音響機器メーカー「Bose」が、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本の全直営店を数カ月以内に閉鎖するというニュースが<The Verge>などで報じられました。上記地域では、今後ネット販売を主軸とし、解雇される店舗スタッフには転職支援や退職金を用意、中国やインドなどの店舗は引き続き営業していきます。

 Boseと言えば、音楽に全く詳しくない私でも知っているほど有名な音響機器メーカーです。イヤホンやヘッドホン、スピーカーは高品質で、気軽に買うというよりは憧れ的存在のブランドです。

 私は今まで、高単価な商品を扱うブランドはリアル店舗を必要とし、逆にリーズナブルなアイテムほど店頭で販売される流れになるのかと考えていました。商品の配送ごとに都度かかる送料や、在庫問題を考えての予想です。また、高額商品であればあるほど、消費者が実際に商品を見て比較検討をする場が必要となると思っていました。

 でも今回のニュースで、考えを改めました。もちろん日本を含む今回の閉鎖地域に限ったことですが、Boseの考えとしては、消費者はあくまでも「商品」そのものを求めていると判断したことになります。言い換えれば、商品を体験できる場が減っても自社製品を選んでもらえるだろうという自信があるのだと思います。

市場の変化とブランド地位の確立

 

 直営店閉鎖の背景には、音楽の楽しみ方が変わってきたことと、閉鎖地域ではある程度ブランド地位が確立されたことにあるのではないかと推察されます。

 音楽好きな人は生演奏や本格的な音源を好みますが、現在多くの音楽は、定額で聴き放題のサブスクリプション形式に舵を切り始めています。昔と比べると安価なイヤホンでも音の響き具合はかなり向上されており、誰もが手持ちのスマホでも気軽に何度でも好きな音楽を楽しむことができます。

 このような状況の中、音楽好きな人でも静かな空間で音を楽しむ機会はかなり減っているのではないでしょうか。ライブなど替えが効かない非日常体験は別として、どちらかというと移動中に音楽を聴く、作業しながら好きな歌を流すなど、音楽は生活の一部に溶け込む楽しみ方を好む層も増えてきた気がするのです。

 そうなるとユーザーが知りたいのは雑踏などノイズが入る場所での聴こえ方なので、直営店のように演出された静かな特設空間での音を参考にする人は減っているのではないかというのが私の見方です。実際、今回もネット上では「(Boseは知っているけれど)直営店があることを初めて知った」という声も多く見受けられました。

 Boseの場合ブランドそのものの廃止ではないので、量販店での商品販売は引き続き継続されます。まだどのブランドにするか迷っている層は、量販店で聴き比べてもらえるだろうという見立てもあるかと思います。逆にBoseのコアなファンなら既に製品の良さを体感しているので、口コミなどを参考にしてネット通販で購入するでしょう。

Boseオンラインサイトのトップページ。最上段に「全品送料無料でお届け」という記載がある

 ネット通販するにはまず消費者が検索して販売サイトにたどり着く必要がありますが、ネームバリューがあれば検索してもらうことは簡単です。Boseのように既に認知度のあるブランドなら、リアル店舗で接点を作らなくても自社サイトまで来てもらうことが比較的容易となっているのです。

 またネット通販サイトとしても、かなり使いやすい作りです。スタイリッシュなトップページには、分かりやすい位置に「全品送料無料でお届け」と記載があります。自社サイトの商品レビュー数も多く、単なる商品全体への評価だけでなく「音響」「耐久性」「使い易さ」など商品に合わせた項目がそれぞれ個別に5段階評価できるようになっています。ユーザーとしても口コミがしやすく、初めて購入する人でも比較的不安が少ないサイト構成のように感じました。

未来のリアル店舗の価値は何か?

 

 もしかすると現在リアル店舗の来店目的の主流となっている商品体験は、未来のリアル店舗ではあまり重視されないのかもしれません。そう考えると、今後リアル店舗が提供していく価値は何でしょうか?

 例えば、物づくりの様子を見せることで商品に親しみやすさを抱かせたり、作り手の開発秘話を聞きながら直接交流を楽しむなど、リアル店舗の存在意義は変わってきています。いずれにしても「物を販売する場所」という定義からは大きく変わっていくのでしょう。

 リアル店舗を営業し続けるには、多大な運営費が必要です。人件費を含むコスト増で採算が取れないためにネット通販に移行したという見方もできますが、今回決断された閉鎖地域を見るとそれだけでもないように私は感じています。

 私個人としてはリアル店舗運営では「人」が大きなカギになると考えていますが、一方でリアル店舗を運営できるブランドや人は今後限りなく少なくなってくるとも感じています。今回のニュースから、改めてリアル店舗にできることを問い直す必要があるように感じてなりません。