2018年10月に10日間営業した「ブランドレス」のマンハッタンでのポップアップストア 〔出所〕筆者撮影

 アマゾンが独占の様相を呈したオンラインリテールに、低価格とスピード配送だけではない独自の商品価値やブランド経験、新たなビジネスモデルで急成長したダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)ブランド。ワービー・パーカー、ボノボスなど初期に成功したグループに続き、昨年春にはキャスパー、レント・ザ・ランウェイ、グロシエ、アウェイなどが続々とユニコーン企業入りを果たした。

 しかし、斬新なビジネスモデルを提示すれば容易に資金調達できた時代は終わり、いったんはユニコーン入りした企業にも、厳しい再評価が始まっている。

ミレニアル世代向け3ドル均一オンラインストアの「ブランドレス」は閉業

 米国のD2Cブランド群の中でも注目されていたブランドレス。2月10日に突然従業員70人の90%を解雇し、オンラインストアに事業停止のメッセージを掲載した。

 同社は2017年7月、アイビーリーグの1校、ペンシルバニア大学出身のティナ・シャーキー氏がイド・レフラーと共に創業。ミレニアル世代をターゲットとし、3ドル均一、ヘルシーでシンプルだがシックなデザインのパッケージに入った食品や日用品をオンラインサブスクリプションモデルで販売。社会貢献を重視する同世代の嗜好に合わせて、購入額の一部を貧困な人々に寄付するプログラムも導入した。この斬新なコンセプトにより、瞬く間にメディアや投資家の間でスーパースターとなった。

 2018年7月には、ソフトバンク社のヴィジョンファンドから2億4000万ドルの資金調達を得て話題となり、その後、ニューヨークでポップアップストアを開き、化粧品やペット用品、ベビー用品など商品領域を拡大した。食品はGMO(遺伝子組み換え作物)を使わず、化粧品は細かく成分を表示し、有害成分は使わないなど徹底してヘルス、ウェルネスを追求。ファーストカンパニー誌の『世界でもっともイノベーティブな企業』の小売部門に2018年度、2019年度連続で7位にランクインし「アマゾンとも拮抗できる」とコメントされた。

 しかし、売上拡大の加速と経営体制強化のため、2019年3月に従業員の13%をレイオフし、シャーキー氏も辞任、同社CFO、その後元ウォルマート・ドット・コムCOOのジョン・リッテンハウス氏が経営を引き継いだ。

 3ドル均一価格のビジネスモデルでは客単価が平均48ドルと低く、黒字化には客単価70ドル、80ドルに増やす必要があった[1]ため、7月からはCBD(カナビジオル)入り製品を9ドルで販売するなど、高単価商品の導入に踏み切ったが、改革から1年待たずしてヴィジョンファンドは残り約1億4000万ドルの融資を解消し、事業閉鎖を決断した。

同ポップアップ店内の什器に並ぶ商品 〔出所〕筆者撮影

マットレス業界の革命児「キャスパー」はIPOで企業価額は半分以下

キャスパーのエッセンシャルマットレスと箱 〔出所〕キャスパー社提供

 キャスパーはマットレスをオンライン販売、圧縮梱包で箱に入れて通常配送を可能にすることで市場規模290億ドルのマットレス業界の常識を変え、急成長したD2Cだ。同業界では最大手マットレスチェーンのマットレスファーム社がチャプター11(米連邦破産法11条)を申請し、700店舗閉鎖に追い込まれる中、キャスパーはロジスティクスの革新で①100日間無料で自宅試用、②無料配送・無料返品という新サービスを提供して「マットレス・イン・ザ・ボックス」という新ビジネスモデルを開発した。

 またキャスパー・ラボを設立し、快眠を追求した製品開発にも力を入れている。2017年5月からはターゲット社と提携し、1000店舗以上で販売を開始し、翌年5月からはターゲット限定モデルで350ドルの低価格マットレス「キャスパー・エッセンシャル」を350店舗およびターゲットドットコムでも販売開始した。自社ショールームも全米に60カ所以上オープンし、今後200店舗に拡大を計画[2]している。

 昨年3月の資金調達時には企業価値11億ドルの評価でユニコーン入りし、IPOには大きな期待がかかっていた。しかし今年1月の2019年度第3四半期決算報告では累積売上高3億1200万ドルに対して6700万ドルの損失を計上、売上高は2017年度から18年度にかけて40%も成長したが損失は2018年度6400万ドルから拡大した。これを受けてIPO価格を当初17~19ドルから12~13ドルに引き下げ、結果、企業価額は5億ドル以下、IPO資本調達額は1億ドルとなり、初期投資家たちはIPOからリターンを得られなかった。

 キャスパーCEOのフィリップ・クリム氏は、『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューに答え、赤字の原因であったキャスパー・ラボ投資が一段落したとして、今後は出店や小売店卸の拡大を通じてマーケティング投資も少なくなるとコメントしている[3]

キャスパーのショールーム。家の中にベッドがあり、試すことができる 〔出所〕筆者撮影

最優先課題は、短期売上拡大から早期黒字化へ

 ブランドレスにもキャスパーにも共通の課題は、短期間に急成長するためのマーケティングや開発投資が重く、黒字転換に予想以上の時間がかかっている、ということだ。しかし、これはどのD2Cにも共通な課題だ。キャスパーと同時期にユニコーン入りし、IPOも噂されているオンライン・衣料品レンタルのレント・ザ・ランウェイ社も昨年7月に続き9月にも商品の配送遅延が発生し、新規オーダー受け付けを数週間中断してシステムをアップグレードし、サプライチェーンのトップを交代させている。新ビジネスモデルが売り物のD2Cだからこそ、既存のビジネスモデルからは予想のつかない部分に先行投資が長引く傾向にある。

 もう1つは、競争の激化だ。D2Cは既存の業界ルールを破壊し、新たな競争原理で新規市場を開拓していくのが特徴だが、1つの成功例が出るとすぐに類似モデルのスタートアップ企業が登場する。『ニューヨーク・タイムズ』の調べでは前述のオンライン・マットレス販売市場には現在175もの競合他社があり、その中にはマットレス製造業者大手のテンピュール・シーリー社も含まれている。

 多くのD2Cブランドはかつてのアマゾンに習い、斬新なビジネスモデルやテクノロジーの活用で短期間での売上規模拡大を最優先にしてきた。しかし、今後、投資側は出資条件のバーを上げてくるだろう。D2Cブランド側もユニコーン入りやIPOを最優先とする経営戦略から、早期黒字化を優先する方向に転換していくではないだろうか。


  • [1] 『フォーブス』’Brandless’ New CEO Is Dumping Its $3 Price Point, Hitting The Stores And Going Big On CBD’、Biz Carson, 2019年7月31日
  • [2] 『ウォール・ストリート・ジャーナル』’Casper, a Web Pioneer, to Open 200 Stores’, Khadeeja Safdar,  2018年8月8日
  • [3] 『ニューヨーク・タイムズ』’Casper, the Mattress Start-Up, Goes Through With Lackluster I.P.O.’, Erin Griffith、 2020年2月6日