4万人以上が参加したNRF『ビッグショー』2020のエキスポ展示会場入り口 写真提供:NRF

 全米小売業協会の年次総会『ビッグショー』が1月12日~14日までニューヨークで開催され、世界99カ国から4万人以上が参加した。年々リテールテックショーの色合いは濃くなり、展示会には800以上が出展、今年は出展者によるセミナーが’強化されている様子だった。

 今回の『ビッグショー』のテーマは「2020ヴィジョン」という、やや具体性に欠けたもので、ウォルマートなど毎年基調講演をリードしてきたビッグボックス系は冒頭を飾ったのみ。代わりにオンラインレンタルやオンライン中古販売などディスラプターと呼ばれる企業、D2Cブランド、RaaS(リテール・アズ・ア・サービス)による講演にスポットライトが当たった。

 昨年はアマゾンに対抗するレジレス技術やウォルマートのテクノロジー革新やクロ―ガ―のスマートシェルフなどAIを活用した事例が華々しく紹介されたが、今年はハイテク自体をフィーチャーした講演は減少。しかし、小売りの現場ではテクノロジーの実用化は着々と進んでおり、ウォルマートは昨年秋にピッツバーグ他3都市で食品の自宅内配送の実証テストを開始し、アマゾン同様、翌日配送にも着手した。12月には自動運転車による食品無人配送テストをさらに一歩進め、クリック&コレクトは現在3100カ所、食品即日配送は1600店舗にまで拡大している。

 今年は来たる10年間の小売・流通業の大きなテーマとして(1)店舗の役割と経験消費(2)サステナビリティ(3)GAFAが小売・流通に圧倒的な影響を与える中でいかにサバイバルするか、について議論が交わされた。本レポートではこれらを前編、後編に分けて報告したい。

店舗は「経験とイベントの場」

 消費者はモノから経験消費に移行しているが、今回の『ビッグショー』では新たな店舗経験とは何かについての議論が活発に交わされた。

経験のキーワードは「没入感」

 経験、体験については「没入するほどのおもしろさ、楽しさ」という意味でimmersive(没入感)という言葉が複数のセッションのタイトルに使われていた。過去には消費者は店舗に入った時に、モノの集積にわくわくする感覚を味わっていたかもしれないが、現在の物販にはそれが消えている。しかし、今回の『ビッグショー』ではその没入感を新しい形で提供する企業が紹介された。

 エリア15は4万平方フィートの屋内・屋外スペースにテクノロジーとデジタルアートを駆使した巨大な商業空間。ここではライブパフォーマンスやフェスティバル、デジタルスポーツ観戦等さまざまな経験とリテールが複合し、それを経験することで目の前に起こっていることへの没入感を得られる。同社COOぺルソン氏は「人間は本質的にヒト同士のコネクションを求める存在だ」を繰り返し、フィジカルな空間で家族友人と物販を含むユニークな経験を共有することの重要性を説いた。

NRFセッション「没入感…再想像…革命:ショッピングの未来」より左からエリア15COOダン・ぺルソン氏、ショーフィールズCEOタル・Z・.ナサネル氏、リテールダイブ レポーター ダフネ・ハウランド氏 写真:筆者撮影

【さらに詳しく知りたい方はhttps://area15.com/

ショッピングを「時間限定のイベント」に変える

 店舗経験を特別なものにする方法のもう一つは時間限定のイベント化だ。

 2018年に創業したばかりのntwrk(ネットワーク)はミレニアルやZ世代を対象にしたiPhone向けのビデオコマースアプリ。ポップカルチャーのパーソナリティたちがさまざまなトークをしながら自分の買物について語り合うが、その動画を見ながら、彼らが選んだスニーカー、ストリートウェア、フィギュアや雑貨などの商品を買える。販売時間限定であるため、テレビショッピング大手QVCの次世代版とも呼ばれる。動画は全て、同社オリジナルだ。

 同社は人気のパーソナリティが選んだ商品というエクスクルーシブな価値を提供する結果、購入率が5~15%と高い。昨年の「シングルズディ」(独身の日)には限定商品が話題になったが、同社には昨年9月、靴専門店チェーンのフットロッカー社が300万ドルを出資している。

ntwrkではミレニアルやZ世代に人気の有名人が自分の買物について語るライブ動画ショーを見ながら、友人などと商品やショーについてチャットでき、その場で購入することもできる 写真提供:ネットワーク、ウェブサイトより

 キャンプは2018年12月にマンハッタン5番街に開業した子供と家族向けのリテールテイメント業態だ。1万平方フィート(929平方メートル)の同店は一見、おしゃれな子供向け玩具・ギフトショップで物販部分の面積も小さい。しかし、玩具が飾られている壁面什器の一部は秘密のドアになっており、押して薄暗い通路を抜けるとその奥には子供たちが大好きなアスレチック遊具のミニテーマパークが広がる。遊具は同時に玩具の販売什器にもなっており、奥には工作やイベント、誕生日パーティを開ける空間もある。同店は8~12週間ごとにクッキングやトラベルなどテーマが変わり、テーマごとに商品やイベントも変わる。ホリディ商戦時にはトイラボ(玩具研究室)がテーマで、メーカー協賛のさまざまな玩具のスタンプラリーが行われた。

 創業者のベン・カウフマン氏は「この店は家族の生活の一部だ。私は人々が一緒に育っていくブランドを創りたくてキャンプを始めた」と語った。

キャンプの遊戯スペース。テーマはトラベル。ジャングルジムの下では玩具や本を販売している 出所:buzzfeed.com、2018年12月20日