いよいよオリンピック・イヤーの2020年が始まる中、初売りで素敵なお店に出会いました。

 ファッションビルのテナントに入っている少し大型の店で、私はレジに並んでいました。お会計を待つ人の数は、およそ30人。レジは一つではなく複数台でフル稼働しているものの、長蛇の列は途切れる気配がありません。

 店内も混雑しており、ソファにはパートナーの買物を待つ人や歩き回って疲れた父子が座っていました。すると背後から、「疲れちゃったかな?(父親に)大丈夫でしたら、どうぞ」とスタッフが子供にあめを配っている様子を見掛けました。

「ほほ笑ましいな、優しいスタッフだな」と思っていると、そのあめは子供だけではなく、レジに並んでいるお客さま一人一人にも配られ始めました。「店内が大変混雑しており、お待たせしていて申し訳ありません」「お並びいただき、ありがとうございます」「店内も乾燥しておりますので、よろしければお召し上がりください」など、声掛けのバリエーションもその都度変えていました。

 ただ仕事だからと事務的に配るのではなく、とっさに機転を利かせたスタッフの接客対応にさすがだなと思わされました。これは、都内のユナイテッドアローズの、ある店舗での出来事です。

店全体から感じた「チーム接客」の威力

 

 店内では、他のスタッフにも至るところでお客さまのことを考えたオリジナルな対応が見られました。

 私に接客してくれたスタッフの携帯電話には、3回ほど電話がかかってきていました。連続して何度もコール音が聞こえたので、恐らく在庫問い合わせなど仕事関連の用事だったと思います。

 ところが彼は一切慌てるそぶりを見せず、すぐにポケットの中で着信を切り、まるで電話などなかったかのように私への接客を続けました。あまりに自然な対応で、普段から「目の前のお客さまの接客を優先するのが当たり前」と考えている人の行動に感じられました。

 終始混雑する店内を見渡すと、どのスタッフも常に笑顔でお客さまに対応していました。特にレジスタッフは疲れているはずですが、表情も声のトーンも一切崩れず、全員が終始感じの良いあいさつで一人一人のお客さまに対応していました。

 もらったあめをなめながらレジに着くと、レジの奥には、大きさ別に並べられた大量のショッパーが見えました。普段はあまりこうした光景は見ないので、商品の大きさに合わせたショッパーがすぐに取り出せ、会計が少しでも早く終わるようにスタッフが工夫して用意したのだと思います。

 ちらりと見えたスタッフ用のバックヤードは、きれいに片付けられていました。初売りでも備品やゴミが散乱することはなく、売場と同じように整理整頓されていたのが印象的でした。

 初売りの盛り上げ方は、店によってさまざまです。「タイムセールでーす!!」とテンション高く購買意欲を盛り上げるショップもあれば、セールでも一人一人のお客さまに時間をかけて丁寧な対応をするショップもあります。扱う商材やショップのカラーにもよるので、接客に正解はないと思います。

 ただ、今年の初売りで私が一番記憶に残ったのは、このユナイテッドアローズで受けた「チーム接客」でした。これぞ本当の「プロフェッショナル」。店全体が協力し合うチーム接客になるとここまでできるのだなと、新年早々、商品と同じかそれ以上にとても素敵な買物体験をさせてもらえました。

普通を積み重ねても、特別にはなれる

 

 冒頭で紹介した、機転を利かせてあめを配ったスタッフの接客はもちろん素晴らしいのですが、イレギュラーで、ちょっと特別な接客です。多くのあめを用意するには多少の販促費もかかりますし、普段からやるにはコストもかかってきます。

 でも、あめを配ることができなくても、目の前のお客さま一人一人を見てその人に合った声掛けをすることならできます。そして私がうれしかったのも、あめをもらったことより、そうした対応だったように思います。

 店内の様子からふさわしい言葉を選ぶことも、ショッパーをサイズ別にあらかじめ準備しておくことも、疲れた顔を見せずに笑顔で目の前のお客さまに接客することも、私たちの意識次第ですぐにできることばかりです。

 私は彼女を含めて、店頭のスタッフ全員が自分にできる最善を尽くしている姿がとても心に残りました。一人一人の小さな心配りや努力が集まった店は、今回の私のようにお客さまにとても大きな印象を残します。一生忘れられないような感動接客や記憶に残るサプライズ演出は年に何度もできるものではありませんが、小さな心配りなら今日からでもすぐに始められるのです。

外的環境ではなく、自分自身にフォーカスを

 

 新年は、新しい目標を立てるのにふさわしい時期です。ぜひ今年は、できれば外的環境が変わることを受け身に望むのではなく、自分自身が変わるような攻めの目標にフォーカスしてほしいと思います。

 例えば「店長に昇格して年収を上げたい!」という目標は、会社のポスト数や人事状況など外的環境に大きく影響される「受け身の目標」です。自分自身がどんなに頑張っても、報われない可能性もあります。

 でも「新人への教育の時間を週一回は設ける」「朝出勤したら、今日の予算をどうやって達成するか確認する」だったらどうでしょうか?

 自分が店長に昇格するための行動目標まで落とし込めば、自分がやるか、やらないかだけです。これなら結果的に店長に昇格できるような能力がつき、目標である自身のキャリアアップにもつながるのではないでしょうか。

 私は、仕事への動機が不純なものでも構わないと思っています。それは、私自身が最初は乗り気でなかった仕事でも、やっていくうちに自分なりの楽しさを見つけたり、結果を出して人に喜ばれることで身に付いた能力も何度もあるからです。

 誰もが語り継ぐような感動接客や、皆が憧れるキャリアアップは、正直なところ、誰にでもできるものではありません。時間やキャリア、運、タイミングも関わってきますし、誰かが行った特別なエピソードはそう頻繁に再現できるものでもないからです。

 でも、去年の自分よりも少し良い理想の自分に近づくことなら、誰にでもできるはずです。今の自分に不満がたくさんある人は、もっと化ける可能性を秘めています。昨日より今日、去年より今年、そうした小さなカイゼンの積み重ねが個人の才能を磨き、ひいては企業や業界の成長・魅力にもつながっていくのだと私は信じています。

 皆さまの2020年の仕事が、飛躍の年となりますように。本年もどうぞよろしくお願いいたします。