ほとんどの香港人がマスク着用

 新型コロナウイルスによる新型肺炎は世界中で経済活動や社会活動に影響を与え始めているが、日常生活で最も身近な話題はマスク不足だろう。日本では大半の店舗で入手が難しい状況だが、香港では大手のドラッグストアでは売り切れていても、個人経営の薬局では高値だが販売しており、その調達能力に驚くときがある。

ベトナム製50枚入りを5600円で販売していた

 香港は中国本土とボーダーを接しており、中国人が入っていくのは容易だが、2月8日からは入境する人は香港市民を含めて2週間、強制隔離されることになった。これにより、実質、中国本土の人が香港に来なくなっている。

 香港では、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)の悪夢があり、新型肺炎が広がりをみせると香港人はマスクの買い占めに走った。恐怖という「トラウマ」がそういう行動を起こさせ、今、香港人の自宅以外でのマスク着用率は、限りなく100%に近い。

 そのため、マスクは品薄になるが、こうした時、香港人は小売店で販売されるのを待つかというとそうではない。まずは政治政党、一部の旅行代理店やレストラン、芸能人らが独自にマスクを調達し、香港市民を対象に無料で配布したりする。

 また、個人経営の中小薬局もマスクを独自に調達して販売をする。だが、下の写真を見ると分かると思うが、右が10枚入りで60香港ドル(約850円)、左がベトナム製の4層のマスクで50枚入り398香港ドル(5600円)と、決して安くない価格をつけている。

時によっては50枚入りなどの箱から取り出し、小分けして袋に詰めてから販売するケースもあるようだ
日本製のマスクも仕入れて販売

 日本ではメルカリなどでマスクを高額に転売した例があり、消費者庁とメルカリは適正販売を呼び掛けたが、香港政府が高額販売について言及することはほぼない。

 それは香港の伝統として「レッセフェール」(自由放任主義)があるからだ。法律の範囲内であれば自由に経済活動をしていいというわけで「政府は民間の経済活動に口も出さないが、損失を出しても助けない」というスタイルだ。

両脇に大きな看板で「龍城」「幸福」とあるのが、香港にある個人経営の薬局

「高いが供給が早いか」「安いが供給が遅いか」

 日本はどうか? 個人の薬局が自ら仕入れて販売しているという話を聞いたことがない。大手ドラッグストアチェーンもしかり。それは問屋を通して仕入れているからだろう。問屋がメーカーから仕入れなければ、自分たちに商品が回ってこないということになる。問屋は日本独特のシステムで外国にはないのは知られており、中間業者の存在意義について長年議論になっていることは読者の多くがご存じだろう。

 だが、「問屋だけに頼らず企業努力で何とか独自ルートを開拓しようとしないのか?」……。香港に長く携わる日本人からすると、こうした疑問を抱かずにはいられない。

 新型肺炎のような「人の健康や命」にかかわる出来事が起こったとき、「メイド・イン・○○」は二の次のはず。日本独自の商習慣に縛られるのも、日本全体にとってマイナスになるだろう。

 確かに、香港は「原理資本主義」的故にマスクも高値を付けるが、「頭にくる」けど頑張れば購入できる値段にする(売れなければ意味がないと考え、高過ぎない絶妙な価格設定をする)。しかも、マスクは街のどこかにあり、安心感がある。

 日本では価格は適正で誰でも買えるが、いつ手に入るのかが分からない。しかも、ほとんどの場所になく、その間にマスクを手にしていない感染症潜伏者がウイルスを巻き散らす可能性すらある。

 香港のように「高いけど供給は早い」か、日本のように「安いけど供給は遅い」か。このどちらを選ぶべきかは議論の余地があるが、日本人も本当は問屋があろうがなかろうが独自ルートを開拓しようと思えば、できる能力があることは確かだ。

 もちろん、「安くて供給が早い」のがベストだが、世界中で商品を奪い合う状況は今後も加速していき、商品調達が困難になる場面が増えていくことは確かだろう。そうした、これまでの常識すら変わる激変の時代。日本にとってどういう商売の在り方がベストなのか、小売企業は一度立ち止まって考えてもいいのかもしれない。そうしたことを「新型肺炎によるマスク騒動」を体験して感じた。