消費財のメーカー、小売りは存在意義を失う

 消費財では業種・業態間の垣根が壊れるという次元ではなく、メーカーと小売り双方からの取り組みで、その境目がなくなる事態がますます進行する。

 そして、3Dプリンターのように、大規模な生産設備を持たずに製品を作り出せる技術も生まれており、さらに技術革新が進めば、生活者個人が製造装置を所有するか、製造装置を使える拠点で原料や素材を調達し加工、洋服や食器、家具など生活に欠かせないものを作れるようになる。これは衣食にとどまらず、クックパッドがレシピ連動調味料サーバーを開発しているように食の分野でも起こり、自動車、家電、パソコンといった高度な技術が必要な領域でもそれは不可能ではなくなるだろう。

 そうなれば、製品や商品を供給するのではなく、モノの流通は素材や原料をそのままあるいはキット化し生活者に届けるようになり、製造ノウハウやレシピといった情報を提供するサービスが盛んになるだろう。メーカーが製品を製造するのではなく、生活者自らが自分の欲しいもの、必要なものを作るようになれば小売りも必要とされず、消費財のメーカー、小売りはその存在意義を失うことになる。

 製造の役割・機能が生活者に移行し小売りが不要となれば、求められるのは情報だけになる。テクノロジーの急速な進化で、物流改革や情報システムの構築などによるSPAから情報製造小売業への移行は短期間で終わりを告げ、新たな情報産業が誕生する。消費財のサプライチェーンでは、モノを消費する生活者がモノを作る人になり、「情報」しか価値を持たなくなる時代が到来するだろう。

小売りの立ち位置からだけだと近未来を見誤る

 こうした未来予測を荒唐無稽な夢物語として一笑に付すこともできるが、シンギュラリティを考えると、がぜん真実味を帯びてくる。

 小売業は自らの役割・機能を終えて消滅するというかつてない危機を迎えようとしており、それはメーカーにとっても同じ。自動化やロボットなどが人間による労働に取って代わり、知的な仕事のみが要求されるようになれば、働く意味が大きく変質し、大きな「人間格差」が生じることが識者から指摘されている。

 地球温暖化という人類存亡の危機も重なり、持続的可能な社会に向けて、産業構造全体の改革も求められ、私たちの生活の在り方も問われている。

 小売りという立ち位置からだけ近未来を視座すると未来を見誤り、これから劇的に変化することについていけなくなる。経済学者のシュンペーターは、企業による新たなイノベーションにより旧体制は取り壊され、新たな発展が生まれるとことを「創造的破壊」と名付け、経済発展理論を展開した。チェーンストアオペレーション、SPAといったイノベーションは、まさしく小売業における創造的破壊であったし、これからはAI・ITなど外部からもたらされる加速度的なイノベーションを活用した業務効率化や生産性向上、需要予測やビッグデータなどの情報活用で収益力アップを図る創造的破壊が進むだろう。

 しかし、こうしたインプルーブメントの先には、小売りそのものを破壊してしまうという壊滅的な事態を生じさせる状況もある(これはあらゆる産業に波及するだろう)。

 この大転換が起こる2045年までの間、小売業は何をすべきなのか。それは国内マーケットの縮小、人手不足といった今そこにある危機に対処しながら、中長期的には脱小売りに向けた情報化であり、情報を知識化して全く新しい知識産業を目指していくことである。