アプリ:リアルチャネルの刺激に、企業内外のつながりも強固に

 

 ふくやは、2018年にヤプリ社のプラットフォームを用いて開発を行い、アプリをリリースしました。オンライン通販開始時と同様、明太子という単品が主力商品であり、かつ中心となる顧客層が年配者である中堅企業では、比較的早い導入といえるかと思います。

 アプリ経由での流入はCVRが高いといった効果は既述の通りですが、本稿ではアプリというデジタルチャネルを設けたことで、リアルチャネルの刺激になったことを紹介します。

 ふくやのアプリは「スタンプラリー」という機能を実装しており、ふくやでは今まで関連店舗を回るスタンプラリーの他、地元福岡でのウォークラリーイベントや商店街での同様のイベントを開催しています。

 アプリをリリースした企業はDL数、インストール数を気にするかと思いますが、イベント参加者の半数がアプリをインストールしたり、日頃来ないような客層がスタンプラリーをきっかけに来店をしたり、という効果があったそう。ふくやの担当者は、「アプリでのスタンプラリーのような企画は『広く浅く』よりは『狭く深く』の方がよいかも」と仰っていました。

アプリは現実世界の行動範囲と親和性が高い

 アプリは基本的にデジタルチャネルと考えられますが、既存事例でGPSやWiFiなどを活用してアプリ経由で顧客にアプローチする方法がしばしば語られるように、持ち歩くスマホの中に入っているということを考えると、現実世界の行動範囲と親和性が高いといえそうです。

 それがふくやでは、地域イベントや商店街という「企業の外」においてコネクションや関係性が形成されていっているという点が非常に興味深い点です。大都市圏ではなかなか実感が難しいかもしれませんが、これは「山笠」といった地元の祭りなど伝統的なコミュニティが受け継がれ、人付き合いが密な福岡などの地方都市ならでは、ともいえるでしょう。

 さらに、ふくやではアプリ導入後にこうしたスタンプラリーのイベントを行っていったことで、社内外から幾つもの企画の声が上がり、社内にも良い効果をもたらしているそうです。地域を限定するリアルチャネルであるが故に、企画も上がってきやすい、考えてみたくなる、地域にいる自社以外の企業との接点となるといった点は、アプリを自社顧客のみとのコミュニケーションチャネルと考えていると出てきにくいでしょう。

 商業施設のアプリがテナントと連携する例なども見られますが、ステークホルダーや地域との接点ともなり得るといった、幅広い視点を持っていると良さそうです。アプリでの継続的な情報発信や企画を考えていらっしゃる方々もいると思いますが、そうした自社に限らない、デジタルであるけれども幅広いコンテンツ作りが、ブランド・コミュニケーションにもつながっていくのです。

 今回、地方の中堅企業としてふくやのオムニチャネルを取り上げました。一朝一夕にまねがしにくい企業文化的な側面や、地方・地域といったことはなかなか全国規模、都市部の大企業には応用しにくい面があるかもしれません。しかし、オムニチャネルは大企業だけのものではもちろんありませんし、その実現が社内外、地域とのつながりにもなり得る点などが、多くの企業にとって何かのヒントになればと思います。

 


 

[i] 川原健(2013)『明太子をつくった男―ふくや創業者・川原俊夫の人生と経営』,海鳥社.

[ii] 坂本光司(2016)『日本でいちばん大切にしたい会社5』,あさ出版.

[iii] 八塩圭子(2016)「中小・中堅企業の発信力の研究 ~明太子の「ふくや」の事例を通して~」,『学習院大学 経済論集』,第52巻第4号,pp.157-173.