2020年1月8日に帝国データバンクが発表した調査結果によると、2019年のスーパーマーケット経営業者の倒産数は30件。その多くが地域密着型の小・中規模スーパーであった。

 ドラッグストアなど食品分野へ参入する新たなプレイヤーの登場、大手スーパーの出店数拡大、インターネットショッピング利用率の増加、少子高齢化・共働き世帯の増加など、地方の中小スーパーにとって厳しい環境の変化が続く中、リアル店舗が愛され続けるにはどうしていくのが良いのだろうか。

 今回は岐阜県の飛騨高山エリアに店舗を展開する、駿河屋の“メディア化”事例を紹介する。

地域コミュニティづくりに貢献する

 (株)駿河屋魚一が運営する「駿河屋」は、飛騨高山のエリアに5店舗を展開する街のローカルスーパー。昭和8年に「魚一商店」として事業を始めて以来、看板部門の鮮魚をはじめ、品質・鮮度の良い商品を魅力に地域の人々の食卓を豊かにしてきた。

 同社の理念は「幸せ創造」。お客さまや従業員はもちろん、店舗を展開する“地域全体”が幸せになることを目指し、日々事業を営んでいる。

 地域の幸せづくりに取り組む駿河屋では、店舗運営を通じた地域住民の健康づくりと、持続可能な地域づくりを目指す。具体的には「健康に資する商品づくり」と「地域コミュニティの再構築」「地域の買物困難者対策」に注力をしているという。

 そんな同社が、地域コミュニティの再構築施策として2016年にオープンしたのが「Fresh Lab. Takayama」だ。こちらは「より豊かな食卓と一歩先のくらしをみんなでつくる場(ラボ)」といったコンセプトのもと、エブリ東山店(岐阜県高山市)の一角に誕生したコミュニティスペースである。

エブリ東山店

 コンクリートの床とタイルの壁でつくられた空間は、スッキリとして現代的な印象。まるで本当の研究所のようだ。それでいて自然光がたくさん入り、要所要所のインテリアにはナチュラルな木材も使われているため、温かみがあり、おしゃれなカフェのようなイメージでもある。

 スペース奥にドンと構えているのは、豊富な調理機器をそろえた大きなキッチン。ここでは、買ったばかりのフレッシュな食材を料理してみんなで食べることができる。スーパーの一角らしからぬ、3Dプリンタやレーザーカッターといった、デジタル工作機器を備えた工房も併設。ここでは毎日使うカトラリーや家具、趣味で使う雑貨などが作れる。

 駿河屋魚一 Fresh Lab.担当 平井裕樹氏は「地域に住む人々が新しい知識や技術を取り入れることで、みんなでより豊かな食卓と一歩先の暮らしを作り上げていきたいと考えています」と語る。

食も、食以外でも。地域の人に集まる場と楽しさを提供

 

 Fresh Lab. Takayama(以下、フレッシュラボ高山)では、ある時は「飛騨の味食堂」とうたい、地域のお母さんたちを講師に招き、飛騨地方の伝統的な家庭料理をテーマにした料理教室を開催する。

 朴葉寿司やこも豆腐といった、飛騨に昔からあるレシピを学ぶことができるこの会。「スーパーの惣菜コーナーに並ぶほどメジャーな地元食だけど、意外と正しいレシピは知らない」という方が実は地域に多く、「『この教室を機に』と、多くの地域住民が参加するそうだ」

 教室の雰囲気が他のイベントとは違い”お料理会”に近いため、世間話など会話を楽しみながらできるのも人気の理由になっているという。

 また、食以外の分野でも数々のイベントが開催されている。夏休みに実施される子供向けの「ゴム鉄砲ワークショップ」では、フレッシュラボ高山にあるレーザーカッターを使い、本格的な木のゴム鉄砲を作る。普通のゴム鉄砲と違い連射できる点が大人気で、たくさんの子供が参加してくれるそうだ。

料理研究家から食品メーカーまで、イベント主催者はさまざま

 フレッシュラボ高山でのイベントは、地元で飲食店を開いている方や料理研究家として活動する方に同社がオファーをすることもあれば、個人・法人から利用の依頼が入ることもあるという。

 バイヤー経由で「自社製品を使った教室を行いたい」と、食品メーカーから話があり実施することもあるそうだ。

 催しの内容については施設のコンセプトから大きく外れていなければOK。いろいろな人の、いろいろな情報の「発信・吸収ニーズ」に応えて運営されるこの場は、「どんな内容が楽しんでもらえるのか?」を研究できる、まさにラボである。

「人と情報の交流の場」へのシフトを目指す

 地域の幸せづくりのために、他に「地域コミュニティの再構築」や「健康に資する商品づくり」にも取り組む駿河屋。

 健康に資する商品づくりでは、「おいしさの追求」に加え、「健康のことはこの店に任せておけば大丈夫」と、お客さまが安心して買物できるような品揃えにチャレンジする。商品基準の再設定やオリジナル商品の見直しを行い、地域の健康寿命の延伸に貢献できることを目指しているという。

 また「地域の買物困難者対策」では、地域における買物困難者ゼロを目指し、小売店減少地域における移動販売や、街中における宅配事業に取り組む。

 同社の代表を務める溝際清太郎氏は、「“物を手に入れる手段”はより多様化していき、店舗に求められる機能も変化していく。そのためローカルの強みでもあるコミュニケーションをさらに深めていき、(リアル店舗を)“物とお金の交換の場”から、“人と情報の交流の場”へシフトしていくことを目指している」と話す。

 リアル店舗の価値を「物を買えること」に固執して続けていては、続々と登場するプレイヤーやドラスティックに変化する環境に対応していくことは難しい。駿河屋では店舗の価値を再定義し、その新しい価値の向上に努めている。

この"メディア化"をまねしたい!「駿河屋編」

 これまではマーケティングの終着点(=物を買う場)であったスーパー。しかし、フレッシュラボ高山ではマーケティングの出発点(=情報を伝える場、つまりメディア)として価値を提供している。この点がまさに“メディア化”としてまねしたい点であり、店舗の可能性を感じさせてくれる取り組みだ。

 物はいくらでも安く、便利に手に入る時代となったが、買物の魅力はそれだけではない。新しい商品に出合え、暮らしがちょっと楽しくなること、従業員や他の買物客とのコミュニケーションを通じて人の温かさに触れることなど、「買う(売る)」以外にもリアル店舗が果たすべき役割はたくさんある。

 駿河屋の取り組みはスーパーのモノカルチャー化に一石を投じ、「このスーパーにしかない価値がある」と思わせてくれる、とてもエモーショナルな取り組みだと思う。

 情報の出発点・交流点として店舗を運営する駿河屋。リアル店舗だからこそ提供できる価値を追求する姿勢を、ぜひまねしてみてはどうだろうか。