4000億円の回収が小売業者にのしかかる

 スマホ決済は大小20以上の企業が手掛け、その累積投資は4000億円を超えるとみられる。日経BP社による19年10月のキャッシュレス利用率調査でクレジットカードの84.8%に次ぐ2位にランクされ、37.2%と楽天ペイの19.0%、LINEPayの18.1%を引き離し、2月2日段階で登録者数が2400万人を突破したPayPayにしても巨額投資の回収はこれからの課題で、引き離された他社など投資を回収する算段は全く見えない。

 巨額の還元キャンペーンで無理やり広げた登録者数も、各社のキャンペーンや政府のキャッシュレス還元が終了すれば使わなくなる人が多いという調査結果も見られるから安泰ではない。消費増税対策とキャッシュレス普及を狙った政府のキャッシュレス還元が6月末に終われば何が起こるか、想像に難くない。

 キャッシュレス決済もQRコードによるスマホ決済だけではなく、従来のクレジットカードやプリペイドICカード、スマホ決済もFeliCa系のタッチ方式がある。レジでのスムーズさや操作工程数という点でも信頼性という点でも高単価品ではクレジットカード、低単価品ではFeliCa系のICカードやそのスマホ決済たるタッチ方式の方が圧倒的に使い勝手がよい。

 百億円単位の消耗戦が激化するQRコード系スマホ決済陣営に対して利便性で凌駕するFeliCa系スマホ決済(タッチ方式)陣営は静観を決め込んできたが、多額のキャンペーン効果もあってQRコード系スマホ決済が急伸。20年1月の利用率はQRコード決済が29.3%とタッチ決済の25.2%を抜くに及んで(MMD Labo調査)、FeliCa系スマホ決済陣営も反撃に転じる。ソニー子会社(FeliCaはソニーが開発して商標登録した非接触型ICカード技術)のフェリカネットワークスが「Suica」「楽天Edy」「WAON」「nanaco」が参加するスマホ決済の共通ポイント「おサイフマイル」(利用100円ごとに1マイル)の実証実験を4月から始める。交通系と流通系のメジャーがそろい、スマホ(おサイフケータイ)でもICカードでも使えるから、本格展開に移れば形勢は逆転するのではないか。

「決済」と「精算」をごっちゃに認識している人が多いが、両者は全く別のプロセスだ。スマホ決済はID認証して「決済」するだけで、購入品目と数量を確認して「精算」する機能はなく、画像解析AI系やICタグ系の無人「精算」システムが普及すれば消えていく確率が高い。

 4000億円の投資は回収を見込めないのが現実だが、それでも巨額を投資したプラットフォーマーやフィンテック企業はあの手この手で課金して回収を図るに違いない。既にそんな動きがネット経済圏からリアル経済圏まで広がっている。

スマホ決済で手数料率は上がる

 

 決済手数料率も期待外れで、スマホ決済になっても手数料率は下がらなかった。国家戦略としての中国の0.55%とスマホ決済をごっちゃにして期待した風潮もあったが、経済産業省の指導にもかかわらずキャッシュレス決済の手数料率はほとんど下がらず、政府のキャッシュレス還元期間が終われば行政指導で下げていた料率を元に戻すという決済業者が多い。それより問題なのはスマホ決済の乱立で多様な端末の導入やシステム改修、メインテナンスを強いられた商業施設デベのコスト転嫁だ。

 今日では路面の独立店より商業施設のテナント店の方が主流だが、テナント店はユニクロなどよほどの強大企業でない限りアクワイアラと直接契約するのは困難で、商業施設デベがアクワイアラと包括代理契約してテナント店は決済を委ねることになる。テナントは商業施設デベが定める手数料率に従うしかないが(出店契約書に明記しているケースが多い)、その料率は直接契約より1〜1.5ポイントほど高い(クレカの格差が大きい)のが実情だ。

 従来は商業施設デベへの入り値は2%前後で、端末のリース料やメンテコストを乗せて4.0%〜4.5%ぐらいでテナントに提供できていたが、スマホ決済の乱立で端末のリース料やメンテコストが上がってしまい、大手駅ビルなど5%を超えるケースが出てきている。複雑なキャッシュレス還元への対応もありスマホ決済だけが要因ではないが、スマホ決済乱立が少なからずコストアップを招いたことは否めない。

 プラットフォーマー各社の巨額投資と膨大な損失はスマホ決済に限らず、他にもシェアオフィスやライドシェアへの出資や携帯電話事業などで1000億円単位の投資と損失を計上している。それに比べればZOZOのPB投資など桁違いにかわいいものだったが、本業を圧迫して出店者に負担をかける結果は大差ない。

 回収が怪しい巨額投資にのめり込んだプラットフォーマーとしては、取扱流通のどこかに課金しないと回収のめどが立たない。プラットフォーマー間の物流利便競争やシステム投資もかさむ中、本来、プラットフォーマーが負担すべき領域まで出店者に負担を強いるケースが広がっている。