2020年1月12日。ニューヨークシティ・ジェイコブ・K.・ジャヴィッツ会議センター。世界最大の小売業関係のカンファレンスといわれる「Retail's Big Show & Expo」が開幕。会場は20年代の幕開けにふさわしい熱気に包まれた。

 開幕に際しての基調講演を務めたのは、小売業者ではなく、マイクロソフトのサティヤ・ナデラCEOだった。そして、ナデラCEOが強調したのは、小売業にとっての「データ」がいかに重要であるかということだった。

 現在、小売業界で売上高ナンバーワンは長年トップに君臨するウォルマート、そしてナンバー2は、それを猛追するアマゾンである。

 リアルの店舗網を拡大することで成長してきたウォルマートと、ほぼインターネットでの販売だけで成長してきたアマゾン。対照的なこの2社に共通することは、共に長期にわたってITをはじめとしたテクノロジー、その延長線上にあるデータを重視した経営を実践してきたことだろう。

 特にネットをベースとして成長著しいアマゾンは既存小売業に危機感を与え、多くの小売業者をネット対応に走らせている。それに関しては、ウォルマートも例外ではない。

 一方でアマゾンは、約2年前にレジがない店舗である「アマゾンゴー」をオープンするなどリアル店舗へのアプローチも進めている。スーパーマーケットのホールフーズ・マーケットの買収、その後の同社との連動も含め、テクノロジーを活用したリアル店舗の形を模索する動きが、特に「食品」を中心に活発になっているように感じられる。

 小売業ナンバーワンのウォルマートは、ピックアップのモデルの追求などネット活用の取り組みを研究しつつ、一方で自身が持つ多数のリアル店舗にどうテクノロジーを落とし込むかを実験している。

 ネットとリアルという対極的な出発点を持つ2社が、「リアルにおけるテクノロジーの活用」という共通の課題に取り組んでいるということは、2社が共に小売業の未来がそこに確かに存在していると考えているからに他ならないのではないか。そして、そのベースとなるのが、「データ」である。

「ジャストウオークアウト」の衝撃と小型店の意味

 18年1月、「ジャストウオークアウト(ただ店を出るだけ)」を実現したアマゾンゴーが一般向けにオープンした。カメラやセンサー、AI(人工知能)といったテクノロジーによって、「まさに夢のような」、レジのない店舗が誕生したことは、小売業界に大きな衝撃をもたらした。

アマゾンゴー1号店のシアトルのセブンス&ブランチャードの店。

 改装中の店舗を除き20年1月段階でワシントン州シアトルに5店、イリノイ州シカゴに6店、カリフォルニア州サンフランシスコに4店、ニューヨーク州ニューヨークに8店の23店体制と、急拡大というわけではないが、着実に店数を増加させている。

 お客は専用のアプリをインストールし、決済のクレジットカードなどを登録。店ではアプリ上で表示されるコード(キー)を入り口のゲートにかざして入店、買いたい商品を手に取り、そのまま外に出れば決済が完了する仕組み。まさに「ジャストウオークアウト」で、お客としては少なからぬ驚きを覚える。

アプリで表示されるコードをかざせば駅の改札のようなゲートが開き、店内に入ることができる。買物後は近づくと自然とゲートが開く。

 一方で、店舗自体はコンビニタイプの小型店である。品揃えは限定されていて、レディミールや軽食などの惣菜、菓子、酒、冷凍食品、調味料と一部生鮮、非食品、ミールキットがその中身だ。つまり、コンビニの品揃えからホット惣菜を外し、ミールキットを加えたような商品構成。食品が中心で、限定された品揃えという点にポイントがあるように思える。

一番目立つ場所に冷蔵のレディミール 弁当、丼、サンドイッチなどが並ぶ他、軽食としての「スナック」売場がある。商品構成はコンビニ的だ。
アマゾンゴーは生鮮食品をほとんど扱わないが、一部カット物の青果と味付け肉など簡便商品に特化して一部品揃えしている。
ミールキットはコーナー化して冷蔵で販売。コンビニのような商品構成の中に突如としてミールキットのコーナーが現れる。既存の業態の感覚からすると違和感があるが、これがアマゾンの商品構成の考え方。
アマゾンゴーが品揃えする主要な商品がイートインコーナーの壁に列挙されていた。朝昼夜の3食と軽食、さらにミールキットまで品揃えするということで、アマゾンが食のシェアを取っていこうという意気込みがよく表れている。
ニューヨークのアマゾンゴーでは、セルフサービスのカップのコーヒー(スターバックス)やジュースを販売。サイズは1種類で、もちろん、これもカップを取り、注ぎ、店を出るだけ。
広くはないがイートインコーナーを設けている。電子レンジ、ナイフ、フォーク、しょうゆ、ケチャップ、マスタードなどが備えられている(ニューヨークの店)。

 また、限定された品揃えにもかかわらず、売場では「品切れ」が目立つ。データ収集中とはいえ、小売業の立場としてはずいぶん割り切った姿勢のように思える。

狭い店だが、品切れしている商品が少なくない。棚に商品がない場合、「SO GOOD IT’S GONE(とても良い商品だからなくなった)」と掲示される。
アマゾンが買収したホールフーズ・マーケットでは、プライム会員との連動が積極的に行われている。