1974年生まれ。上智大学経済学部経営学科卒業。大学在学中のカラオケボックスのアルバイトで経営に興味を持ち、大学4年の時、当時ネットベンチャーだったサイバーエージェントでインターンを開始。1999年1月に卒業を待たずに入社。その後、子会社トラフィックゲート(現・リンクシェア・ジャパン)の立ち上げから関わり、役員に就任。上場準備をしていたが、楽天による完全子会社化に伴って退職。2010年グルメイノベーション株式会社を設立。(Photo/山田ヒロシ)

 連載「革新企業家たち」の2回目はグルメイノベーションの井上琢磨代表取締役。後編では海外事業と今後の展開について。今、どのような課題に直面しているのか。目標とそのために取り組んでいることを聞いた。

海外で宅麺ラーメンは受けるのか?

 2011年にファイナンスをするときに立てた事業計画では海外も視野に入れていた。さらに日本で事業を続けていく中で、「定期的に海外から打診をいただくようになって、海外での店舗需要というのがすごくあるんだなっていうのを感じました。2013年から海外出張して視察をしていたんですが決まらなくて、とりあえず体を外に出そうとマレーシアに家族ごと引っ越しました」

 

 そこから、香港にするのかシンガポールに出店するのかを考え、ある企業が一緒に事業展開をすることになりシンガポールに決めたところ、その企業は手を引いてしまう。

「そもそも飲食店のイロハを全く知らない素人が店舗を始めてしまったので、コンテンツ力があれば人は来てくれるんだと思っていまして、場所が大事だという飲食店の基本をつぶしてしまいました。今、1号店の場所は夜と週末はほとんど人通りがないような場所なんですよね」と苦笑する。

 コンテンツ力があると言っても、それは日本での話。海外にとってみれば知らないブランドがいくつか集まったラーメン屋さんができたというだけで、シンガポールでは全く受けず、初年度は売上げ60万シンガポールドルに対して赤字を70万シンガポールドルという「結構な状態」(井上社長)をつくってしまったという。しかも、運営も初めての経験である。3年過ぎた今は単店では黒字になったが、最初から多店舗展開を考えてセントラルキッチンをつくったため、まだ赤字は続いている。

 

「今は売場の面積をいかに広げていくかです。セントラルキッチンの稼働率を上げるために、FCでショップインショップを始めています。居酒屋の1コーナーとか1メニューにウチのブランドである『Ramen Gallery TAKUMEN(ラーメンギャラリー宅麺)』を入れてもらって売上げや単価を伸ばしてもらおうという方向性です。2店舗がそのスタイルで、あとは『ラーメンギャラリー』のメニューを入れて月替わりで変えて、うちが運営するスタイル。

 そのほか、シンガポールには屋台の集まるホカセンターというフードコートみないなのがあって、そこでセカンドライン展開みたいなのができるかどうかのモデルケースもやってみています。これからショップインショップのFCを増やすというのがシンガポールで考えていることです」。そして2017年5月シンガポールでも冷凍ラーメンのデリバリーサービスも開始した。

メニューを数値化するところから始めた

 海外で展開しているメニューは、日本の宅麺で扱う人気ブランドのメニューをレシピにおこして現地でつくっている。秘蔵のレシピを明かしてくれるのは「宅麺」ならではの信用力だろう。

 水はこのぐらいで、火力はこのぐらいでという職人さんの感覚を極力数値化し、日本と全く同じ味にして提供する。海外での顧客は7割が地元の人、3割が日本人。リピーターが多い。

 扱いブランドは本田商店(久留米とんこつ)、作田家(横浜家系)、ちばから(二郎系)、らぁめん元(鶏白湯)、ビンギリ(勝浦タンタン麺)、東京スタイルみそらーめん「ど・みそ」を1杯14.9~19.9シンガポールドルで提供している。

「ものを持っていくだけでは受け入れられないと思っていて情報とセットで持っていくようにしています。一人でも二人でもラーメンオタクが作れれば広げてくれるんじゃないかな」。日本独自の文化として、ワインのようにラーメンブランドをストーリーにして定着させたいと考えている。

7000億円のマーケットをどこまでとれるか

 

 今、井上社長が考えているのは、日本では、地方の百貨店の催事で「ラーメン博」を開くことである。百貨店も集客のためにはイベントが欠かせない。「北海道展」や「九州展」に並ぶ人気イベントとして若者を呼び込める「ラーメン博」ができないだろうか。

 また、高齢者が増えている百貨店の客層に対して、「宅麺」は35歳~45歳がボリュームゾーンであり、男女比は2対1の割合であることを生かせないか。

 

「百貨店を入り口に宅麺を知ってもらって、スマホで注文してもらえるようなプロセスを作って……というようなことを考えてみたりだとかしています」。2017年夏には伊勢丹松戸店「夏の日本のおいしいもの展」に出店を果たした。

 また、現在、個人向けがメインだが、福利厚生やプロモーションの景品など大口需要が見込める法人にも認知度を高めていきたい。

 海外事業では、シンガポールを「早く黒字化させてシンガポール以外に広げる」というもくろみだ。「ウチの強みはマルチブランドで展開できる点にあるんで、良いポジションにいるんじゃないかと思っていて、日本の今、旬なラーメン屋さんを食べられるRamen Gallery TAKUMENをやりながら、ニーズのあるものはスピンアウトさせたり、まだ小さいですけど最終的には海外でマーケットトップに近いシェアのプレイヤーになることをイメージして進めています」

 

 今は年間売上げ100万シンガポールドルという規模だが、世界のマーケットを押さえていきたいという将来像を掲げる。日本でのラーメン市場は7000億円と言われている。「世界も日本と同じぐらいのマーケットになる」と予測する井上社長は、日本からアジアへ、そして世界へ拡げようと構想を練る。「UberとかAirbnbと発想は近いと思っていて、外食の遊休資産を使って、それをどう生かすか」、日夜、奮闘し続けている。