「人の印象の専門家」の吉武利恵です。

 企業向けのコミュニケーション研修を依頼されると、必ず外せないテーマがあります。それは「信用」と「信頼」につながるコミュニケーションスキルです。この2つのキーワードは仕事上の人間関係のゴールといってもよいかもしれません。印象をセルフマネジメントする上でも、欠かせないとても重要なテーマです。今回はこの「信用」と「信頼」について考えてみましょう。

信用から信頼へ、必要なのはプラスのストローク

「信用」は相手を信じるという気持ちを表す言葉ですが、人間は何を元に信じるのでしょうか。「信用取引」や「信用情報」という言葉があるように、「約束したレベルの仕事が遂行された」「制約や約束をきちんと守った」「仕事の準備がきちんとできていた」など、過去の実績を元にその人を信じるわけです。実際の能力や行動の結果を元に判断して、それが信用に値すれば「信用できる人」になります。

 では、「信頼」とは何でしょうか。「信用関係」という言葉はなく「信頼関係」と言いますよね。過去の「信用」の積み重ねにより、不確実な未来の仕事に対して、この人なら任せられると判断することが「信頼」です。日々の発言や行動で「信用」を積み重ねた人に感じる感情といえます。

「信頼関係」を継続するには、かけられた期待に応える必要がありますが、これはお互いの心が通じ合わなければ成り立ちません。そのためには「信頼している」「期待している」ことを、言語と非言語で正しく相手に伝えることが重要なのですが、これにはコミュニケーションスキルが必要になります。

 人と人のコミュニケーションでは「どの顔で、どの声で、どの言葉で、どの態度で対応する」かにより、相手の心への届き方に差が生まれます。弊社のコミュニケーションに関する研修では、さまざまな角度のコミュニケーションスキルをご紹介していきますが、その日にどれだけ頭で納得しても、見ただけ、聞いただけでは、それは身に付きません。

 参加者が自分のこととして感じ、今後スキルアップに取り組もうと心に決めて、実際に取り組むことがとても大切で、そのために毎回、研修の最後に「本日の研修の中で今後取り組もうと一番強く思った内容」を一つ発表してもらっています。

 そうすると参加者の半数以上の方が今後の課題として「プラスのストロークに取り組もうと思う」と発表してくださります。そこで、今回のコラムでは、使わなきゃもったいない!「プラスのストローク」にフォーカスしてご紹介いたします。

 関連コラムとして『〈第9回〉相手の一番良いところを探しましょう「“褒め”てる?“認め”てる? それ間違ってない?」』もございます。ぜひこちらもご覧ください。

3つのストーロークの違いと効果的な使い方

「プラスのストローク」という言葉を初めて聞かれる方もいらっしゃいますよね。「ストローク」とは心理学用語で「発言や動作の言語と非言語の心理的メッセージのこと」。心理メッセージのストロークには3つの種類があります。

図① 3つのストローク

(1)プラスのストローク:ポジティブな人間関係構築に役立つ

 プラスの発言やプラスの動作・行為のことで肯定的なコミュニケーション。相手が喜んだり、心地良いと感じるコミュニケーションの取り方です。好意を伝えるプラスの心理メッセージのやり取りは、相手に好感を与えやすく、ポジティブな人間関係構築に役立ちます。

(2)マイナスのストローク:できる限り避けた方が良いが使うときも?

 否定的な発言をされたり、恐怖を感じる行動をされると、心地悪さや嫌な気分になりますよね。マイナスのストロークは人が嫌がるコミュニケーションです。良好な人間関係を作りたい場合は、できる限り避けることをお勧めします。

 しかし、時には叱らなければならない場面もありますね。

 例えば、前回と同じミスを繰り返されると、怒りの感情が沸き上がってくるのは人間の自然な感情です。しかし、上司として部下を育成するには上手に叱ることが大事です。

 叱る際はいったん、怒りの感情をコントロールします。なぜなら、怒りの感情はマイナスのストロークなので、どんなに正しい事を言葉で伝えても、相手は聞きたくない、言葉を受け取りたくないという感情になるかもしれないからです。

 上手な叱り方では、部下と2人きりで話し合いの場を持つことも大切です。現状の問題点と改善策、インパクトを相互に理解し、部下に納得させることが部下の成長につながります(例えば、①現状の問題点「なぜまた同じミスが起きたのか?」 ②改善策「今後、同じミスが起きないための対処法は何か?」 ③インパクト「次に同じミスが起きると会社にどんなデメリットが起こる可能性があるか?」)。

(叱るときに添えるプラスのストローク例)

・「今回のミスは今後の君の成長にきっとつながっている。今後を期待しているよ」

・「今回は同じミスを繰り返してしまったことは、君にとっても悔しい思いだろうと思う。このミスをバネにしてほしい。君は会社を引っ張っていく人物になれるはずだから期待している」

・「今回同じミスを繰り返してしまったことは君が一番驚いているかもしれない。他の従業員も君の頑張りを褒めていたよ。仕事に集中できないことがあれば、いつでも相談してほしい」

 つまり、上手な叱り方とは、起こってしまったことを冷静に振り返り、改善策を決め、次のチャンスがあることと期待をプラスのストロークで伝えることなのです。叱られている時に部下が納得している表情であることが大事です。

(3)ゼロのストローク:存在自体を認めない振る舞い

 マイナスのストロークよりも、心が傷つく可能性があるのがゼロのストロークといわれています。なぜなら、マイナスは相手の存在は認めていますが、ゼロのストロークは無視や無反応なので、存在自体を認めない振る舞いだからです。大して悪気なくゼロのストロークを行ってしまった場合でも心が傷つく人がいるかもしれません。ゼロのストロークは使わないようにしましょう。

 人と人のコミュニケーションはよくキャッチボールに例えられますね。「聞いて、話して、聞く」の繰り返しです。相手の話をよく聞くことを「傾聴」といいます。しかし、うまく聴くことは簡単ではありません。

「聞く」と「聴く」の違いを例えると、「聞く」は「門+耳」なので、「門の前を通ったら耳に入ってきた」という「聞こえる(Hear)」に近いイメージ。これに対して、「聴く」は「耳+十+目+心」なので、「耳と目と心で十分に聴く(Listen)」、相手の話に耳を傾けるイメージではないでしょうか。

 最後に、プラスのストロークを使った傾聴のポイントをご紹介しておきましょう。信頼関係を深めたい相手との普段のコミュニケーションで、あなたが“よくできている部分”にチェックを入れてみてください。チェックが入らなかった部分は今後の取り組む課題になります。