを持ってもらい、前橋店のような店を日本の当たり前にしたい」とフェブリアン氏は答えた。

 当日の目標売上げは「80万円」としたが、中村氏は「普段の売り方では80万円は売れない」ということも伝えていた。そこで、どうすれば80万円を達成できるか、フェブリアン氏が中心となって、外国籍アルバイト同士が話し合うようになった。

 まず話に上がったのは、客単価を上げる方法。「焼肉きんぐ」はテーブルバイキングでコース価格が決まっているので、コース内容をグレードアップしてもらう必要があった。「焼肉きんぐ」で最も人気のあるコースは2980円(税抜)のコースで、出数では50%を占めるが、そのワンランク上のコース 3980円(税抜き)の比率を高めようとした。

 そこで、「3980円のコースを頼んでくれたら、帰りにインドネシアなど、自国のお菓子などのお土産をプレゼントする」という取り組みをした。また、3980円のコースは国産牛が食べ放題なことから、「国産牛が食べ放題」ということをお客さまとしっかりと会話し、注文を勝ち取るようにした。

 次に、この取り組みを実際に見てもらうため、フェブリアン氏は中村氏に本社社員に来てもらうよう働き掛けた。本社の人も各店の店長も前橋店の教育的環境については興味を抱いていて、20人以上の人がやってきた。また、外国籍アルバイトが通う専門学校の職員や友人たちにも声を掛けて、来店をお願いした。

「売上げをつくるために、店長も利用することを本気で言えるようになった」と中村氏は語る。この結果、積極的に意見交換が行われるようになり、店舗にポジティブな体質が備わっていった。

外国籍従業員を採用することで、改善提案が増えた!

中村氏、フェブリアン氏による物語コーポレーション「営業改革会議」での発表の様子

 店長の中村莉子氏とチャレンジ営業当日の責任者であるリコ・フェブリアン氏は昨年10月25日開催の物語Co『営業改革会議』で、前橋店の外国籍アルバイトへの取り組みと成果についてプレゼンテーションを行った。

 そこではダイバーシティ推進が同店にもたらした成果を2点挙げている。

 1つ目がしっかりと自分の意見を持ち、伝えることのできる従業員が増えたこと。特に、生産性の向上やお客さまの満足度アップにつながるような改善提案が増えて組織としての一体感が増した。

 もう1つが、店舗従業員の間で行われる教育が、具体的に誰にも分かりやすい言葉で丁寧に行われるようになったこと。特に日本人特有の「一を伝えて十の理解を求める」ような教育スタイルではなく、具体的に誰にも分かりやすい言葉で丁寧な教育が行われるようになった。これによって従業員の成長スピードが上がり、コミュニケーションが円滑になった。そして、その成果は「この店で自分が働いてみたい」という求人の問い合わせの増加という成果ももたらしているという。

「やる気」とは言葉にするのはたやすいが、この情熱が結集することで偉大な成果がもたらされる。それを「外国籍の人材だけで達成できた」ことは、多様性が求められるこれからの時代に、グローバルで柔軟な環境を大いにアピールすることにつながる。「人材不足」を嘆く前に、こうした文化を醸成することが重要なのだ、ということに気付かせてくれる事例である。