「持参自消」によって農業と地域社会を結ぶ

市民農家で余った野菜を店内で無料提供している

「里山トランジット」が特徴的なのは野菜の調達である。輸送コストをかけないようにして、周辺の農家から週に2~3回野菜を持ってきてもらう。季節ごとの播種(はしゅ)計画をあらかじめ受け取り、それに基づいてメニューを開発。大久保氏はこの仕組みを「持参自消」と名付けている。

 この地域には、プロの農家ではないがリタイアしてから市民農園で野菜をつくっている人々が多くいるが、その農園では(プロの農家と異なり)時期をずらした播種をしていないため、農産物が一気にでき過ぎてしまうこともある。そこで自分で食べ切れない場合は、人にあげるか、それでも余る場合は捨てることになる。

 そこで考えたのが、2019年の5月から行っている「里山リサイクル」という取り組みだ。市民農園の脇にかごを置いて不要な野菜を入れてもらう。それを店内の入り口近くに置いておき、それを食べてみたいと思ったお客さまが自由に持っていくという仕組みである。

 これら野菜の流通は、前述した藻谷氏による里山資本主義の解説の通り。同店はオープンして丸1年が経過して、ユーカリが丘のコミュニティのハブとして定着している。

「里山トランジット」の展望について、大久保氏は「これは地域に合わせたファミレスですが、これから1年間ほどかけてブランドとして完成させたい」と語る。

「店舗展開は、全て自社が行うのではなく、このような店を展開したいという地域社会に深くコミットしていて見識があるオーナーにお願いしていきたい。これらの人々との連合を強くしていき、新しい飲食事業を模索していきたい」

 この発想はまさに里山資本主義に通じるものだ。この対極にある概念である「マネー資本主義」によって業界をけん引してきたのはチェーンストア理論だが、これとは明らかに異なるフードサービス業が描かれつつあることを感じた。