館内を案内してくださったJR東日本青森商業開発 代表取締役社長:富田勝己さん(右)と
A-FACTORYキャプテン:阿部優子さん(左)

 震災で一時落ち込んだ東北エリアの外国人観光客訪問数がここ数年大きな伸びをみせている。それは現在、各自治体が動画配信サイト「Youtube」で地域プロモーション動画を配信したり、アジアからの国際便、クルーズ船の就航などインバウンド施策に力を入れ、訪日観光を盛り上げているためだ。

 2019年3月の集計結果によると、18年度の東北の外国人延べ宿泊者数は120万人を突破し過去最高を更新しただけでなく、全国トップの伸び率となった(東北運輸局管内に該当する青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県の数値)。中でも、リンゴの県として知られる青森は17年、18年と2年連続で訪日外国人観光客数の伸び率が全国1位となっている。

 いったい青森ではどのようなインバウンド施策をしてきたのだろうか? その理由を探りにインバウンド売上げが好調の「A-FACTORY」を訪問した。

JR青森駅より徒歩2分の「A-FACTORY」。館内の工房で製造した「シードル」や青森県全域の食品、名産品が購入できる他、レストランでは地元のこだわり食材を使った食事を楽しめる。

 A-FACTORYは東北新幹線新青森駅開業日(10年12月4日)にオープンした、「ここから商品が生み出される」というイメージを強調した青森の新しい魅力を発見する場。JR東日本グループの(株)JR東日本青森商業開発が運営する。

 JR東日本青森商業開発は、「青森県をシードルの名所にしよう」と10年から青森の特産品・リンゴを使い、地元事業者と連携して「シードル」の生産を開始(JR東日本グループが推進する「地域再発見プロジェクト」の取り組みとして行われた)。鉄道ネットワークや首都圏の販路を通じて商品を広く紹介し、地方と首都圏間での双方向の交流活性化を図った。ここA-FACTORYはシードル工房を備え、まさに地元における「シードル」発信地の役割を果たしている。そして今、当時は県内に2軒しかなかったシードル醸造所は9軒に増え、「シードル」はまさに地元の特産品と成長している。

 館内に入ると、まずその天井の高さと広々とした空間に驚かされる。フードマルシェと呼ばれる1階の空間には、実に約1000種類の青森ならではのお土産品がずらりとそろい、訪れる人たちを魅了している。そして、館内の中心部にあるガラス張りの工房には8本の醸造タンクが並び、リンゴの収穫時期の秋から翌春ごろの期間、タイミングが良ければ青森県産リンゴがシードルやアップルソーダになるまでの一部行程をガラス越し見ることができる。そう、ここはまさに工場なのだ。

「特にこだわっているのは、青森県出身の社員が、青森県で採れたリンゴを使って、青森県でシードルを醸造している点です」(富田社長)

「シードルだけでなく、扱っている商品は全て青森県にちなんだものです。しかも、どこにでもある青森のお土産品ではなく、青森の新しい魅力が詰まったA-FACTORYらしいものをスタッフが厳選して取り扱っています。働くスタッフたちは青森を愛し、そして、この空間と取り扱う商品に誇りをもっています」(阿部キャプテン)

 お二人とも自信あふれた表情で説明頂いていたのがとても印象に残った。

A-FACTORYが訪日ゲストに人気の秘密を探る

 現在 A-FACTORYではどのようなインバウンド施策を行っているのか?

 その前に青森県のインバウンド施策を紹介すると……。

 

 近年、青森県はインバウンドの誘客に注力し、クルーズ船の寄港、国際定期便の就航(主にソウル線、天津線、台北線)など訪日ゲストのインフラが整い始めている。2019年4月からは、青森港でクルーズターミナルの利用が始まり、既に1万9183人が訪れている。

 そして、このA-FACTORYの訪日ゲスト対応だが、この施設では、訪日ゲストのために外国語表記での案内表示、決済手段の充実化、免税対応、Wi-Fiの整備などを主に行っている。免税販売は、2014年10月よりA-FACTORY内の地元名産品を集めた「フードマルシェ」にて開始。免税販売額は年々増加している。

 
年々増加する免税購入額。アジアが中心だがその中でも台湾人が圧倒的に多い。

 決済は、中国の有名なモバイル決済「アリペイ」「ウィチャット」などが店頭で利用可能。外国語表記も英語、中国語など分かりやすく商品説明がされている。

 国別の免税利用割合は、19年4~8月までで6割が台湾、2~3割が中国人と圧倒的に台湾からのゲストが多い。

 しかし、私が訪問したタイミングでは、台湾・中国・欧米人が程よい割合で賑わっていた(訪問した時期は10月。欧米人はラグビーワールドカップ日本大会の影響で多く見られた)。

店頭での免税・キャッシュレス対策の様子 

台湾人観光客向けにお土産配送サービスを行う

 ここでは免税利用の多い台湾人観光客向けのお土産配送サービスを行っている。

 それは青森県とヤマト運輸による輸送サービス「A!Premium」。青森のA級の商材をスピード郵送+保冷一貫郵送によりA級の品質で自宅まで届けるサービスで、シードルやリンゴを加工した菓子やジュース等の土産品が発送後2日後には自宅に届けてもらえ、手ぶらで旅行ができる。

さまざまなシードルを試飲できるスペースも

「A-FACTORY」一押しの商品、「シードル」を試飲できるコーナーもある。

 ここでシードルについて簡単に説明をしておくと、シードルとはリンゴの発泡酒で、近年ではクラフトビールに続いて人気が高まっているものだ。

「A-FACTORY」の試飲コーナーでは青森県産のリンゴをふんだんに使ったさまざまなシードルを有料で味わうことができる。日本酒やワインと同じように、自分好みの1杯を試飲で探せるのも人気の理由で、われわれが訪問したときも、ちょうど外国人観光客がシードルのテイスティングをして会話を楽しんでいた。

 また、2階レストランでしか味わうことのできない生シードルはぜひ飲んでみてほしい。

試飲できるマシン。試飲の際は、飲み比べできるよう説明書きがある
お洒落なダイナー、カフェも併設されている

地元にこだわったから国内・海外の観光客を集められた

 

 これまでは、お土産物や旅行の記念となるものは、百貨店・道の駅・駅ビルなどで購入するのが一般的だったが、この施設は全く新しいコンセプトで創られており、私の予想より多くの観光客で賑わっていた。

 この施設が平日、週末関係なく人が途切れないのにも驚いたが(私が訪問したのは金曜日の昼)、その中には日本人の観光客の姿も多かった。

 オープン当初は、「地元商品しかない」「都会並みに価格が高い」と敬遠していた地元消費者が、「地元の自慢商品が満載」「都会でも価値があると認められるいいものがある」と、東京や遠方からの来客を連れて来店するようになっている。「A-FACTORY」を、まるで自分が住む街やわが子のように、自慢げに、大切に愛し始めているのは、地元にこだわり抜いたからだろう。

 地域の観光としてインバウンドにも力を入れている青森。この「A-FACTORY」の在り方は地域の人々に活躍の場を与え、人々の支持を得、観光客にも愛される地域観光の新たな形といえるだろう。