(撮影)イー・ロジット 角井亮一

 Amazonが2016年12月にオープンさせた「Amazon Go」は、利用者が買いたい商品を持って店を出るだけで決済が完了するレジのない食料雑貨店だ。Amazon Goには最新のIoTやAI(人工知能)の技術がふんだんに導入されており、まさに次世代のスマートストアと表現できる。Amazonは、あらゆるカテゴリーでオムニチャネル実現を目指すが、その戦略を注意深く観察すると、小売業の未来像が見えてくる。

EC企業がこぞって実店舗を出す理由

 オムニチャネルとは、直訳すると「全ての(オムニ)顧客接点(チャネル)」という意味。小売業者が実店舗やWebサイト、ソーシャルメディアに加え、テレビやDMなどオフラインを含むあらゆる販売チャネルを統合し、顧客が望む形で購買体験を提供する戦略のことを指す。ネットでの販売を専業とするECサイトの台頭で実店舗がショールーム化しつつあることに危機感を持ったアメリカ小売業協会が、実店舗を持つ強みを生かしつつモバイルコマースをどう取り入れていくかという青写真を示したことで、2011年以降、広く認知されるようになった。

 インターネットが普及し始めた当初は、ECサイトに顧客を取られることを恐れ、オンラインでの情報提供や顧客との接触に消極的な小売業者が少なくなかった。顧客が求める情報がオンラインで提供されていないことで、かえって顧客がECサイトに流れてしまうことに拍車を掛けていた。ECサイトから見ると、オンラインのチャネルを閉ざした小売業者はありがたい存在だったに違いない。他社の実店舗を、あたかも自社のチャネルの一部として使えていたのだから。

 近年では、オムニチャネルを実践する小売業者が増えたことで、それに対抗する形で自らが実店舗の運営に乗り出すEC企業が増えてきている。オムニチャネルの肝は、ネットとリアルを統合して顧客との接点を立体的な空間として捉えることで、接点機会を拡大することにある。そのことはEC企業にとっても同じで、オンラインでの集客力には強みを持っているにしても、リアルでのチャネルが少ないことに危機感を持っている表れだろう。

 EC企業がこぞって実店舗を出す背景として、最新のIoTソリューション導入で、スマートストアを従来よりも低コストで出店、運営できるようになったことも見逃せない。EC企業が出す実店舗は、最初からオムニチャネルを意識して企画されているので、それらの事例からはさまざまなヒントを得られる。

レジのない実店舗をAmazonが出店

 アメリカAmazonも、以前から実店舗の運営に参入している。まず2015年11月に本拠地であるシアトルに初の実店舗となる「Amazon Books」を開店。Amazon.comでの評価が高かった書籍を中心に5000冊~6000冊の書籍が店頭で販売した。

 Amazon Booksの特徴の一つは、支払いに現金が使えないこと。レジではクレジットカードか、もしくは専用アプリ「Amazon Prime Now」で本の表紙に印刷されているQRコードを読み取って決済を行う。店内に設置されたプライスチェッカーでバーコードをスキャンすると、書籍の定価とAmazon.comでの販売価格を確認できる。

 電子書籍リーダー「Kindle」やタブレット「Fire」、AI接続スピーカー「Echo」を手に取って体験できるコーナーも設けられており、Amazonが販売する電子機器のショールーム的役割も担っている。2017年中に10店舗程度を展開する予定で、将来的にはアメリカ国内で300店舗以上に拡大させる計画だという。

 2016年12月には、Amazon本社内に社員だけが利用できるレジのない食料雑貨店「Amazon Go」をオープン。Amazon Booksと異なり、Amazon Goの見た目はコンビニそのものである。利用者は、鉄道の改札機のようなゲートにスマホアプリのバーコードをかざしてチェックイン。あとは店内の商品棚に並んだ商品を自由に取って、マイバッグに入れるなり、手に持つなりして店を出るだけ。店を出た時点で購入代金がAmazonアカウントから差し引かれる。

 Amazonのプレスリリースによれば、店内に設置されたカメラが利用者の顔を認識し、AIによって利用者が何を手に取り、何を棚に戻したかを解析しているという。つまり、何かを手に取った瞬間に仮想的なカートに追加され、それを棚に戻せばカートからも除外される仕組みである。ゲートを通って店を出た時に、仮想カートに残っていたものだけが課金される。Amazonは、これを「ジャストウォークアウトテクノロジー」と命名している。

 2017年3月には一般の人も利用できる店舗がシアトル市内にオープンする予定だったが、技術的な問題のために延期された状態になっている。一部の現地メディアによると、店内に20人以上いるとトラッキングが追いつかなくなる現象が発生したり、商品が本来の棚とは異なるところに戻されると正確な管理ができないなどの問題点を解決するのに時間がかかっているという。